ツンデレ公爵令嬢
翌日、ルークはミリアとリナと三人で学校へと向かっていた。そして、教室に着くや否や貴族たちがルークだけを睨みつけている。当然だ。昨日、ミリアが平民と貴族との壁を壊し、ルーク本人もそれに乗っかり、平民であるリナと登校していたからだ。しかし、ミリアは貴族たちからは睨まれていない。自分達よりも上の爵位なので、喧嘩を売ったらどうなるかはわかっていたからだ。そして、貴族たちはもはやリナなど眼中にないかのように見向きもしない。
(やれやれ、あからさまに敵意を向けてくるのはどうかと思うが…………)
そんな事を思いつつ自分の席に着くルーク。そして、その後を追いかけるようにミリアとリナもルークの近くに寄ってくる。
「ねぇ、ルーク様!何なのあいつら!あのあからさまな態度、頭に来るんですけど!」
「まぁまぁ、しょうがないだろ……。気にしたら負けだ」
「でも………」
「ほら、教師が来るぞ!席につけミリア」
「はーい……」
ブツブツ言いながらミリアは席に着き、その様子を静かに見守るリナ。やがて、授業が始まりあっという間に昼休みとなる。そして、ルーク、ミリア、リナ達は机を囲み昼食を食べようとしていた矢先、数人の上位貴族達がやってきて、
「おい、雑魚貴族!購買で俺たちのパンを買ってこい!もちろん、お前のおごりでな!」
当然の様に絡んでくる上位貴族。いつもなら、平民をパシリに使っているが、この日はルークが標的となった。
「何で俺がお前達の昼食を買って来なければならない?」
貴族達は、呆れたかのような顔でルークに言う。
「当然だろ、俺達のが身分は上なのだから。下位のものが俺たちの言う事聞くのは至極当然」
やれやれと顔をしている横で、リナが口を開く。
「なら、私が買ってきます。三人の中で身分が最も低いのは私なので……」
すると、貴族達はリナを睨みつけ、
「俺達は、ルーク・アシュレイに言っているんだ。部外者のお前は黙ってろ!」
貴族たちの強い口調にリナは何も言えなかった。そして、しょうがないとルークは貴族たちの言う事を聞くことにした。
「わかった、行って来ればいいんだろ?何を買って来ればいいか教えてくれ」
貴族はそれぞれ、自分達が食べたい物をルークに教える。それをルークはメモを取り、一人購買へ向かおうとしていた。
「おい、お前たちあいつがバックレないように見張っていろ!」
上位貴族の中でも、序列があり下っ端の男女の数名がルークの後を追う。そして、購買へとやって来たルークはメモを見ながら言われたものを次々と籠の中へと入れて支払いを済ませ、教室へと戻ろうとしたのだが…………
「おい、ちょっと付き合え!」
突如、見張り役の一人がルークに声を掛けた。ルークは、ここで断るとまためんどくさいことになる予感がして、言われた通りついて行くことにした。そして、校舎の裏へとやって来たルークは、この後の展開はわかっていた。
「ルーク・アシュレイ、なぜ貴様がミリアちゃんと仲良くしている?」
突然の貴族の問いに、唖然となるルーク。
「はっ?」
「はっ?じゃねーよ!てめーみたいな雑魚貴族が、なぜ伯爵家のミリアちゃんと仲良くしているのかと聞いているんだ!」
「なぜって…………、そんなの知り合いだからに決まっているだろ?それ以外に何があるというのだ?」
ルークは当然だろと思いながら言うのだが、貴族たちは納得しなかった。
「お前ごとき下位貴族がミリアちゃんと一緒に居ると、彼女の品が下がる!これからは、彼女と関わるな!いいな!」
「何でそうなる?それに、そんな事をしても無駄だと思うがな…………」
ルークが、苦笑いをしながら言うのだが、一緒に来ていた伯爵家の女子生徒が、
「無駄じゃないわ!ミリアちゃんは、私達が説得する。あの子は、もっと付き合う相手を選ぶべきなの!どうせ、彼女の弱みを握って、服従させているのでしょ?そんなの、私達は許さない」
「馬鹿も休み休み言ったらどうだ?そんなことあるわけないだろ!」
「どうだか…………。もしかして、俺達の言う事が聞けないとでも言うのか?その時は、わかっているな?」
「嫌だと言ったら?」
「そうだな…………」
貴族達がニヤリと笑みを浮かべながら、ルークに言った。
「確か、お前には歳の離れた双子の弟妹が居たな…………。ラムザとマリーって言ったか?ククククッ…………」
貴族の男子が、ラムザとマリーの名前を出した瞬間、ルークは冷めきった表情で貴族達に対して殺気を放つ。
「ラムザとマリーに何かしてみろ…………お前等の家族ごと皆殺しにするぞ…………」
「ククククッ。それはお前次第だ…………。おい、やれ!ただし、顔はやるなよ?バレたらめんどくさいことになるから、見えないところを重点的にだ」
突如、二人の男がルークを押さえつける。そして、他の貴族がルークに対して、暴行を加え始める。その様子を見ていた、女子貴族が
「あははははっ!いい気味ね、ルーク・アシュレイ!これは罰よ!あんたみたいな男が出しゃばってくるから」
今になっては、三人となってしまった家族のラムザとマリーを盾にされては素直に言う事を聞くしかないルーク。その後二十分は続いたであろうルークへの暴行は思わぬ形で終わりを迎えた。上位貴族に気づかれぬよう、影で全てを見ていたセレスが我慢できずに恐ろしいくらいの殺気を放つ。
「「「うっ………」」」
このまま続ければ、確実に殺されるであろうと悟った貴族達の額に汗がにじみ出る。もちろん、ルークにはこの殺気を放った者は誰なのか?ということは分かっていた。
「お……お前等、もういいだろ…………行くぞ…………」
「え………えぇ、そうね………今日の所はこれぐらいにしておいてあげるわ」
(今日の所はかよ…………)
貴族達は、自分達の身を案じてその場を後にした。そして、誰も居なくなったところで、ルークの前にセレスが姿を現す。
「大丈夫ですか、ルーク様…………」
「あぁ。助かったよ、セレス………ありがとう」
「いえ…………」
「セレス。助けてもらったついでにもう一ついいか?」
「ラムザ様とマリー様の事ですね?」
「流石はセレス、話が早くて助かる。これからしばらくは、俺の護衛よりもあの二人の側に居てくれ。あの二人に近づく者は殺して構わん」
「わかりました。お任せください」
「すまないな…………」
「そんな事はございません。ルーク様の命令であれば何だって致します」
「あとは、ミリアに何て言うかだな…………。あいつはたぶんブチギレるじゃ済まないだろうな…………。下手したら、数人は死人が出るぞ…………」
「それでしたら、ミリアには私から言っておきます」
「そうだな。セレスから言ってもらった方があいつも大人しく言う事を聞くだろう。頼めるか?」
「もちろんです。では、私はこれで」
「おう、よろしく頼む」
そう言って、セレスはルークの前から姿を消しミリアの元へと急いだ。そして、セレスから話を聞いたミリアがこの日、頭に来て自分の部屋を半壊させたのはまた別の話し。セレスがルークの前から姿を消したと同時に、二人の人物がルークの前へとやってきた。
「ダサッ…………」
そうルークに発したのはフィオナだった。仰向けで大の字で横たわるルークを冷めた視線で見つめながら言った。そして、フィオナと共に居たもう一人の人物がルークに声を掛ける。
「ルーク様!平気ですか?すぐに手当てを…………」
「何を勝手な事をしているのエレオノーラ?」
「勝手な事って!ルーク様が怪我をなさっているのですよ!ほっておけるはずないじゃないですか!」
「ほっとけばいいのよ!力があるくせに何もしないこいつが悪いんだから!」
「フィオナ様!」
キッとフィオナを睨みつけるエレオノーラ。そして、怯むフィオナ。
「ま、全く、エレオノーラもミリアもルークに対して過保護過ぎなのよ!これぐらいどうってことないでしょ…………」
「あー、そうですか!わかりましたよ!フィオナ様が、ルーク様を蔑ろにするなら、私がルーク様と婚約いたします!いいですね!ルーク様だって、こんな気の利かない女に言い寄られたくないですよね!?その分、私はルーク様に尽くしますよ!」
「ちょ、ちょっと何でそうなるのよ!」
「何でそうなるって当然です!私はルーク様が大好きですから!フィオナ様と違って!」
「フンッ!勝手にするといいわ!手当てが終わったらとっとと行くわよ!」
「言われなくても!」
こうして、手当てを終えたエレオノーラに感謝を述べるルーク。
「ありがとう、エレオノーラ」
「いえ!当然の事をしたまでです!それより、私と婚約してください、ルーク様!私は、フィオナ様と違っていつもルーク様を愛しています!」
「お、おう、ありがとう。でも、婚約と言うのは…………」
「私は本気です!たとえそれが原因で、ミリアちゃんやセレスティア様を敵に回しても私は構いません!もちろん、フィオナ様には何も言う権利はありませんけど?」
「か、考えておく…………」
「絶対ですよ!」
「お、おう…………」
「エレオノーラ、手当てが終わったなら行くわよ!」
「はい!では、ルーク様またお会い致しましょう!それでは失礼します」
先に行ったフィオナを走って追いかけるエレオノーラ。その表情はとても嬉しそうだった。
(はぁ…………参った…………)
そして、フィオナとエレオノーラは教室へと向かう途中で、
「エレオノーラ、ルークを痛めつけた人物の特定にはどれぐらいかかる?」
「全員で動けば、一日あれば全てを調べられます」
「わかったわ。では、エレオノーラ!あのクソ貴族達の何から何まで調べて私に報告してちょうだい。ルークにあのような愚かな行為をした事を後悔させてあげるわ」
「流石はフィオナ様!どれだけルーク様の事を好きなんですか!」
「あんたの百倍は好きに決まってるじゃない」
「だったら、もっと素直になればいいのに…………」
「うるさいわね!あんたはさっさと調べなさい!」
「わかりました!では!」
(あの貴族共、ただじゃ済まさないわよ…………)




