【最悪の厄災】 其の2
ルークは急ぎ、ザックの元へと走る。そして、到着した時にはすでに父のザック・アシュレイと、母のオリビア・アシュレイは死んでいた。二人とも地面に倒れ、背中には大きな傷があった。おそらく、その傷が原因で二人は死んだと思われる。そして、父親達と一緒に居ると思われていたヴィクトールの姿はそこにはなかった。
「………………」
声が出なかった。足も動かない。
周囲の怒号も剣戟の音も、まるで遠くの出来事のようにしか感じられなかった。
膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。震える手で、父の頬に触れた。まだ、温かい。ついさっきまで、生きていたのだと、その温もりが残酷に伝えてくる。
「……親父……?なぁ……起きてくれよ……」
返事はない。わかっていたはずなのに、認めたくなかった。
「親父ぃぃぃぃ!母さぁぁぁぁぁん!」
声にならない叫びが、喉の奥から迸る。悲しみは行き場をなくし、そしてそれは、静かに、確かに——怒りへと変わっていった。
「……殺す」
ルークは自身の魔法、物質変化で鉄の指輪を触媒に剣を作り上げ、帝国兵に襲いかかる。
「うおぉぉぉぉ!」
ルークは目にも止まらぬ速さで、次々と帝国兵を蹂躙していく。身体が真っ二つになる者、両足が一瞬にして切り落とされる者、はたまた、首が飛び身体だけがそこに立っている者、様々な形で命をおとしていく。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「ひいぃぃぃぃ……」
積みあがる帝国兵の死体の山、目が血走り、呼吸は荒くなるルーク…………。次第に帝国兵の数は減ってはいくが、まだまだその数は計り知れない。そして、ルークの前に一人の男が立ちはだかる。
「ほぉ?やるな、お前!」
男は、年齢三十代後半で他の帝国兵とは異なる鎧を身につけ、背中には大きな大剣を携えていた。そんな男を前に、ルークは一歩も引かず立ち向かう。
「そこをどけぇぇぇぇぇぇ!」
【ガキンッ】
ルークと男の剣が互いにぶつかり合う。ルークは、攻撃を受け止められた事で、その男と距離を置き尋ねる。
「てめぇ、ただの帝国兵じゃないな?」
「だとしたらどうすると言うのだ?」
「そんなの決まってる!俺の邪魔をする奴は叩き潰す!」
「やってみろ小僧。お前に俺が倒せると言うのなら」
「言われなくてもそのつもりだ!いくぞ!」
再び、ルークと男の剣が交わる。ルークの怒涛の攻撃を男はいとも簡単に受け流す。男も黙って防御に徹するのではなく、ルークの隙をついて攻撃をする。
「どうした?その程度か?」
「チッ!少しはやるようだなぁ、オッサン!だが、俺の本気はこんなもんじゃねーぞ!」
「御託はいい、さっさとかかって来い」
「ナメやがって!うぉぉぉぉぉぉ!」
更に速度を増すルーク。しかし、相手の男と問題なくルークの攻撃を受け流す。
(くそっ!当たらねぇ……。こいつ化け物か?)
そんな事を考えながら戦っていたルークの隙を見逃さず、男はルークの腹に蹴りをお見舞いした。
「ぐはっ……」
男の蹴りを食らったルークは吹き飛び、地面に転がる。
「小僧、戦いってのは何も武器だけでするもんじゃないぞ」
「ハァ…ハァ……ハァ……」
一気に戦況がひっくり返る。先ほどは、ルークが帝国軍に圧倒してたにも関わらず、たった一人の男が現れたせいで、今度はルークが追い詰められる。
「俺相手に、よくここまで耐えたなっ。貴様、名は何と言う?」
「……ルーク・アシュレイ」
ルークは、男を睨みつけながら自分の名を名乗った。すると、ルークの名を聞いた男が、高々と笑いながら発した。
「クククククッ……あはははははっ!そうか、アシュレイかぁ………。こいつは良い!貴様、ザックの倅だなぁ?………通りで剣筋が似ているわけだ……クククククッ」
「貴様、親父を知っているのか?」
「あぁ、知ってるさ。武神のザック、帝国内でも有名だぜ?なんせあいつは、王国に属する者で唯一帝国最強と言われている俺と渡り合える人物だからなぁ!だが、奴は死んだ。何ともあっけなかったがなぁ」
「貴様は何者だ?貴様が親父を殺したのか?」
「俺の名は、レオナルド・コンティ。もし、俺がお前の父親を殺したとしたらどうする?俺を殺すか?」
「当然だ!」
「上等だ!なら、全力でかかって来い!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
そう言うと、ルークは再び自身の魔法、物質変化を使った。
「物質変化・血渦刀」
すると、左腕から流れる血がルークの左の手のひらに集まり、刀のような物に姿を変えていく。
「ほぅ?こいつは興味深いな。いいか、者ども!手を出すんじゃねーぞ!手を出した者は、構わず殺すから覚悟しておけ!」
レオナルドは大声で周りの帝国兵に呼びかける。そして、二人の近くには誰も近寄らなかった。そして、ルークがレオナルドへと攻撃を仕掛ける。
【ガキンッ】
【ガキンッ】
ぶつかり合う、剣と剣。ルークも、レオナルドもお互い一歩も譲らない。しかし、必死なルークに比べてレオナルドは、何処か余裕すら感じさせていた。
「これがお前の全力か?この程度じゃ、俺は倒せないぞ!」
「クソッ!まだだ!まだやれる!うおぉぉぉぉ!」
【ガキンッ】
【ガキンッ】
「クソッ!」
ルークは己の力を全て出し、全力で攻撃する。しかし、ルークの攻撃はレオナルドには当たらない。これが帝国最強と言われるレオナルド・コンティと言う男だ。
「期待はずれだな…………。ザックの倅がいかほどの者かと思ったら、所詮は子供…………。そろそろ終いにするぞ」
「!!!」
「炎舞・陽炎」
レオナルドが魔法を使うと、持っていた大剣が炎に包まれる。そして、流れる動きでルークを翻弄する。ルークも、負けじと反応するが、レオナルドの攻撃を全て捌く事は出来ない。徐々にルークの身体は傷が増えていく。そして遂には、立っている事さえままならなくなる。
「ハァ………ハァ…………ハァ」
「さらばだ………ルーク・アシュレイ」
「炎舞・業炎剣」
【バキンッ】
【ズッザン!】
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
地面に伏せるルーク。全力を以てしても敵わなかった。レオナルドの圧倒的力の前では、自分の力など無力だったと痛感した。そして、ここから待っていたの地獄だった。
「終わったな。者共、もういい………やれ…………」
「な…………何をする気だ…………」
「決まっているだろ…………」
一切表情を変えずレオナルドが放った言葉は…………。
「皆殺しだ」
「!!!」
「ここに残っている者全て殺す。ただそれだけだ…………」
「や………やめろ…………」
ルークは、折れた血渦刀を手に取り、再び物質変化を使おうとするが、触媒となる血を流し過ぎたため、身体が血渦刀を作るのを拒否する。
「クソッ!作れよ…………頼む、作ってくれ!俺はまだやれる!」
しかし、無慈悲にも帝国兵は次々にルークの目の前で村人達を殺していく。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
「た……た…………助けてぇぇぇぇぇ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「や…………止めてくれ…………頼む…………」
「ルーク様…………お………お助けを………いやぁぁぁ」
「ルーク様ぁぁぁぁぁ!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」




