魔王軍幹部 ネガティブリッチとの戦い
遺跡を抜けると、一行は薄暗い洞窟に入った。洞窟の奥には、ぼんやりと青白い光を放つ、フードを被った人型の存在がいた。その姿は、まるでうなだれているように見える。
ステータス画面を確認する。
```
名前:ネガティブリッチ
種別:自虐系モンスター
能力:自分を悪く言うほど強化
例:
「どうせ私なんて……」攻撃力+500%
「生まれてきてすみません……」攻撃力+2000%
```
「自虐系……」
長介がつぶやくと、リッチがゆっくりと顔を上げた。その表情は、なんとも陰鬱だった。
『……あ、ああ……すみません……また、誰かが来てしまった……』
リッチの声は、震えていた。
『どうせ……私なんかが相手をしても……あなた方の時間を無駄にするだけです……すみません……』
その瞬間、リッチの体が、ぼんやりと光を増した。
```
リッチ:攻撃力+500%
```
「……今、なんか強くなった?」
『す、すみません……こんな弱い私が、強くなってしまって……本当に、申し訳ない……』
『……ああ、本当に……私は、生まれてきてすみません……』
```
リッチ:攻撃力+2000%
```
「ちょ、ちょっと待て!?今、めちゃくちゃ強くなったぞ!?」
クラスメートたちが慌てる。リッチの周囲には、巨大な暗黒のオーラが立ち上り始めていた。
『す、すみません……私のような存在が、こんなオーラを出してしまって……本当に……みなさんに、申し訳ない……』
```
リッチ:攻撃力+5000%
```
「これ、放っておいたら、どんどん強くなる!」
「で、でも、攻撃したら『攻撃された』ことで、さらに自虐モードに入りそうじゃないか?」
長介は、必死に考えた。このモンスターは、攻撃しても、無視しても、おそらく状況は悪化する。自虐的な言葉を発するたびに強化される――ならば、その「自虐」を止めさせる必要がある。
「……これ、口プロレスで何とかなるか?」
長介は、これまでのモンスターと同じように、論理的な指摘を試みようとした。
「お前、別に弱くないだろ。今、めちゃくちゃ強いオーラ出してるじゃん」
『い、いえ……これは、たまたまです……本当の私は、本当に弱くて……何の価値もない存在で……』
```
リッチ:攻撃力+8000%
```
「いや、逆効果だ!論理的に否定しても、自虐がさらに強くなる!」
長介は、これまでの「論破」というアプローチが、このモンスターには通用しないことに気づいた。否定すればするほど、リッチは「否定された自分」をさらに卑下し、それが強化に繋がっていく。
「……じゃあ、どうすればいいんだ……」
長介は、リッチの様子を、もう一度よく観察した。フードの下に見える表情――それは、ただ卑屈なだけではない。どこか、誰かに認めてもらいたい、というような、寂しさのようなものも感じられた。
「……これ、もしかして」
長介は、これまでとは全く異なるアプローチを試すことにした。
「お前さ」
『……は、はい……何でしょうか……何か、お叱りでしたら……』
「そのオーラ、めちゃくちゃカッコいいな」
『………………え?』
リッチが、初めて顔を上げた。
「いや、本当に。さっきから出してるそのオーラ、見た目すごい迫力あるし、なんか…芸術的っていうか」
『そ、そんな……私のような、卑小な存在に……そんな、褒め言葉なんて……』
「いや、お世辞じゃなくて。普通にすごいと思ったから言ってる」
長介は、続けた。
「自分のこと悪く言うの、やめてみないか?お前、別に悪くないと思うけど」
『で、でも……私は、本当に、何の価値もなくて……』
「価値があるかないかは、お前が決めることじゃないだろ。少なくとも、俺はお前のそのオーラ、すごいと思ったし」
『…………』
リッチは、しばらく沈黙した。攻撃力を示す数値が、ピタリと止まる。
『……ほ、本当に……ですか……?』
「うん。本当に」
『…………あ、ありがとう……ございます……』
リッチの体を覆っていた暗黒のオーラが、少しずつ、薄れていく。
```
リッチ:攻撃力+8000% → +100%(減少中)
```
「お、減ってきた!」
「これ……褒められたことで、自虐のスパイラルが止まったのか?」
長介は、さらに続けた。
「お前、ここでずっと、一人でいたのか?」
『……は、はい……誰も、来ないので……』
「寂しかったんじゃないか?」
『………………そう、かもしれません……』
リッチのオーラは、完全に消えていた。最終的に、リッチの体は、ふわりと崩れ落ちるように、地面に小さな光の粒となって溶けていった。
```
ネガティブリッチ:消滅(自然消滅)
備考:口プロレス(肯定型)により自虐スパイラル停止
```
戦闘は、誰も傷つくことなく終わった。クラスメートたちは、呆然と長介を見つめている。
「……長介、お前、今までと全然違うアプローチしてたよな」
「うん。論破とか、正論じゃ、あのタイプには逆効果だと思って」
「じゃあ、どうしたんだ?」
長介は、少し考えてから答えた。
「……ただ、素直に思ったことを言っただけだよ。本当に、あのオーラ、すごいと思ったし」
クラスメートの川村が、ふと呟いた。
「長介って、ボケにもツッコミにも、的確に対応できるんだね……」
「ボケって、自虐のことか?」
「うん。なんていうか……お笑いの『間』みたいなものが、わかってるんだと思う」
長介は、少し照れたように頭をかいた。
「……そう、なのかな」
戦いの後、長介たちは、しばらく無言だった。
「……あれ、俺、なんか、聖属性の魔法、使った感じがした」
聖属性を持つクラスメートの一人が、ぽつりと言った。
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新スキル開放:聖属性・笑いのツボ「肯定の光」
備考:相手の自己評価を、否定せず受け止めることで、ネガティブな増幅を止める力
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「……『肯定する』って、聖属性の本質なのかもしれないな」
おっさーの「認めてくれる誰かを待ってる」という言葉が、長介の中で、改めて意味を持った。
一行は、洞窟を抜け、再び旅を続けることにした。次に待っているのは、また違ったタイプの強敵だった。




