第246話 :泥濘のカルテル 〜死神の号砲と、桜田の傲慢〜
本日最後です
霞が関・運輸省の局長室。
千葉県を脅迫し、見事に成田の強制収用を成し遂げた運輸省の局長と、警視庁公安部のトップが、勝利の祝杯を上げていた。
「これで成田の利権は我々の独占だ。天下り先も未来永劫安泰ですよ」
二人が下劣な笑いを交わした、まさにその瞬間だった。
ジリリリリリリリリッ!!!!
局長室の直通電話が鳴り響く。そして同時に、部屋のドアが勢いよく開き、顔面を蒼白にした部下が転がり込んできた。
「きょ、局長ッ!! 大変です!! 我々が成田の工事を発注する予定だった『大手ゼネコン5社』の本社に!! 今この瞬間、国税庁査察部が一斉に強制捜査(ガサ入れ)に入りました!!!」
「……は……?」
局長の葉巻が、床に落ちた。
震える手で受話器を取ると、向こうから聞こえてきたのは、ねっとりとした、人を徹底的に見下すような若いエリート官僚の声だった。
『……やあ、運輸省の皆さん。泥遊び(強制収用)は終わりましたか?』
「き、貴様は……大蔵省主計局の……桜田審議官ッ!!」
電話の主は、大蔵省のドン(事務次官)の忠実な猟犬であり、霞が関で最も鼻持ちならないと悪名高い男——【桜田】であった。
「て、てめえ……! 大蔵省の越権行為だぞ! すぐにマルサの猟犬どもを引かせろ!!」
激昂する運輸省の局長に対し、桜田は受話器の向こうで、クスクスと下品に嗤った。
『引かせる? 冗談を。君たちが懇意にしているゼネコンどもは、莫大な不正経理を行っていた。国家の税務を司る我々が、インフラという聖域の【大掃除】をしてあげているだけですよ』
「ふざけるな……ッ!」
『ふざけているのは君たちの方だ。……いいですか、運輸省の豚さん。君たちは地方自治体を脅して「ただの泥の広場(土地)」を手に入れた。だが、そこに滑走路を敷くための【莫大な国家予算】の財布を握っているのは、我々大蔵省だ』
桜田の声が、絶対零度の死刑宣告へと変わる。
『成田空港拡張事業の予算は、本日をもって【無期限凍結】とする。……カネの出ない泥の広場で、せいぜい公安と二人で仲良く土遊びでもしたまえ。ああ、それと……特捜部が君の「個人口座」にも興味を持っているようだから、夜逃げの準備はしておきたまえよ』
ツーツーツー……。
無機質な電子音が、局長室に響き渡る。
***
同刻。大蔵省の桜田審議官の個室。
桜田は、勝ち誇ったように受話器を置き、ソファに座る五代に向かってドヤ顔で言い放った。
「……いやぁ、五代さん。見ましたか、あの運輸省の豚の慌てふためく声を。マルサと予算をチラつかせるだけで、あのザマです。やはりこの国を動かしているのは、我々大蔵省……いや、この私(桜田)ですよ」
ドン(事務次官)の威光を自分の力だと完全に錯覚し、醜く高笑いする桜田。
五代は、そんな桜田の底の浅さを内心で見透かしながらも、表面上は完璧な、そしてどこまでも恭しい「忠実な商人」の笑みを浮かべた。
「ええ、お見事です、桜田審議官。まさに霞が関の……いや、国家の頭脳だ。……ところで、この大勝利の祝賀会ですが。今夜は新宿に、**『極上のしゃぶしゃぶ(ノーパン)』**をご用意しておりますよ。勝利の後の肉は、さぞかし美味でしょうから」
「おお! さすが五代さん、話がわかる! いやぁ、運輸省をミンチにした後に食う肉は、たまらんでしょうなぁ! ガハハハッ!!」
「そして……その美味しいお酒の席で、少しばかりご相談が。例の『成田への相互直通運転』の認可と、追加の予算枠の件ですが……」
「わかっている、わかっているとも! 君には過激派の泥かきで世話になったからな! 予算の枠など、私が一声かければいくらでも広がる! 書類を持ってき給え、全部私がハンコを捺してやる!」
国家のドン気取りで、予算と権力を湯水のように使うことを約束する桜田。
五代は、深々と、誰よりも美しく頭を下げた。
「……ありがとうございます。我々は、桜田審議官に、一生ついていく所存でございます」
頭を下げた五代の口元には、冷酷な捕食者の笑みが張り付いていた。
(……ええ、存分に威張ってください、桜田審議官。あなたという【最高に便利な打ち出の小槌】がすり減って消えてなくなるまで……我々が、骨の髄までしゃぶり尽くして差し上げますよ)




