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クーデターミミックとの戦い

長介たちは草原を進み、古びた遺跡らしき場所に到着した。崩れた石柱が並び、中央には小さな祠のような構造物がある。その前に、золотое輝く宝箱が置かれていた。


「お、宝箱じゃん!」


クラスの中でも特に物欲が強い男子・中野が、目を輝かせて駆け寄ろうとする。


「ちょっと待て」


長介が止めた。


「この世界、見た目通りのものなんて何もないだろ。慎重に行こう」


ステータス画面を確認すると、モンスター図鑑に新たな情報が追加されていた。


```

名前:クーデターミミック

種別:下克上系モンスター

特徴:宝箱に偽装する

最終形態:

第一段階 勇者を支配

第二段階 王様を追放

第三段階 魔王を乗っ取る

```


「……宝箱に擬態して、最終的に世界を乗っ取るモンスターだって。中野、絶対に近づくな」


しかし、中野は聞いていなかった。


「いや、でもさ、もし本当に宝箱だったら、中に武器とか入ってるかもしれないじゃん。俺らこのままじゃ丸腰だぜ」


「気持ちはわかるけど――」


「俺が先に確認するから!」


中野は宝箱に向かって走り出した。長介が止める間もなく、中野は宝箱の蓋に手をかける。


その瞬間、宝箱が大きく口を開けた。内側には無数の鋭い牙が並んでいる。


「ぎゃあああ!!」


「中野!!」


長介は駆け寄ろうとしたが、宝箱――クーデターミミックは、中野を丸ごと飲み込んでしまった。バタン、と蓋が閉じる音が、やけに大きく響いた。


『ヒッヒッヒ……一人目、確保』


宝箱から、低い声が漏れる。


「中野を出せ!」


長介は怒りを込めて宝箱に向き直った。クーデターミミックは蓋を開け閉めしながら、嘲るように笑う。


『欲深い人間ほど美味い。お前らの中にも、まだまだ欲しがってる奴がいるだろう?さあ、もっと近づいてこい。この箱の中には、金貨も、伝説の武器も、何でも入っているぞ』


クラスメートの中には、その言葉にふらりと足を踏み出しかける者もいた。長介はそれを片手で制止する。


「お前らの『欲しい』は、その箱が作り出してる幻覚だ。冷静になれ」


長介は一歩前に出た。ミミックは長介を見て、嘲笑するように牙を見せる。


『お前も、何か欲しいものがあるはずだ。地位、力、名誉……何でもくれてやるぞ』


「俺?」


長介は、少し考えて答えた。


「俺、特に物欲ないんだよ。昔から、何かを欲しいと思ったことがあまりなくて」


『な……んだと……?』


「だから、お前の『欲しがらせる』能力、俺には効かないと思う」


クーデターミミックの体が、微かに震え始めた。


『そ、そんなはずは……お前にも、必ず欲望があるはずだ……例えば……承認欲求とか……目立ちたいとか……』


「ないよ、それも」


『ぐ、ぐぬぬ……!』


口プロレスが再び発動する。長介の「欲がない」という淡々とした態度が、「欲望を煽って支配する」というミミックの根本的な戦略を完全に無効化していた。


「それより、中野を出せよ。そっちが先だ」


『お、おのれ……このままでは……』


ミミックは焦りながら、最後の手段として蓋を大きく開けた。内部に飲み込んだ中野を「人質」として見せつけようとしたのだ。


「中野!」


蓋の奥に、中野の姿が見える。幸い、まだ息はあるようだ。だが意識を失っている。


「お前、人質取るタイプなんだ。下克上系のくせに、結局それしかできないんだな」


『う、うるさい!』


「最初から『支配』とか『乗っ取り』とか言ってたけど、結局やってることは、宝箱のフリして人を食うだけじゃん」


口プロレスの追撃が、ミミックの「最終的に魔王を乗っ取るほどの存在」という自己イメージを徹底的に切り崩していく。蓋がガクガクと震え、最終的にミミックは大きく口を開けて、中野を吐き出した。


『うわああああ!!もう無理だ!こんな奴に構ってる場合じゃない!』


ミミックは宝箱の姿のまま、地面に潜るように逃げていった。


「中野!大丈夫か!」


長介たちは中野を助け出した。幸い、ミミックに飲み込まれていた間、目立った外傷はなかったが、中野はしばらく放心状態だった。


「お、俺……死ぬかと思った……」


「もう、勝手に動くなよ」


長介は中野の肩を叩いた。中野は涙ぐみながら頷く。


「ごめん……これから、ちゃんと、長介の言うこと聞く……」


クラスメートたちは、この出来事を通じて「この世界では、欲望が命に直結する」ということを学んだ。そして、長介の「欲がない」という、これまでコンプレックスだった性格が、この世界では強力な武器になることにも気づき始めていた。


「……長介、お前さ」


クラスの女子・川村が、ふと呟いた。


「面白くないのも、欲がないのも、この世界だと最強なんじゃないの?」


長介は苦笑した。


「……皮肉だよな」


戦いの後、長介は、ふと、自分の手のひらに視線を落とした。


「……今、ミミックに『欲しがらせる能力、効かない』って言ったとき……なんか、手が、冷たくなった気がした」


クラスメートの一人が、ステータス画面を確認する。


「……長介、水属性、持ってたよな?」


「……うん、でも、魔法としては、全然使えてない」


「いや、見て、これ」


```

新スキル開放:水属性・笑いのツボ「欲を冷ます」

備考:相手の欲望・執着を、冷静さで鎮める効果

```


「……魔法じゃなくて……『冷静になる』効果、ってことか」


滝川の言葉が、長介の頭をよぎった。「オチを見抜く視点」――それは、水のように、熱を冷まし、物事をクリアに見る力なのかもしれない。


一行は、再び旅を続けることにした。次に待っているのは、さらに奇妙なモンスターだった。


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