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第二十七話 「芽吹く花」


「私は、なにも知らなかった。ずっと城の中で暮らしてたから、世界の事だけじゃなくて、自分の国の事すらなにも知らなかった。城での生活に不満はなかったけど、どこか退屈でもあった。たまに、正室のお義母様とかお兄様たちから嫌がらせされることもあったけど。これは、まぁいっか。

 それでね、ある時お見合いの話をされたの。正直、またかって思った。散々断ってきたから、断ることが難しくなってきちゃってさ。もう逃げ場がないって思った。だから、飛び出したの。無我夢中で走ってさ、気付いたら城下町の中心まで来ちゃってて、我ながら向こう見ずだなぁって思った。でもね、その時は違う感覚に気を取られたの。いつも見てた城下町は、馬車に乗って眺めてるだけの景色だったから、自分の足で立って、町の人々と同じ高さの目線で見るのはこの時が初めてだった。町の景色は、いつもと全然違って見えた。とにかく目に映る全部が輝いて見えたの。

 すごいんだよ! 町中まちなかで大道芸してる人とか、道の脇にズラーってお店が並んでて美味しそうな食べ物がたくさんあって、あ、でもその時はお金がなくてなにも食べられなかったんだけど。それからそれから、皆私にぶつかってきたりするの! これ結構ビックリしたのを覚えてる。城の中ではさ、私を見つけるなり皆立ち止まっておじきしながら通り過ぎるのを待ってるでしょ? 町の中では、ただ歩いてちゃダメなんだ! ってその時学んだ。人の流れを見ながら縫うように歩かないといけない。町の歩き方もわかって、よし探検だー! って思ってたのも束の間、城から私を連れ戻しに騎士たちが追いかけてきた。慌てて逃げて、あっちいったりこっちいったりでもう捕まるって思って、目に付いた宿屋に飛び込んだんだけど、そこで危うく狼に襲われる所だったなぁ。でも、そのおかげで助かったんだけど。

 ……ダメ、ダメ! また脱線しちゃってるね。

 それから、外が暗くなってた頃に帰ったんだけど、城中大騒ぎで大変だった。こってり怒られたんだけど、お見合いの件はなんとかノアが治めてくれたから大丈夫だった。ノアとシャノンだけはいつでも私の味方だったんだ。

 それからしばらくして、ファフニールがシルフヘイムで暴れ回ってた時は、本当に驚いた。城の人たちの制止を振り切って城下町に向かって、初めてファフニールを見た時、胸がときめいたよ。こんなに力強くて、綺麗な生き物がいるんだなって。もちろん、たくさん騎士が死んじゃってすごく悲しかったし、辛かった。もうダメかもって諦めかけてた時、マサヒロが助けてくれたよね。まさか、そのままファフニールを討ち取っちゃうなんて夢にも思ってなかったけど。そんなマサヒロが、少佐になって魔界の森に行くって聞いた時は、居ても立っても居られなかった。ノアにも、ダメっ! て釘を刺されたけど、私の探求心って言うのかな。なんかそういう気持ちが抑えきれなくなっちゃって、こっそり潜り込んでやろうって。それで樽の中に身を潜めた。なんとかうまいこと潜り込めたなぁって思ってたけど、今思えば全部ノアが手引きしてくれてたような気がするな。ノアは今回の件を予測していたからこそ、私を外の世界に出してくれたのかもしれないってここに来るまでの道中考えてた。普通に考えてありえないもんね。一国の姫が護衛四人で禁断の地に行くなんて。

 初めて自分自身の足で外の世界に出てみて、誰にも指図されず、家のしきたりも関係なく、無限に広がってるみたいな大地を歩くのが、ただ楽しかったな……。夢が少しずつ叶っていくような感じだった。

 魔界の森では、猫の妖精さんたちとも仲良くなれたし。ミーちゃん元気かな。森の中は、光るキノコとか、黒く染まっていく木々とか、魔獣キメラとか、本当に本で読んだような世界ばっかりで心が躍ったの。でも、現実は物語のように楽しいことばかりではなかったけどね。死の王(ドラウグル)……。本当に怖かった。もうダメかもって何回も思った。

 ――でも、支えてくれた人がいた。支えてくれた言葉があった。今でも、ううん、死ぬまで私は忘れない。

 どんな時でも前を向く。地面を見てたってなにも転がってない。活路は前にのみあるんだ、って。これってね、戦うときじゃなくて、人生とかお仕事とかなんにでも言えることだと思ったんだ。俯いてたってなにも変わらないし、事態は良くなってくれない。苦しい時こそ、前を向いて、足を踏み出して、前進するんだって。

 ……いまはね、シルフヘイムが滅亡するかもっていう瀬戸際にいる。国民が生きているかもわからない。私以外の王族は殺されてしまった。普通だったら俯いて諦めちゃうと思う。

 でも、私は普通じゃないんだ。偉大な、シルフヘイムの王の血を受け継ぐもの。そんな私だからこそ、一番辛い時に前を向いて、なにかを成さなきゃいけないと思う。

 

 私の夢は、世界を自分の足で歩き、自分の目で見て、自分の肌で感じること。

 でも、それは帰るべき場所があってのことなの。愛すべき町並みに囲まれ、愛すべきシルフヘイムの空気を吸い、愛すべき国民(かぞく)たちと共に生きる。シルフヘイムってさ、太陽の国とも呼ばれてるでしょ? 城下町を歩いてる時にその理由が理解できたんだ。皆すんごく良い笑顔で暮らしてた。子供たちが走り回ってはしゃぐ声、屋台から聞こえてくる活気ある声、店の前で流れなんて気にせず井戸端会議始めちゃうご婦人たちの声、長椅子に座って軍盤を楽しむお爺さんの声、皆が皆とってもキラキラして、笑顔が輝いて見えた。



 そんな国を……、私は復興させたい。それが、私の答えであり、願いです」










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