ナンセンスキメラとの戦い
遺跡を抜けると、一行は奇妙な森に入った。木々は普通だが、地面には謎の足跡や、なぜか散らばった文房具、傘などが転がっている。
「なんか…ゴミ捨て場みたいな森だな」
クラスメートの一人がそう言った瞬間、森の奥から「それ」が現れた。
最初に見えたのは、巨大な机だった。四本足の木製の事務机が、ゆっくりと動いている。机の上部――本来引き出しがあるべき場所には、なぜか魚の頭が生えていた。コイのような顔で、ぱくぱくと口を動かしている。そして机の足は、よく見ると四本の傘だった。傘の柄が脚として地面を突き、開いたり閉じたりしながら歩いている。
一同は言葉を失った。
「……なに、これ」
ステータス画面を確認する。
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名前:ナンセンスキメラ
種別:不条理系モンスター
特徴:
頭部 魚
胴体 机
足部 傘
行動原理:不明
目的:不明
弱点:本人も知らない
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「弱点が…本人も知らない、って何だよ」
長介は思わずツッコんだ。ナンセンスキメラは、長介の声に反応したのか、机の引き出し(本来あるべき場所)から、なぜかスリッパが一足、ぽとりと落ちた。
「……スリッパ?」
魚の頭がぱくぱくと動き、傘の足が一本だけ閉じて、また開いた。意味のある動作なのか、ただの反射なのか、誰にも判断がつかない。
「攻撃、してこないのか…?」
クラスメートの一人が恐る恐る近づくと、ナンセンスキメラの机部分が突然90度回転し、机の上に積み重ねられていた本(これもどこから出てきたのか不明)が、バサバサと地面に散らばった。
「うわっ!」
クラスメートは驚いて飛び退いたが、それ以上の攻撃は来ない。むしろ、ナンセンスキメラは、散らばった本を、傘の先で一冊ずつ拾い集め始めた。
「……本、整理してる…?」
長介は冷静に観察を続けた。このモンスターには、攻撃の意図も、防御の意図も感じられない。ただ、何かの「行動パターン」のようなものを、無秩序に繰り返しているだけのように見える。
「これ……戦う相手、じゃないんじゃないか?」
「でも、モンスターだろ?」
「うん。でも、敵意がない」
長介は一歩前に出た。口プロレスのスキルを発動させるべきか考えたが、そもそも「論破する対象の主張」自体が存在しない。誇張も、自虐も、矛盾も、皮肉も――何もない。ただの「不条理」がそこにあるだけだった。
「……お前、何が目的なんだ?」
長介が問いかけると、ナンセンスキメラの魚の頭が、ゆっくりと長介の方を向いた。一瞬、何か言葉を発するのかと思われたが、口からは「ぴゃ」という、意味のない音が漏れただけだった。
「……ぴゃ、だって」
クラスメートの誰かが、思わず噴き出しそうになり、慌てて口を押さえた。長介もまた、こらえようとしたが、笑気耐性のおかげで何とか平静を保っている。
ナンセンスキメラは、本を拾い終えると、机の上に律儀に積み直した。それから、傘の足でゆっくりと方向転換し、何事もなかったかのように、森の奥へと歩いていってしまった。
「……行った」
「行ったな」
「……勝ったのか、これ?」
長介はステータス画面を再確認した。
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ナンセンスキメラ:不戦勝
```
「不戦勝、だって」
一同は拍子抜けしたような顔で、互いを見合った。
「なんだったんだ、あれ……」
「わかんない。でも……誰も死ななかったし、誰も怪我しなかった」
長介は、ふと考え込んだ。これまでのモンスターは、明確な「強さ」や「能力」を持ち、それに対抗する手段があった。だがナンセンスキメラには、そもそも対抗すべき「論理」が存在しなかった。
「……理解できない敵、ってこういうことか」
クラスメートの川村が、ぽつりと言った。
「ある意味、一番怖いタイプかもね。何してくるか、本当にわからないし」
「でも、今回は何もしてこなかった」
「次は、わからないけどね」
一行は、なんとも言えない空気のまま、森を抜けた。森の出口には、開けた草原が広がっており、その向こうに、何か緑色の物体がゆっくりと動いているのが見えた。
「……次のモンスターか?」
長介は、警戒しながらも、少し気が抜けたような表情で、その緑色の物体を見つめた。




