16匹 蛇視点
屍蛇が、この地には来たのは、自らの望む一生を送る為だった。
皇帝となった兄の第一皇子は、宮廷に残り自分の補佐をしてほしいと懇願してきたが、屍蛇は頑として首を縦に振らなかった。
彼は、ウララと出会い、鳥族の自由な生き方に触れ、ここを離れたいと考えていた。
宮廷では、陰謀と裏切り、肉親同士での殺し合いが日常茶飯事だった。そんな場所で生きることも、皇帝の座にも興味がなかった。
屍蛇は、ウララやエナガ、鳥族の生き方に、どうしようもない憧れを抱いた。
彼にとって、ウララは自由の象徴だった。
ここではいない、遠い地で暮らす。
ウララと共に。
屍蛇は、そう決めた。
その為に、父である前皇帝の喪が明けてから、玉鋼へと移った。
「ウララの父に、私が婚姻相手を探しているが、見つからずに困っていると、それとなく伝えて欲しい」
屍蛇は宮廷で働く、数少ない鳥族を呼び出し、頼んだ。
実際、腐っても皇族なので、それでも娘を嫁がせたいという申し出は沢山あった。
屍蛇は、そのすべてを断っていた。
玉鋼は、女性が喜んでくるような土地ではない。
南西の端、一昔前は未開の地。
自然が険しく作物は実るが住むには厳しい所だった。国境では争いも絶えない。
屍蛇は、ウララに好かれている自覚があったが、好きだけではどうにもならない事も分かっていた。
なので「ウララは、来てくれるだろうか」と腹心の狼獣人に不安を吐露した。
狼獣人の彼は、この作戦のために、数年前から前科持ちを装い、鉱山で働いていた。
しかし、本当は良い家柄の優秀な人材だった。
「鳥族は、恋をして番を決め、一途に添い遂げると言います」
「お前たち、狼と同じだな」
「私たちよりも分かりやすく、素直なのだと認識しております」
「確かに、お前たちは一途だが、何も語らないし理解しずらいところがある」
「鳥族は、嘘をつかない。と有名です。ウララ様がおっしゃることが、そのまま真実なのではないでしょうか?」
ウララの手紙には、早く屍蛇に逢いたい。
そっちに行きたい。と堅苦しい挨拶などなく箇条書きにされていた。
今まで屍蛇が、異性からもらう手紙は、回りくどい挨拶から入っていた。
しきたり通りの言葉と形式で、殆どが書の達人による代筆だと思われた。
つまり書いているのは、中年の男性である。
大概は蝋燭の炎で燃やしたが、焚き染められた香と相まって、何とも言えない香りがたち不快だった。
しかし、ウララの手紙は、荒々しい字が、頑丈な硬い紙に書かれ、鳥の足に括りつけられてやって来た。
さすがにハゲタカが持ってきた時には、普段冷静な屍蛇も顔に出た。
「そうだな……」
屍蛇は、自身を説得するように頷いた。




