ボケスライムとの戦い
森を抜けた先の草原には、緑色のスライムがゆっくりと移動していた。見た目はごく普通のスライム――丸くてプニプニしていて、表面には間の抜けた笑顔のような模様が浮かんでいる。
「……普通のスライムっぽいな」
クラスメートの一人がそう言うと、長介はステータス画面を確認した。
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名前:ボケスライム
種別:天然系モンスター
能力:
意図せず罠を壊す
意図せず世界を救う
意図せず魔王軍を壊滅させる
味方からも敵からも恐れられる
```
「……味方からも敵からも恐れられる、天然系……?」
長介が読み上げると、クラスメートたちは怪訝な顔をした。
「天然って…どういう意味?」
「わかんないけど、なんか嫌な予感がする」
そのとき、ボケスライムがふと、進行方向を変えた。何もない場所に向かって、ゆっくりと移動していく。
「あれ、こっち来ないのか?」
ボケスライムは、一行の数メートル横を、まったく気にする様子もなく通り過ぎていく。そして、その先には――一行が気づいていなかった、地面に仕掛けられた巨大な落とし穴(おそらく魔王軍が仕掛けたトラップ)があった。
「あ、危ない!穴が――」
長介が叫んだ瞬間、ボケスライムはぽよん、と何の気なしに穴の上を飛び越えた。その軽い跳躍の衝撃で、穴を覆っていた偽装の草が崩れ落ち、トラップの全容が露わになる。さらに、その振動で、穴の底に設置されていた小さな魔法陣のようなものが、カチッと音を立てて停止した。
『……げ!起動装置が、止まった……!?』
近くの茂みから、慌てたような声が聞こえた。一行が様子を窺うと、魔王軍の兵士らしき小さな鬼のようなモンスターが数体、青ざめた顔で起動装置を見つめている。
『なぜだ……このトラップは、勇者一行を一網打尽にするはずだったのに……まさか、起動前に壊れるなんて……!』
ボケスライムは、その様子にまったく気づくことなく、ぽよぽよと跳ねながら別の方向へ移動を始めた。
長介たちは、唖然としてその光景を見ていた。
「……今、何が起きた?」
「ボケスライムが、トラップを偶然壊した…?」
「魔王軍の作戦、一個潰れたっぽいな……」
長介は、ステータス画面の「意図せず罠を壊す」「意図せず魔王軍を壊滅させる」という記述を改めて見つめた。
「……これ、本当に書いてある通りなんだ」
ボケスライムは、相変わらず何も気にせず、草原を漂っている。途中、小さな花を踏みつけ、その花の種が周囲に飛散した。種は風に乗って、遠くの荒れ地に降り注いでいく。
「……あの種、何か意味あるのか?」
「わかんない。でも、何かが起きそうな気がする……」
長介たちは、ボケスライムに戦いを仕掛けるべきかどうか、判断に迷った。敵意は感じられない。むしろ、ボケスライム自身は何も考えていないように見える。だが、その「何も考えていない」行動が、結果的に世界に大きな影響を与えている。
「……戦う必要、あるか?」
クラスメートの一人が尋ねた。長介はしばらく考えてから答えた。
「いや……このまま、見送ろう」
「いいのか?」
「うん。何というか……このスライムは、戦う相手じゃない気がする。むしろ、関わらない方がいい」
一行は、ボケスライムを刺激しないよう、静かにその場を後にした。ボケスライムは、一行が離れていくことにも気づかず、ぽよぽよと跳ねながら、別の方向へ漂っていった。
ステータス画面には、新たな記録が追加されていた。
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ボケスライム:戦闘回避(逃亡成功)
備考:意図せず魔王軍のトラップを一基破壊
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「……逃亡成功、って書いてあるけど」
「実際は、向こうが勝手にどこか行っただけだよな」
「うん」
長介は、ふと振り返り、ボケスライムが去っていった方向を見つめた。
「……あいつ、また会いそうな気がするな」
「なんでそう思うの?」
「……なんとなく」
長介の予感は、後にこの旅の終盤で、思いがけない形で的中することになる。
一行は再び旅を続けた。草原の先には、これまでとは雰囲気の異なる、薄暗い荒野が広がっていた。その奥に、何か巨大な気配が感じられる。
「……次は、魔王軍の幹部、かな」
長介は、ステータス画面に表示された新たな警告を見つめながら、静かに歩を進めた。




