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第五十三話 「余り者部隊」

 

 再び女医にシトラを預けに行こうとした所、心配だと言うことで、ロメリアも俺に着いてくることになった。おぶさるシトラを心配そうに見つめる姿、本当にシトラを大事に思ってるのを強く感じる。


「ロメリアはこれからどうすんだ? 自分の国もあるんだから、シトラに付きっきりってわけにもいかねぇだろ」


「……そうだね。スーを送り届けたら一旦アルストに帰るよ。ウチの子たちも心細いだろうから」


「そうか。あぁそうだな。そうするといい。レオンにもよろしく言っといてくれ」


「軍のことは良くわからないんだけど、マサヒロもすぐ戦場に向かうのかい?」


「さてな。バルカンの機嫌次第だろ」


「……もう。バカなことしちゃってさ。同盟結ぼうとしてる相手とケンカなんて」


「まったくだ。我ながらついカッとなっちまった」


「……でも、ありがとね。少し嬉しかったよ」


「――おう。いいってことよ」


 診療所に着き、シトラのことを女医に預けると俺とロメリアもそれぞれのやるべきことをするために行動に移る。


「じゃ、あたいは一旦帰るから。出発が遅れるようなら今夜はアルストにきなよ。部屋の一つや二つ自由に使っていいからさ」


 言葉では送り出そうとしてくれているが、ロメリアの手は強く俺の腕を握り締めていた。

 もしかすると、これが最後になるかもしれない。彼女はきっとそう考えている。そう、俺はこれから戦争をするのだ。たくさんの命がぶつかり合い、また失われていく壮絶な場所へ。

 俺は掴まれているロメリアの手に自分の手を重ねながら、笑ってみせる。


「最初に会った時は狂暴そうな女だと思ってたが、すっかりしおらしい女の顔しやがって」


「しょ、しょうがないだろっ。負けたら死んじゃうんだよ? そうやって笑ってるあんたが変なのよ」


「二つだけ言えることがある。一つは俺が英雄になる男だってことだ」


「……もう一つは?」


「報酬の半分をまだ貰ってねえ。それを貰うまで、俺は死なねえよ」


 ロメリアは不安げだが、それでも少しだけ笑い手を離してくれる。


「……わかった。待つからね。絶対帰ってきて。それであたいを抱いて。約束だ」


「おう。約束だ」


 ロメリアは振り返ることもなく走り去っていった。

 空を見上げ、息を吐く。約束を果たす為にも、俺もバルカンの野郎と話をつけてくるか。両手で頬を叩き気合いを入れる。さあ、戦争の準備だ。俺は繋いでおいたファヴに飛び乗り、一路バルカンの王国、傭兵国家に向かうのだった。

 

 自由都市の国家間は然程離れておらず、それぞれ馬の脚で三十分ほどの距離にあり、ファヴの飛行速度だと時間は半分とかからず到着した。上空を旋回しながら地面を見下ろすと、夥しい数の騎士の群れが戦場となる近郊の平原に出陣しているのを散見できる。仕事が早い。バルカンの野郎がきっちり統率しているのだろう。いま出陣しているのは多分先行部隊。バルカンはまだ国に残ってるはずだ。俺は傭兵国家バルカンを見渡しひと際目立つ城に目を付ける。あれだな。あそこにあいつはいるはずだ。俺は手綱を引き、バルカンの城と思しき建物に降下した。

 城の敷地内に降り立つと、どこもかしこも忙しそうに走り回る兵士たちでひしめいている。最初こそ俺とファヴの登場に驚き手を止めていたが味方だとわかるとすぐに仕事に戻る兵士たち。俺は適当に一人捕まえバルカンの居所を聞き出す。


「ちょいとすまないね、そこの君。俺は援軍に来た者なんだが、バルカンがどこにいるかわかるか?」


「バルカン将軍なら、いま幕僚の方々と軍議の真っ最中だ。邪魔すると、斬り捨てられるから行かない方がいいぞ?」


「忠告どうも。でもよ、俺も用があるんだわ。その軍議を開いてる場所を教えてくれ」


「どうせなら戦場で死んだほうがましだと思うが……。まあいい。場所はな――」


 兵士に聞いた作戦会議室は城の三階。ファヴを適当な所に繋いでおき、作戦会議室に向かった。城内も慌ただしい様子で、すれ違う奴らが肩をぶつけながら駆けずり回っている。廊下を歩くのにも苦労しながらようやく三階に上がると、一つの扉の前で言い争う男たちが目に入った。

 なんだありゃ? 喧嘩か?

 周りでその様子を見ていた者に俺は尋ねてみる。


「どうした? なんかあったの?」


「ん? ああ、なんか志願兵の奴らがバルカン将軍に直談判しにきたみたいだぜ。いま幕僚の方が対応してるが、そろそろ限界だろうよ。いまに見てろ、あの小僧達斬り捨てられるぞ」


 直談判に来ていたのは二人の若い少年だった。まだ十代半ば程の幼さを残す、若き少年兵。

 つか、直談判ってことはあの扉のとこが作戦会議室か。ラッキーだぜ。やっとバルカンの野郎に会える。

 俺は言い争う三人の間を潜るようにして――


「よっと、ちょいと失礼しますね~」


「……ッ! なんだ貴様ッ?! もしやこ奴らの仲間だろう?! 通さんぞ!!」


 剣を抜き俺に切っ先を向けてくる。

 怖いっ! 怖いよこのおっさん。すぐ喧嘩腰だもん。戦の前からこんなに荒れちゃって、どうしたもんかとお手上げ状態だったその時。隣にいた少年がぼそりと呟いた。


「……めんどくせえ」


 次の瞬間、少年はなにを血迷ったのか、拳を振り抜き幕僚の男を扉ごと作戦会議室の中に吹き飛ばしてしまったのだ。俺は唖然としながらも様子を見守る。いま殴り掛かったこの少年兵、その目つきはまさに狂犬。獰猛そうな吊り上がった目に、野性味を思わせる八重歯。なかなかの悪ガキに見えた。

 作戦会議室からピリピリとした空気が伝わってくる。……やばいよやばいよ。フィヨンドとの戦いを前にここが戦場になっちまいそうだ。


「バルカンってのはどいつだ?」


 悪ガキは怯むことなく堂々と部屋に入っていきながらバルカンがどいつか問いただしている。残されたもう一人の少年兵は俺に話しかけながら、歩を進める。


「我々も行きましょう。あなたも志願兵ですよね? 同行させてもらえるように一緒にお願いしましょうか」


 にこりと笑う顔は無邪気で可愛げがある。こっちの少年兵はさっきの悪ガキと違ってとてもかしこそうな顔付だった。それにその一つ一つの動作、どれもが美しいのだ。育ちが良いのが一目見ただけでわかってしまう。おおかた、地方貴族のボンボンかなにかが親に反対されて、諦めきれずに無理矢理バルカンに直訴しにきたって感じか。

 ボンボンを観察しながら頷き、後に続く。が、作戦会議室内に入った瞬間怒号の嵐だった。


「無礼者ッ! ここは貴様らのような下賤の者が立ち入れる所ではないぞッ!」

「殺せッ! 殺してしまえッ!」

「軍議の時間を邪魔しおって……ッ! 万死に値するぞ童ッ!!」


 怒号を浴びせられる少年はそれでも歩みを止めず、部屋の中央に置かれた円卓の前に立つ。そして、怒号をかき消すようにその円卓を叩き割った。


「うるせえ。ごちゃごちゃといっぺんに言われても聞き取れねえだろアホう。オレはバルカンがどいつか聞いてんだ」


 少年兵とは思えない迫力に静まり返る幕僚たち。

 「ふっ」と笑いを零しながら、綺麗に装飾された椅子に座る男が立ち上がる。


「俺がバルカンだ」


「あんたがそうか。頼みがあんだよ」


「言ってみろ」


「オレを軍の中心に添えろ。そんで、フィヨンドを狩らせろ」


 唖然。まさにその一言。その場にいる者は一瞬だけ戸惑い、次の瞬間には爆笑が起こった。

 次々に少年兵を小馬鹿にした声が上がり始める。


「おい誰だ? 道化師を呼んだのは」

「ぶはは! 余興としては面白いが、軍議の時は控えさせろ」

「狩られるの間違いではないか? ま、若さ故の驕りは自分にもありましたからなあ」


 バルカンも失笑を零しながら、少年兵の要求に答えを返す。


「童、貴様は志願兵だろ? そして初陣と見える。ならば一から、すなわち兵卒から始めろ。功を欲するのは同じ男として理解できるが、段階を踏んで来い。わかったならとっとと失せろ。外に志願兵の隊があったはずだ。そこに加われ」


「はっ? ふざけんな! オレは軍の中心つったろうが。将軍にしろってんだよ!」


「黙れ童ッッ!!」


 突然のバルカンの怒鳴り声。ついに怒りを露わに少年兵を恫喝する。


「笑って済ませてやれば付け上がりおって! まだ毛の生えそろった間もないガキが将軍だと? 笑わせるなよ童がッ! 戦争はチャンバラごっこじゃねえんだよ。殺し合いをするとこだ。貴様のような生意気だけが取り柄のガキ、将軍に入り込む余地はねえ。目障りだ。命は取らん、今すぐ消えろ。後ろの二人もだ。とっとと……あん?」


 ばっちり俺と目が合うバルカン。

 なんでお前が? みたいな顔してるのが微妙に笑える。つか、急に始まった怒鳴り合いに俺も固まっちまってたわ。まぁ、いまのはバルカン言ってること割とまともだったけど。


「てめえ……何の用だ? 冷やかしかコラ」


「おい、話は終わってねえぞ!」


「黙っとれ童! いまはシルフヘイムの将軍様と話してんだ。なあ、竜に乗るマサヒロさんよぉ」


 バッと一気に視線が俺に集中した。

 ざわざわと騒がしくなる作戦会議室内。いま大陸では二人のシルフヘイム人の名が轟いている。一人はシャノン。苛烈と冷酷を併せ持つ神算鬼謀の軍師。一つの町を住民とラングヴィ軍と共に灰燼と化した最恐の軍師。そして、もう一人。それが俺だ。シルフヘイム最後の将校にしてアークガルドに抵抗する軍の大将。そして、伝説の再誕と噂される竜を使役する男としてその名が大陸に浸透しつつあったのだ、

 その俺がここにいるというのは彼らにとって結構な衝撃だったようで、皆固まってしまっている。いつの間にやら、俺も有名人になったもんだと思いながら、俺はバルカンの問いかけに返事をする。


「冷やかしじゃねえし、喧嘩しにきたわけでもねえ。さっきのことは俺に非礼があった。詫びるよ」


 バルカンは素直な謝罪に面食らったように、慌てながら――


「ふ、ふんっ。急に尻尾を振り出しおって。情けない奴だ」


 我慢。我慢である。


「で、話があってきたんだが、どうだ? 降伏派は取り込めたか?」


「あん? 何故貴様にそんなことを教えにゃならん? お前も失せろ。おお、ついでにガキ二人も連れてけよ。邪魔臭ぇんだよいい加減」


 うーん深呼吸深呼吸。落ち着けよ俺。ここでキレたら余計話が拗れる。というわけで、もうめんどうだからここで切り札のあの作戦でいこう。バルカンを一発で黙らせることができるとっておきの切り札を。


「シトラにチクっちゃおうかな……」

 

「なっ……っ?!」

 

 THE他人任せ! 結局シトラの名前出しゃあこの山賊野郎は俺に逆らえないことはもう把握済みなんじゃいボケコラぁ!

 俺はにやにやしながらクソが詰まったようなアホ面のバルカンの顔を覗き込みながら続ける。


「すまんすまん。いまのは独り言だから気にしないでくれ。で、バルカン。俺も手を貸してやる。だから、軍に組み込め。あとついでに兵士を何人か付けてくれれば、俺が口を滑らせることもないんだよぁ!」


 バルカンの幕僚達は話が見えず混乱しながら静観しているが、当のバルカンは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。てめえはチワワかボケい。

 バルカンは俺に親でも殺されたかのようなおっかない顔で、ただぼそりと一言……。


「……認める」


「え? なんだって? よく聞こえんな~?」


「~~っっ! 認めると言ってるのだ! 貴様の従軍を!」


 ま、これでロメリアに対する侮辱の制裁も十分だろ。

 俺は拱手し、頭を下げる。


「感謝するぜ、バルカン。一応、この戦では仲間だ。仲良くとまではいかなくとも、協力し合おう」


「もういい。静かにしてろ。軍議を再開する」


 俺の分の席も用意され、軍議は再開された。

 ちなみに、先程の少年兵二人はバルカンの指示で別室に移されどうなったかまではわからなかった。狂暴そうな方はやる気はあるんだけど、如何せん協調性に欠けてるのが問題だよな。いやね、やる気は買うけど。ああいうのの上官務めるのは骨が折れそうだ。ま、俺には関係ねえけど。


 軍議の内容を聞きだいたいの現状を掴むことができた。

 降伏派に使者を送った所、難なく協力するとの返答があったそうな。まぁ当然の答えだな。一番に殺されるのはフィヨンドに目を付けられた降伏派なのは間違いない。上空に居ても聞こえてきたからな、フィヨンドの怒声。

 降伏派の参戦により、こちらの総戦力は十万にのぼるとのこと。軍は四つに分割され、第一・第二・第三は出陣し、戦場となるフィヨンド軍の撤退した方角に進軍中。俺やバルカンは最後の第四軍に編成され、最後に出陣となる。

 対するフィヨンド軍はおよそ三万程だという報告だった。最初布陣した近郊の平原より陣を下げ、いまは場所を移し布陣しなおしているそうだ。数では圧倒的優位。しかし、相手は彼の四騎士。侮ると逆にやられちまう。

 

 バルカンを筆頭に幕僚達が意見を出し合い、作戦の大枠を決めていく。だが、先程言った通りこちらの圧倒的数の優位がある。小細工や、奇策は必要ないというのが全員の総意だった。つまり、横陣をしき、正面から力でねじ伏せる。

 俺もこの作戦には賛成だった。多数で少数を討つ、戦争の基本だ。勝つか負けるかは始まってみなければわからないが、よっぽどのことがない限りこちらの負け筋がないように思えた。

 軍議は滞りなく済み、突貫とは言え戦争の準備が完了する。あとは、戦場に赴き敵の大将を討つだけである。

 軍議を終え、すぐに移動が開始され城の外に出る。するとそこには第四軍が待機し今か今かと出陣を待っていた。第四軍の総数約一万。この第四軍には精鋭が揃えられ、リベンタ連合軍の最高戦力の軍だそうだ。そこから兵を借りられるんだから、楽しみで仕方ない。

 ウキウキの様子で待っていると幕僚達を引き連れたバルカンが近付いてきて、満面の笑みで俺に話しかけてくる。

 ……なんか嫌な予感が。


「貴公に兵を貸すという約束を果たしに来てやったぞ。喜べ」


 貴公ときやがった。この野郎、まさか……。


「突然の参戦ということで、どこに組み込めばいいか悩んでしまってな。すぐには思いつかなんだ。だから、いっそ新しい部隊を作ってしまおうと考えたわけだ。これは栄誉なことだぞ、マサヒロ殿。貴公には特殊遊撃部隊の隊長を任せようと思う。あちらを見よ」


 バルカンの指差す方に目をやると、そこには百ほどの兵が集っていた。

 つか、気のせいじゃなけりゃさっきの悪ガキとボンボンの姿もあるんだが……。


「彼らは我が軍の中でも将来性に溢れた、金の卵だ。竜を屠り、竜を使役する貴公の手並みで彼らを教育してやってくれ」


 俺はまじまじとバルカンの寄越した兵達を見てみる。

 うん、なんか見ただけで弱そうだあいつら。腰曲がった爺さんみたいのもいれば、お前走れんの? ってレベルの巨漢、立ちながら寝てる緊張感の欠片もない長い髪と髭を蓄える仙人のような奴、そして先程の悪ガキとボンボン……。ぱっと目に付くだけでバラエティー豊かなメンツだコンチクショウ。

 バルカンは俺の顔を覗き込みながら――


「兵の指定はなかったから、こっちで選定してやったぜ。約束通り、これでいいな」


 タダじゃあ起き上がらねえ野郎だよ。この山賊野郎は。

 俺は呆れながらも、礼をする。


「……サンキュー。ありがたく借りるぜ」


「なんなら、お前の私兵にしてもいいんだぞ! ガハハ!」


 バルカンは笑いながら去っていってしまった。

 うし、とりあえず後でシトラにチクるの確定。こってりと説教してもらうとして。

 まずは部下達に挨拶だよな。めっちゃ気分乗らねえけどな! 

 俺は少し重い足取りで、新たに出来た百名程の部下達に歩み寄っていくのだった。


 


 




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