10匹 蛇視点
玉鋼での任務は、順調に進んでいた。
屍蛇は、この地の反乱分子を鎮圧するため、組織の内部崩壊を狙っていた。
そのために、先行して作らせた娼館で、彼らは本当によく内部の話を漏らしてくれていた。敵であるのに心配するほどだった。
「やっと手に入りそうだな」
「はい、最後まで気を引き締めて参りたいと思います」
諜報員として、十二分な働きをしている、バオズに今日も謝礼を渡した。
もちろん、活動経費からでている。もうすぐ、隣国の大臣が、反乱分子と密約を交わした証文が手に入る。
「本当に、罠にかけられているのかと心配になるほど、お粗末すぎて……逆に恐ろしいものだ」
「そうですね。なぜ彼らは、あちらの言い分を信じるのでしょうか。どさくさに紛れて鉱山を手に入れたいだけなのに……」
「彼らの闘争本能は、別の場所であれば活かされるのだが……」
屍蛇は、口元を覆い、敵の未来に思いを馳せた。
殺してしまうのは簡単だが、どうにかして使えないものか。
考えこみ始めた屍蛇に、バオズが酒を注いで差し出したが、彼は決して手を付けない。
今まで一度たりとも、ここでは水すら口にしない。いや、ここ以外でもバオズが彼の飲食する姿を見たことがなかった。もちろん、着衣を緩める姿も。
笑った姿も、怒る姿も見たことがない。
屍蛇は、体温を感じさせない、無表情が常だった。
「そういえば、お后様がいらしていたそうですね」
「……」
屍蛇の瞳が動いた。
「入らずにお帰りになったようですが……」
屍蛇の眉が寄っている。
鳥族は、数が少ない上に、あまり他の民族と住処を共にしない。
玉鋼の民たちは、初めて見る鳥族に興味津々だった。
そんな視線に、ニコニコと手を降るウララは、彼らが思い描く、可愛らしくて少し愚かな鳥族のイメージそのものだった。皆が、上から目線で彼女を歓迎し、空を飛び交うウララを楽しそうに目で追った。
「お后様のお陰で、身を隠しにくくなった隣国の諜報員たちは活動を控えています。空から見れば丸見えということも多いですから」
「あぁ……」
さらに口を開こうとしたバオズを制するように、屍蛇が腰を上げた。
「お帰りですか?」
もう用は無い、とばかりに屍蛇は彼女に視線も送らず立ち去った。




