不穏な影
【世界歴2026年3月下旬】
昼過ぎ、学校も二週間の春休みに入りルークは今、自分の実家のあるティアーガ村に戻って来ていた。お世辞にも大きな村とは言えない。住民も数十名程度の小さな村だ。しかしここは、ルークにとってとても大切な場所だ。父、ザックが命に代えて守った生まれ故郷。そしてルークはさそっく実家へと向かうのであった。
「ただいまぁ」
ルークが玄関を開け、帰って来たことを知らせると、キッチンの方からドタドタと走ってくる足音が一つ。
「おかえりなさい、ルーク兄様!」
足音の正体はマリーだった。丁度お昼の準備をしていたようだ。そして、二階からも慌ただしい足音と共にラムザがやって来た。
「兄ちゃん、おかえり!」
二人は、嬉しさのあまりルークに抱き着いて来た。
「おいおい、どうした二人とも?」
「だって、寂しかったんだもん」
マリーが目をうるうるさせながらそんなことを言う。
「俺は、ただ何となく…………」
「あああっ!ラムザの嘘つき!いっつも、『兄ちゃん帰ってこないかな?』って、寂しがってたくせに!」
「こ、こら変なこと言うなよ!」
「本当の事じゃない!」
「ははははっ、相変わらず仲が良いなお前達は!」
「そ、そんなことないもん!」
「そ、そうだぜ兄ちゃん!姉ちゃんなんて、うっとうしくてしょうがないんだから!」
「言ったな!そんなこと言うと、ラムザのお昼ご飯抜きにするんだからね!フンッ」
マリーは、つーっんとそっぽを向いてしまう。
「ええぇぇ!それだけは勘弁してよ!もう、腹が減って死にそうだよ!」
「そのまま死んじゃえば?」
「こらこらマリー、そんなこと言うもんじゃないぞ!」
「そうだそうだ!なんて姉ちゃんだ!」
「ラムザの事なんか知らない!ささっ、ルーク兄様、【私と二人で】ご飯にしましょう!」
「あー!悪かったよ姉ちゃん!この通りだ、俺にもご飯を恵んでくれ!」
マリーに土下座して必死にご飯にありつこうとラムザ。そんなラムザを見かねてマリーは……
「もう、しょうがないわね!なら、さっさとお皿を並べて!」
「ほーい!」
「返事は『はい!』でしょ!何回言えばわかるのよ!」
(何だよ、ブツブツうるせーな!)
「ラムザ、何か言った?」
「な、何も言ってねーよ!じゅ、準備しなくちゃ」
「ははははっ!」
「まったく、ラムザときたら…………」
そうブツブツ言いながらマリーもキッチンへと戻っていく。そして、ルークは三人で食事をしていた時にふと思った事をマリーに聞く。
「そう言えば、叔父さん達はどうしたんだ?姿が見えないけど…………?」
「それが…………」
マリーによると、叔父たちは来るには来たが、少し前にマリー達の生活ぶりを見た叔父たちは、二人でも十分暮らしていけると言い、少量のお金を置いて自分達の家へと帰ってしまったらしい。そして、その後すぐにセレスティアが村へとやって来たみたいだ。
「おいおい、なんだそりゃ…………。無責任にも程があるぞ」
「でも、今はセレスティア姉さんが色々手伝ってくれるから平気だよ!」
マリーは、セレスティアとミリアの事を姉さんと呼んでいる。最悪の厄災の後、頻繁にこの村に訪れマリーやラムザの面倒をあの二人は積極的に見ていて、いつの日からかそう呼ぶようになっていたのだった。
「それで、当の本人セレスは今何処に居るんだ?」
「何か、村を見て回ってくると言ってしばらく前に出て行ったな。俺もたまについて行くんだけど、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」
「そうか。じゃ、俺も食事を済ませたら村を見て回るか」
「そんじゃ、俺も行く!」
「ダメよ!ラムザは修行をしなさい!まだ、今日の分のノルマをやってないでしょ?」
「ええぇ!?いいじゃん、今日はお休みって事で!」
「ダメ!兄さん達が学校へ戻ったら、この村でまともに戦えるのはラムザだけなのよ!あんたがこの村を守るの!」
「ちぇっ!なんだよ…………」
「文句言わないの!本当なら私も戦いたいけど、ラムザほど戦闘魔法使えないんだからしょうがないじゃない!」
そう、マリーはどちらかと言うと防御型なのだ。マリーやラムザは魔法が使えるようになったのは、最悪の厄災で両親を失った直ぐ後なのだ。
マリーは、母親の魔法を受け継いだようで、氷属性の防御型。そして、その魔法は【氷の絶対防御】と言われるものである。大気中の水分を氷に変えて、マリーに攻撃が当たると同時に、氷の盾が現れ、その攻撃を完璧に防ぐという物。もちろん、全く攻撃手段がないわけでもなく、氷の短剣を形成して攻撃出来る。そして、魔力が無くなるとそれらは形成されなくなるという弱点もある。
そして、ラムザは父の魔法を受け継いだようで、炎属性の攻撃型。ジョニーの雷棍と同じ原理で、ラムザの場合は炎の槍(炎槍)を形成してそれをメイン武器として戦うスタイルだ。他にも色々攻撃手段はあり、作った炎の槍を投擲の如く投げつけ、辺り一面を小さいながらも火の海にすることも出来る遠距離攻撃。火の玉を撃つ一般的なファイアーボール。工夫次第では、攻撃型の魔法を使える者は色々な戦い方が出来る。
「ちぇっ!わかったよ、やりゃー良いんだろ」
「わかればよろしい!それと私は、この後用事があるから見ていられないけど、サボるんじゃないわよ!」
「へいへい」
「返事は『はい!』」
「はーい!」
こうして、三人は食事を終えルークはセレスティアを探しながら村の見回りを始め、ラムザは魔法の修行を開始した。そして、マリーはと言うと…………
「なぁ、どうしてマリーがここに居るんだ?用事があるんじゃないのか?」
「えへへへへへっ」
「まさか、お前の用事って…………」
「ピンポーン!正解です!ルーク兄様と村の見回りです!」
マリーはビシッと敬礼して、そんな事を言った。
「ラムザが怒っても、俺は知らないぞ!」
「大丈夫!ラムザは単純だから気が付きません」
「まぁ…………確かに」
そして、二人で村を見回っていると前方に村人と話をしているセレスティアの姿を見つけた。
「おーい、セレス!」
「ルーク様にマリー様?」
村人との会話を切り上げセレスティアがルーク達の元へと駆け寄ってくる。
「久しぶりだな、セレス。見回りありがとう」
「いえ。それよりも、どうしてここに居るのですか?」
「二週間の春休みだから戻って来た。領地の事も気になっていたし。まぁ、戻って来て大正解だったみたいだけど」
「そうだったんですか。ミリアの方は平気ですか?」
「あー。それなんだが…………」
ルークは、あれからのミリアの出来事を話した。ルークとまともに会話が出来ずに毎日イライラしていること、そして怒りが頂点に達して他の生徒ともめた事など。
「そうなりますよね…………」
「まぁ、でもリナも居るから平気だと思うが…………」
「だといいのですが…………」
「ルーク兄様、ちょっと私向こう見てきます」
「おう!」
ここで、マリーが何か大事な話をしていると察し、一人その場を離れた。
「それよりどうだ?何か変わったことはあったか?」
「はい。ここ数日、見慣れない人物が幾度となくこの村に出入りしております。直接、何かをして来たわけではないので監視だけで留めておりますが、捕えますか?」
「いや、下手に手を出して上位貴族の者だとしたら面倒な事になるから、捕えるなら何か仕掛けてきた後だ」
「わかりました。引き続き監視を続けて参ります」
「この村に居るのはセレス一人か?」
「いえ、数名屋敷から呼びました。流石に私一人では、何かあった時にラムザ様やマリー様をお守りすることが出来ないので、戦闘に長けた私の従者を連れてきました」
「そうか。苦労を掛けるな…………。他の従者にも感謝してると伝えておいてくれ」
「わかりました」
「じゃ、俺はマリーと引き続き見回りをしてくる。セレスはもう休んでいいぞ」
「はい、ありがとうございます。では、お言葉に甘えてここで失礼いたします」
こうして、ルークはマリーと見回りを終えた後、家へと帰りセレスとその従者達と夕飯を共にした。そして、春休みも終わり。いよいよ新学期が始まる。




