雑魚貴族と呼ばれて
ルーク達は寮の裏手に移動し、野次馬たちも次々とやってくる。ルークとジョニーを中心にその周りを野次馬たちが囲う形となっていた。これなら、万が一騒ぎを聞きつけて教師が来ても、ルーク達は見えず時間が稼げる。
「さぁ、始めようじゃねーかルークさんよぉ!」
「望むところだ!いつでもかかって来い!」
「…………殺してやる」
ジョニーが静かに言うと、戦闘が始まった。まずは、ジョニーがルークとの距離を一気に詰める。そして、
「雷棍」
ジョニーがそう叫ぶと、ジョニーの両手にバチバチと音をたててトンファーが現れた。そして、そのトンファーでルークを攻撃する。その攻撃をルークは手でガードする。
【ガッ】
「…………馬鹿め」
【バチンッ】
ルークは、トンファーを受け止めた途端、体の中に電流が走ったかの様な感覚になり、一瞬だけ意識が飛びそうになる。
(…………くっ)
【グラッ…………】
「オラ、オラァ!さっきまでの威勢はどうした、ルーク様よぉ!」
ジョニーの攻撃は止むことを知らない。攻撃を避け続けるルークだが、徐々に後ろへと追い込まれ、やがて野次馬の前まで追い込まれた。ルークを野次馬たちは邪魔だと、ルークの強く背中を押し前へと突き出す。
「こっちくんじゃねーよ、クソが!」
【ドンッ】
「なっ!」
背中を押されたルークは、必然的にジョニーとの距離を縮めてしまう。
「しまっ…………」
【ガンッ】
ジョニーは近づいてきたルークの顔面にトンファーを叩きこんだ。もろに顔面へと攻撃を受けたルークは地面へと転がる。
「ぐはっ…………」
(くっ…………。手足が痺れてやがる…………これは感電したのか?)
「くくくっ。気づいたか?雷棍は雷で出来てるんだ。そうそう、言い忘れていたが俺は雷属性を得意とするんだよ!悪かったな、初めに言っておくべきだったか?くくくくっ…………」
ジョニーは笑いをこらえる為、口元に手を置き、ニヤリとルークを見た。
「さぁ、まだまだお寝んねの時間には早いぜ、ルーク様よぉ!おい、野次馬共こいつを羽交い絞めにしろ!」
そう言われると、野次馬たちはルークを無理やり立たせて、両手を塞ぐ。そして、ジョニーは身動き取れないルークをまるで玩具で遊ぶように殴り続ける。
【ガンッガンッガンッ…………】
ルークの体が痺れてまともに動けず野次馬たちを振りほどけない。ジョニーの攻撃は激しさを増していきその様子を、一人の女子生徒が自分の部屋から見ていた。その女子生徒とはリナだった。言葉を発することなく、ただ見ているだけ。
「………………」
そして、全身ボロボロのルークの手を掴み、中央へと放り投げる。
「さぁ、そろそろ終いにしようじゃねーかルーク様」
すると、ジョニーは右手を空へと掲げ始めた。すると、一気に野次馬たちが騒ぎ出す。
「おぉ!出るぞ、ジョニーさんの十八番、雷撃が!」
「あいつ、死んだんじゃねーか?」
「いい気味だ!ジョニーさんに喧嘩売るとどうなるのか思い知ればいい!」
やんややんやと野次馬たちの罵声は止まらない。そして………
「食らえ!雷撃!」
【ド―――ッン】
【パラッパラッパラッ…………】
「おぉ!えげつねー、あいつ跡形も無くなったんじゃねーか?」
「流石はジョニーさん!最強っす!」
【パチッパチッパチッ………】
野次馬たちは盛大に拍手をした。
「ふんっ。口ほどにもない奴め…………。あっけない終わりだったな」
「フハハハハハハハッ」
ジョニーは、声高々に天を仰ぎ笑う。完全勝利を確信したはずだったが、雷光が弾け、爆煙が納まった時、そこにルークの姿は無かった。代わりに立っていたのは、メイド服を着た女性と少女だった。女性の方はルークを抱きかかえ無表情で、少女の方は怒りに満ちた顔をして立っていた。
「お、おい…………誰だあいつ等…………?」
「あんな奴等この学校に居たか?」
「何で、メイド服着た女達がここに居るんだ?それに…………」
「小僧、何を笑っているんだ?この程度で勝った気にでもなったか?」
「なっ!」
「な、何だテメー等は!いつの間に…………」
薄れゆく意識の中、ルークは自分を抱き上げている女性をみて………
「…………セレスか。すまないな、迷惑かけて…………」
「いえ、そんなことはございません。私達の方こそ、遅くなってしまい申し訳ございません」
「ルーク様!ミリアも居るよ!」
「そうか…………ミリアも来てくれたのか…………」
「ミリア、ルーク様をお願い出来るかしら?」
「はい、お任せください!私がルーク様をお守りいたします。ところでセレスティア姉様、私達に近づいて来た者は、殺して構いませんよね?」
「えぇ、構わないわ」
「はい!」
「おい、そこの小娘!無視するな、俺を誰だと思っている!」
「誰だと思っている?お馬鹿な質問ですね?そんなの知るわけないじゃないですか!まぁ、しいて言うならお答えしますよ?その下品な形をした耳をかっぽじってよく聞くといいでしょう。この『一人じゃ何も出来ず、周りの取り巻きと共謀してルーク様をこの様な姿にしたクズで不細工なチキン野郎』ですかね?あってますか?間違ってますか?」
「ミリア、あんまりこの小物を挑発しないの!」
「はーい…………」
「キ…………キ………貴様等ァァァ!この、ジョニー・ガルシアを虚仮にした事を後悔するがいい!」
二人の挑発で頭に血が上ったジョニーがキレて、二人に両手を掲げて、魔法を放つ。
「死ねぇぇぇぇ!雷弾」
【ボンッ】
【ボンッ】
ジョニーの手から、二つの雷弾が二人に向かって飛んでいく。
セレスティアはほんの少し人差し指を動かした。すると指先から細い糸が現れ、その糸は近くにある木を切断し巻き付け、それを自分の方へと引き寄せ雷弾に当てる。
【スパ―ッン】
【シュルルルル…………」
【バッ―ン】
一方、ミリアの方は右手を地面につける。すると、周りに転がっている岩がミリアとルークの前に現れ、1枚の壁が出来上がり、ジョニーが放った雷弾を受け止める。
「造形操作・壁」
【ガラッガラッガラッ…………】
【ガシンッ】
【バンッ】
自分の雷弾を意図も簡単に防いだ二人を見たジョニーは、
「バ、バカな…………。あり得ない」
「馬鹿はあなたですよ!あんなちっぽけな雷の弾でミリア達を倒せるとでも?あんな攻撃、当たるわけないじゃないですか!顔もブサイクなら頭の中もブサイクなんですね!全くをもってキモいです」
「こらこら、ミリア。そんなこと思っても言っちゃダメよ。あの小物が可哀想じゃない」
自身の自信ある雷弾を物ともしなかった二人を見て笑うしかなかったジョニー。
「………あははははっ。そうか、そうか」
「あれ?セレスティア姉様、こいつ壊れちゃったよ?」
「そうみたいね…………。でも、どうしようかしら。こいつをボコボコにしないと私の気が済まないんだけど…………」
「お、おい…………お前等!」
「ん?何かしら?」
「そこの雑魚貴族にいくらもらっている?そんな奴より、俺の方に就かないか?今の倍の金額で俺が雇ってやる!どうだ、いい話しだろ?」
「雑魚貴族?いくらもらっている?何の事?ねぇ、ミリアはわかる?」
「うーん、雑魚貴族なら、周りに居る奴等かな?ルーク様ではないのはわかりますけど…………」
「な、何を言っている?雑魚貴族など、今お前が抱きかかえてるルーク・アシュレイに決まっているだろ?他に誰が居ると言うのだ?いくらだ?いくら出せば俺の下につ…………」
ジョニーが最後まで言い切るより早く、細い糸がその両足へとしなやかに巻きついた。
「へっ?」
間髪入れずに腕が振られ、ジョニーの巨体が空を切る。そのまま勢いよく大木へと叩きつけられた。
「はぁ、バカも休み休み言いなさい。ルーク様が雑魚貴族?いくらもらっている?私達は、1ゴールド貰ってないわよ?むしろ、私達がお金を払いたいぐらいよ!あんた、その頭は飾りなの?脳みそ詰まってないでしょ?ルーク様はね、お金を出してまで人を雇おうなど思わないわよ!それに、ルーク様はあんたの百倍は強いわよ?私達が無理を言って側においてくれているの!この意味わかるかしら?」
「セレスティア姉様、あいつ伸びちゃってますよ?」
「あららら、口ほどにもないわね。情けない…………。あの程度の攻撃などルーク様なら軽く避けると言うのに」
「全くです!」
野次馬たちは、目が点になり誰も言葉を発せないでいた。
「さっ、ミリア帰るわよ!急いで私達の大切なルーク様の手当てをしないと!」
「はーい!」
セレスティアが歩き出すと、周りを囲っていた野次馬たちは、
「ひ、ひぃっ………!」
まるで化物を見るかのような目でセレスティア達を見つめ、野次馬の生徒達は悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように道を開けた。
自室の窓からその光景を見下ろしていたリナもまた、目を見開いたまま固まっていた。




