ミゲル・バーンという貴族
セレスティアから大まかな話を聞いたミリアは、次の日から物凄く不機嫌になり、男女問わず話しかけてくる貴族達すべてに冷めた対応をしていた。近づいて来た者は当然のように無視。しかし、それでも諦めずに話しかけてくる輩も少なくは無い。
「ねぇ、ミリアちゃん!今度の休み、俺達と遊ばない?俺、面白いところ知ってるんだ!」
「………………」
「ねぇ、無視しないでよ!傷つくじゃん♪」
「………………」
「ねぇってば!」
「………チッ、うっさいわね」
「何だよ、人が親切に話しかけてんのにさっ!」
「別に私は頼んでない」
「それよりもさ、聞いたよ!やっと、あのゴミ男爵と縁が切れたんだってね!良かったじゃん!あんな雑魚の相手するより、俺なんかと一緒に居たほうがミリアちゃんの為だって!」
【ガタッ】
ミリアがついにキレた。自分の事を言われるのは構わない。ただ、命の恩人のルークを馬鹿にされるのをこれ以上黙って聞いているわけにはいかないと。ミリアは話しかけてきた貴族の男子生徒の首根っこを右手で掴んで言った。
「お前ごときがルーク様を語るな。…………殺すぞ?」
「さ…………様?……ってなんだよ…………」
そんなミリアをリナが慌てて止める。
「ミリアちゃん、落ち着いて!そんなことしたら本当に死んじゃうよ!」
「死んでもいいわよこんなクズ。たいしてルーク様の事を知らないくせに好き勝手言ってるんだから」
「ちょ………ちょっと………落ち着いて………ミリアちゃん」
「私は落ち着いているわよ?あなたを、どう殺してあげようか考えられるくらいにはね…………」
【ギシッギシッ…………】
男子生徒の首を掴むミリアの右手が更に力を増す。そして、もはや誰もこの状況を止められないと思っていた。ある一人を除いては…………。
「止めろ、ミリア。もう十分だ」
ルークの一言で、ミリアは男子生徒を解放する。
「ゲホッ……ゲホッ…………クッ………クソ男爵が……何を勝手に………」
「何を勝手にって………。あのままだとお前はミリアに殺されていたぞ?」
「う、うるさい!それに貴様、何勝手に出しゃばって来てる!弟たちがどうなってもいいのか?」
弟たちと聞いたミリアの怒りがさらに増した。
「弟たち…………?あんた、ラムザ君とマリーちゃんに何かしようって言うの?」
「あっ!しまっ…………」
「やっぱ殺すわ、あんた…………」
「落ち着けミリア!ラムザ達なら平気だ、セレスが見ていてくれている」
「セレスティア姉様が?まさか、姉様が言ってた外せない用事ってラムザ君達の事?」
「そうだ」
「私にはそんな事言ってなかった…………」
「内緒にしててすまないな。でも、本当の事を話したらお前はこいつらを本気で殺していただろ?俺は、お前にはそんな事させたくない」
「わかりました、ルーク様」
「わかってくれればそれでいい」
「き、貴様ら何勝手に盛り上がってやがる!俺にこんなことしてタダで済むと思うなよ!」
そう言うと、男子生徒はルーク達の側から離れて行った。そして、この後授業が始まり、やがて昼休みになる。昨日と同じで、今日もルークは貴族のパシリになり購買へと昼食を買いに行かされた。ただ、今日はすんなり教室へと戻ってこれ、ミリア達他の生徒との接触を禁じられているルークは一人寂しく昼食を取るのであった。そう、まさに取ろうとしていたところで、二人の女子生徒がルークの教室にやって来た。
「ルーク・アシュレイは居る?」
フィオナとエレオノーラだ。フィオナの登場により、クラスに緊張が走る。そう、彼女はこの学校でも有名なのだ。最年少で騎士団の副団長にまで上り詰めた強者。その事は、貴族は勿論の事、平民の間でも有名になっていた。そんな彼女が事もあろうか、ルークを探していたからだ。とても不釣り合いの二人。ルークとフィオナの関係を知っているミリアだけは、動じず静かに観察していた。
「げっ!フィオナ・アーデルハイド…………」
「何よ、『げっ!』って!それに、何でフルネームで呼ぶのよ!フィオナでいいじゃない!」
「いやしかしだな…………。周りを見てみろ」
そこには、『何で、あの二人が対等に話をしているんだ?』という顔をした生徒が数多くいた。
「あんな奴等関係ないでしょ?それよりも、これよ!」
バンッと音を立ててフィオナはルークの机に一枚のプリントを置いた。そこには、こう書かれていた。
「第七十二回アルカナ学校武術大会?」
「そうよ!今から三か月後に行われる武術大会。あんたも出るんでしょ?ここで優勝すれば、騎士団に入る事だって可能よ!もちろん、副団長のこの私が推薦してあげるわ!そして、今度こそ長年の決着をつけるわよ!」
「いや………俺は…………」
「何よ!出ない気なの?賞金だって多少なりもらえるわよ?あんたの領地、お金なくて困っているんでしょ?」
「それはそうだけど…………。お金は欲しいけど、騎士団はちょっと…………。俺、一応領主だし…………」
「何でよ!あんたが騎士団に入れば、この国は安泰なのよ!この意味わかる?」
ここで、今まで二人の会話を黙って聞いていたエレオノーラが口を挟む。
「失礼ながら申し上げますがフィオナ様、ルーク様が騎士団に入るのはちょっと…………」
「何よ、エレオノーラ!あんたも反対なわけ?」
「いえ。それはもう、ルーク様が騎士団に入ればこの国にとっても良い事ですけど、ルーク様はフィオナ様と違って領主様ですし、領主様がいつも不在な領土と言うのはちょっといろいろ問題がある気がして…………」
「そ、それもそうね…………。じゃ、優勝した時の事は後回しにして、出ること自体は問題ないわね?」
「そうですね。何か違う褒美を王様に進言してみてもいいでしょう」
「では、そうしましょ!流石はエレオノーラね!」
「いえ、ただ単にフィオナ様が馬鹿な………オホンっ」
「何か言った?」
「いえ別に…………」
「じゃ、決まりね!今度こそ本気で勝負しなさいよね、ルーク!」
「いや、今度こそって…………。俺はいつだって本気なんだが…………」
「嘘よ!私は知ってるんだから、あんたの本当の実力を!」
ここで、三人のやり取りを黙って聞いていた男子生徒が口を挟む。
「フィオナ様!ここは、僕がお相手いたすって言うのはいかがでしょうか?こんな雑魚男爵の力など、たかが知れていますよ!!それに比べ、僕なら十分にフィオナ様のお眼鏡にかなう実力を持っています!」
「あんた誰よ?」
「申し遅れました。僕は、ミゲル・バーン伯爵でございます」
「ミゲル・バーン?知らない名ね。私が知らないって言うんだから、あんたは雑魚ね」
「いやいや、そこの雑魚男爵よりは強い自信がありますよ」
「はぁ?あんたがルークより強い?冗談は顔だけにしなさいよ!バカ面がもっとバカ面に見えるわよ?」
ぷぷっと笑うエレオノーラ。彼女もまたフィオナと同じ意見らしい。『ルーク様の強さを知らない名だけの、坊ちゃん貴族がよく言うわ』みたいな顔をしている。
「エレオノーラ、笑っては可哀想よ」
「す、すみません。でも、可笑しくてつい…………ぷぷっ」
「こ…………この女、この僕に喧嘩を売っているのか!」
「止めなさい!エレオノーラに手を出そうって言うなら、私が許さないわよ!」
「うっ…………」
「行きましょうエレオノーラ。伝えるべきことも伝えたし、ここにはもう用はないわ」
「はい」
「いい、ルーク!逃げるんじゃないわよ!わかったわね!」
「へーい…………」
「それではルーク様、これにて失礼いたします!」
「おい女!覚えてろよ、お前は必ず俺が倒してやる!」
「………………」
エレオノーラは男子生徒の挑発を無視して、先行くフィオナの後を追った。
「クソが!絶対に後悔させてやる!この僕をバカにした事を…………」
こうして、月日は流れ三学期も終わりを迎え学校は春休みを迎えるのであった。




