15羽
「ウララ! 目を覚ませウララ!」
羽根の付け根を思いっきり叩かれて、ウララは水を吐いて咽た。
ぜぇぜぇと喘ぐような呼吸が止まらない。
まだ、水中にいる気がして、ウララは「苦しい、苦しいよぉ」と屍蛇の腕の中で藻掻いた。
「目を開きなさい、ウララ。もう陸だ」
屍蛇が優しく語り掛けた。
ウララは、はっと目を開いた。
目の前には、望んだ人が居る。自分は、死んでなかった。
「屍蛇さまぁ……」
ウララは、震える腕を伸ばし、屍蛇の首に回し抱き着いた。
「助けるのが、遅くなってすまなかった……怖い思いをさせた」
屍蛇の手が、労うようにウララの背中を撫でた。
ウララは感極まって「ぶえぇえ」と子供の様に泣きじゃくった。
視界の端には、疲れ切った顔で歩いてくるエナガが見えた。
「屍蛇さまのせいじゃないと思いますよ、ほんとに馬鹿なんですよ、そいつ。あれです、罠に大喜びで走っていくやつですよ。まったく、どれだけ人騒がせなんだよ、信じらんねぇ」
エナガはブツブツと文句が止まらないが、その顔は安堵し、何度もウララに視線を送り、笑いかけてから、苦虫をかみしめたような顔を作った。
「へへへ、ありがとうエナガ。屍蛇さま」
ウララが、締め付けるくらい、ぎゅっと屍蛇に抱き着いた。
すると、屍蛇も強く抱きしめ返し「……無事で良かった」と少し震えた声で言ったので、ウララは驚いて離れ、屍蛇の顔を見たけれど、その時には既にいつもの余裕の笑顔だった。
そして屍蛇は家臣から手ぬぐいを受け取ると、甲斐甲斐しくウララの濡れた顔や髪を拭きはじめた。
「さぁ、医者に診てもらおう。二日も連れまわされ、崖から落とされおぼれるなんて――心配だ。冷えてしまったから風呂にも入らなければ」
「えー、それより、お腹すきました」
「あぁ、なんなりと用意するから、まずは医者だ」
ウララが、嫌な顔をしているが、屍蛇はかまわずウララを抱いて立ち上がった。
兵士の恰好をした者たちが、屍蛇を誘導し歩きだした。
屍蛇の腕に抱かれ、彼の歩みで揺られ、ウララは安心して眠くなった。
大きな欠伸をすると、屍蛇が「寒くないか?」と聞いたので「うん」と答えたつもりだったが、もうウララは意識は眠っていた。
どこか遠くで「本当に眠っただけか?大丈夫だろうか」と心配そうな声が聞こえた。




