11羽
「もう、どんなのなの⁉ 屍蛇様の好みってどうしたらいいの。おのれぇ、バズボーンめ!」
ウララは、自室に駆け込み、ありったけの服を持って鏡の前に陣取った。
豊満で知的とは、どのようにすれば良いのか、想像もつかなかった。鳥族は鳩胸だが、胸は小さい。飛ぶために、脂肪が付きにくい体質なのだ。うずらはそれでも、すこしふっくらしている方だが、哺乳類獣人の胸とは比べ物にならなかった。それに、丸みを帯びた顔と、くりくり過ぎる目では、知的な印象は出しにくい。
「うぅぅ」
頭をかかえ、服の上でゴロゴロところがっているうちに、別のことを考え始めた。
「娼館ってなにするところなんだろう。今まで読んだ物語だと、女の人が男の人にしなだれかかって、イチャイチャしながらお酒をのんで、ちゅーちゅーするところよね。え? 屍蛇さま、私と言う妻がいるのに、他の女性とイチャイチャするの⁉」
と、そこまで考えて、ウララはエナガの言葉を思い出した。
蛇族は乱婚。
「いやいや、いや。確かに皇帝になれば、後宮に奥さんが一杯だけど……え? 皇族や蛇族って、皇帝じゃなくてもそうなの⁉」
怒りに震える拳で、服の山をボコスコ、ボコスコ叩いた。
鳥族は、基本的に番になったものと、一生添い遂げる。ウララは、屍蛇がそうではない可能性を想像すらしていなかった。
(ま、まさか……私には見せてくれない求愛の舞を、屍蛇さま自ら、ベベンチョの前で踊ってるの⁉)
ホロホロと涙が溢れてきたころ、部屋の外が騒がしくなった。そして、外から女官の声が掛かった。「屍蛇様がお見えです」と、慌てたウララはありったけの服を掴んで頭の上に乗せて伏せた。
「ウララ、入るぞ……」
木製のドアが軋む音がした。静かな足音が近づいてきたので、ウララは衣類とともに床を這って後退した。屍蛇が、ぷっと笑ったのを感じ取って、ウララの怒りは頂点に達して、服火山を噴火させて立ち上がった。
「屍蛇さま!こんばんは」
「あぁ、今日も麗しいな、我が妻よ」
一瞬、えへへ、そうですかぁと言いかけて、気を取り直した。
「あの、お聞きしたいのですが」
「なんなりと」
屍蛇は、落ち着いた様子で頷いた。
「えっと、その、屍蛇さまは、7日毎に夜、お出かけするじゃないですか」
「あぁ、仕事だ」
「娼館で⁉」
「あぁ、そうだ」
まったく焦る様子もなく、ぶれる姿勢もない屍蛇にウララが困惑した。
(そう言われたら、もうどうしようもなくない⁉ でも、でも納得がいかない。私の魂が叫んでるの!)
ウララの羽根が静かに羽ばたいている。
「私は、屍蛇さまが大好きですけど、屍蛇さまはどうなんですか⁉」
結婚して、すでに半年。まだ一個も卵を産んでいない。
「私も、同じ気持ちだ」
「じゃあ、踊ってください!」
「んっ?」
屍蛇の眉が上がった。ぎこちない笑顔で固まった。
「私は、今、屍蛇さまへの愛を伝えたい、表現したい、踊りたいって気持ちです。さぁ、一緒に踊ってください!」
ウララは、屍蛇の周りで踊り出した。
屍蛇はウララの求愛の舞を見えていると、笑いを堪えるのに苦労する。真剣な分、とても面白い舞になっているのだ。
しかし、屍蛇は耐えた。手のひらに爪が刺さるほど体に力を入れて。
鳥族にとって求愛の舞を笑われるのは、死を選ぶほどの事だとエナガから聞いていたからだ。
「どうして、目を逸らすの⁉」ウララは踊りながら問いかけた。
「……っ」
「どうして、何も言ってくれないのぉ」屍蛇は、口を開いたら、笑いが堪えられる気がしなかった。
「どうして、踊ってくれないのぉ」ウララの踊りは熱を増して弾けている。
「……」
屍蛇は、踊るのだけはどうしても嫌だった。
仕方なく、ウララの腰を引き寄せ、その場で少し回った。
「し、屍蛇さまぁ!」
ウララの顔が喜びに満ち、笑いながら涙を浮かべていた。
その顔をみて、屍蛇の頬も緩んだ。
「すまない、ウララ。蛇族は、手足を意味なく動かすのに向いていない」
「そ、そうなんですか。確かに、ないですもんね。じゃあ、あの……蛇族は乱婚だって本当ですか?」
ウララの質問に、目を見開いた屍蛇だったが、すぐに優しく微笑んで「他は知らないが、私は違う」と答えた。
「君ほど興味深い人はいない」
「好き?」
「そうだな」
屍蛇の答えに満足し、ウララは飛び上がって、口づけた。
「じゃあ、踊りましょう」
「いや、それよりも、君の歌が聞きたい」
屍蛇は、飛んでいるウララを抱き寄せて、拘束するように膝の上に乗せて座った。
「うん、わかった。最近、鉱山で流行ってるっていう歌、歌ってあげるね」
「ほう」
「恋人同士が、逢瀬の待ち合わせ場所を歌にしてるんだよ、きっと」
とてもロマンチックだよね、と屍蛇の胸に頬を寄せるウララだったが、屍蛇の顔は険しい。
「歌ってるの皆、おじさんだったけどね」
「聞かせて――」
屍蛇の目は、怖いくらい真剣で、ウララはドキドキして最初の声が上ずった。
(屍蛇さまが……過去いちばん、真剣な顔で聞いてくれている――いつもは、ちょっと眉毛が八の字になって笑ってるのに。おじさんたちありがとう!)




