身分の壁
午後の授業が始まり、また一つ問題が起きた。ルークの教科書は届いたが、今度はミリアの教科書が無い。そこで、教師がルークをミリアの横に移動させて一緒に見るようにとしたのだが、授業中多くの貴族男子がルークとミリアを交互に見ている。
貴族男子達は、ルークを見る時は睨みつけ、ミリアを見る時は鼻の下を伸ばしている。それもそのはず、ミリアの容姿はズバ抜けており、同性の女子生徒ですら恋に落ちてしまいそうなくらい可愛い。もちろん、姉のセレスティアは更に美人だ。
貴族男子が、ルークを睨みつける度に、ミリアのおでこの青筋は増えていくばかりだ。もちろん、ミリアが見られた時には、優しく手を振っている。彼女の心の声は、
(何でルーク様を見る時には睨みつけて、私を見る時はあんなキモい顔で見んのよ!吐き気がするわ!全員、殺そうかしら?)
と思っていた。もちろん、その様子を外の木の上で見ていたセレスティアも、自分の魔法の糸で貴族男子の首を根こそぎ切ってやろうと思っていた。
「ミ、ミリア、顔が怖いぞ?」
「そうですか?普通だと思いますけど?」
「そ、そうか…………。ならいいんだが」
そして五時限目が終わり、本日の授業は終了となる。そして、放課後になると貴族男子たちは、たちまちミリアの元へと集まりおしゃべりを始める。
ミリアはあらかじめ、セレスティアが行動しやすいように自分の隣にある窓を半分ぐらい開けていた。こうしておけば、万が一ルークに何かあった時、セレスティアも動きやすいと、あらかじめ二人で決めていた事だ。ここで、セレスティアは集まる男子一人一人に、極限まで見えなくした糸を結びつける。こうすることにより、糸を伝ってその振動で何を話しているのかを確認していた。
そして、ここから下心丸出しの貴族男子たちの怒涛の質問攻めがミリア襲う。
「ねぇ、シルフィードさん?ミリアちゃんて呼んでいい?」
「はい、いいですよ!」
「ミリアちゃんって可愛いよね!彼氏とか居るの?婚約は決まってる?」
「いえ、まだ彼氏もいませんし、婚約も決まってません!」
「ミリアちゃん、休みの日は何してるの?良ければ、今度の休み街を案内しようか?まだ慣れてないでしょ?」
「えっ?いいの?」
「もちろん!そんなのお安い御用さっ!」
「あー!お前ずるいぞ、ミリアちゃんを独り占めする気だな!そんな事は許さんぞ、俺も行く!」
「じゃ、私も行く!女子が居たほうがミリアちゃんも安心でしょ?」
「しょうがねーな!じゃ、みんなで行くか!他に行きたい奴いるか?」
一人の貴族男子が皆に聞くと、たちまち手を挙げ参加を希望する者で溢れかえる。
「なぁ、せっかくだしよ、その後ミリアちゃんの歓迎会しないか?」
「おぉ!たまには男子でもいいこと言うのね!賛成!他の子もいいわよね?」
「「「いいよ!」」」
結局、教室に残っていた貴族の生徒たち全員がミリアの街の案内と歓迎会に参加する事となった。残っている平民たちも行きたい者は居るが、平民と貴族が仲良く遊ぶなど許されるはずがないと彼等彼女等はわかっていた。すると、
「ねぇ、ルーク君も来るよね?」
みんながミリアの為に開いてくれる歓迎会に、ルークへ、ミリアがニコニコ顔で言うと、
「あ………あぁ。そうだな………暇だし俺も参加させてもらうかな………いいか?」
「………………」
ルークが参加希望を求めると、クラスメイト達の顔つきが一瞬にして変わる。
「い、いや。ダメに決まってんじゃん!?お前アホか?」
ミリアはルークが参加を拒否された事に対して、開いた口が塞がらず、間抜けな声が出た。
「へっ?」
「あのなアシュレイ、俺達みたい上級貴族とお前みたい下級貴族が仲良く遊ぶなんてあり得ないだろ?それぐらい分かれよ…………」
「あ、あの…………じゃ、私が伯爵じゃなく男爵だったら誘ってくれなかったの?」
「そりゃそうでしょ!爵位が下の者とつるんで俺達に何の得があるのさ!伯爵家だから誘ったんだよ!でもまぁ、ミリアちゃんは可愛いからたとえ爵位が男爵でも誘ったかな♪」
「私もそうかも~!ミリアちゃんと関りを持てれば、もっといろんな人との関りが持てそうな気がするわ!」
「何それ…………」
「何それって、これが現実なんだよ!上級貴族は、決して下級貴族と同等ではなく、自分より下の存在として扱うことが決められている。だから、俺達は下の下の男爵などとはつるまない。これでわかったかい?」
ミリアは、周りの貴族を見る。皆が『当たり前だ』とうなずく姿を見て、
「そう………わかったわ…………」
ミリアは席を立ち、どこかへと歩き出す。向かった先は、帰ろうとして教室のドアの所に居た、リナだった。
「ねぇ、あなた平民よね?」
ミリアの問いに、下を向き悔しさを滲ませ唇を噛みしめるリナは無言だった。そして、ミリアが強く聞き直す。
「………………」
「どうなの!?」
「そうよ平民よ!悪い!?貴方まで、私達平民を馬鹿にするの?」
「しないわ!少なくとも、私とルーク君はあなた達、平民の人たちを馬鹿になんかしない。そうだよね、ルーク君?」
「あぁ!するわけないだろ?同じ人間だ、上と下なんかあってたまるか!」
「ねっ?言ったでしょ?確かに、私は伯爵で、ルーク君は男爵。でも、貴族だからって私達は平民の人たちをないがしろになんてしないわ!」
「で……でも…………それじゃ…………」
そして、ここまで黙っていた貴族の生徒達が騒ぎ出す。
「ミリアちゃん、ダメだよ!平民なんかとまともに喋っちゃ!」
「そうよ!あなたの品格が下がってしまうわ!そいつらと関わったらお終いよ!」
教室に残っていた平民の生徒達は、皆下を向きプルプルと拳を震わせていた。
「ほら………。やっぱりこうなるのよ!これだから貴族なんかと関わりたくな…………」
リナが言葉を言い切る前に、ミリアがリナを抱きしめる。
【ガシッ】
「えっ?ちょ、ちょっと………放しなさいよ!」
「嫌よ!絶対に離さない!あなたが納得するまで絶対に離してたまるものですか!」
「な、何してるのミリアちゃん!自分が何してるかわかってるの?」
「ダメよ!今すぐ離れて!」
「外野は黙ってて!私がしたいからしてるの!それを、止める権利は誰にもない!」
そして、ルークが席を立ちミリアの元へと向かう。そして、ミリアの頭を撫で、
「よく言った、ミリア!それでこそ、俺の従妹だ!」
(従妹じゃなく、従者ですけど………プイッ)
「えっ?」
「「あっ!」」
ミリアの小言を聞いてしまったリナは、あっけにとられた。
(い、今の内緒ね!お願い!)
「え、えぇ…………」
(でも、従者……?伯爵令嬢なのに…………!?)
「あなたお名前は?」
「な、名前?リ、リナだけど…………それが何か?」
「じゃ、リナ!今度の休みの日、この街を私とルーク君の二人を案内してよ!いいでしょ?」
「そ…………それは…………」
「いい加減にしろ、平民風情が!そんな事が許されると思ってるのか!立場を考えろ!」
「そうよ!今すぐ断りなさい!」
「「「そうだ!そうだ!」」」
「うるさーい!外野は黙っててって言ったでしょ!私は、リナに聞いてるの!あんた達の意見なんか聞いてない!」
「うっ…………」
「どうなの、リナ?案内してくれるの?してくれないの?私は、あなたの本音を聞きたいの!」
「私は…………」
【ゴクリ】
静けさが教室を包み込む。平民が、貴族と遊ぶなどここに居る誰もが聞いたことがない。そして、
「私はミリア様とルーク様と…………お…………」
「お?」
「お…………お友達になりたいです!」
ミリアは、リナの身体を放しニコリと笑いながら右手を取り、両手で握りしめ、
「じゃ、そうしましょう!これで私達はお友達!もちろん、ルーク君ともね♪いいよね、ルーク君?」
「あぁ。もちろんだ!俺に断る理由などないからな!」
「う…………うぅ…………ありがとうございます、ミリア様、ルーク様…………うぅ…………」
「こら!泣かないの!それと、身分の差など気にしないと言ったんだから、様付け禁止!わかった?」
「…………じゃ、ミリアちゃんと呼んでもいいの?ルーク様も、ルーク君って呼んでいいかな?」
「えぇ!」
「もちろんだ!」
「あ…………ありがとう…………嬉しい…………」
「てなわけでさ、他の平民のみんなも私達とお友達になりましょ?」
「い……いいのかな…………」
「お…………俺、なりたいかも」
「私も…………」
「お…………お前等、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
「ジョニーさん、何か言ってやってくださいよ!」
ここで、今まで静観してきたジョニーが初めて口を開いた。しかし、その内容は意外なものだった。
「ちっ!俺が知るかよ!そんなゴミどもなど好きにやらせりゃいい」
「そ、そんなジョニーさんまで…………」
「さっ、みんな帰りましょう!今日から、私も寮暮らしだから」
こうして、ルークとミリアは貴族側ではなく、平民側へと就いた。
(クソが!覚えていろ、ルーク・アシュレイ。それと、ミリア・シルフィード)
と、静かに心の中で怒りを露わにするジョニーだった。




