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絶対に気づいてはいけないラブコメ~~ハッピーエンドで必ず死亡する鬱ギャルゲーに転生した俺は死にたくないからボッチを貫く~~  作者: 杜宮みやび


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第17話 絶対に気づいちゃいけない世界の真実


 放課後、何とかヒロイン三人を振り切ると、下駄箱の前でみのりが下校するのを待ち伏せして声をかけた。


「佐伯さん」

 振り返ったみのりの表情は、明らかに困惑していた。


「神代君……どうしたんですか?」


「ちょっと話がしたくて。喫茶店でも行かない?」

 みのりは長い間迷っていたが、最終的に頷いた。

 

「わかりました。ちょうどいいので神代君にも見てもらいたいものがあります。私は校舎の外に出るけど、神代君は校舎から出ないで、そこからほかの生徒のことを見ていてもらえますか?」

 みのりの提案にぼくは頷き、彼女が一歩校舎を出た。


 校舎の出入り口付近で、下校する生徒たちを観察した。多くの生徒が下校しているところだった。だけど何かがおかしい。



「ああ、なんで忘れていたんだろう、違う、これは私じゃない!」

「いやだ、いやだ、校門を出たら、また……」

「誰か、誰でもいいから、ここから解放して~!」

 


 みんな定められた道に沿って進んでいるが、その歩みとは裏腹に上半身は半狂乱になっている。必死の形相で助けを求めるもの、泣きじゃくって叫ぶもの。まるで阿鼻叫喚の地獄行列だ。


「な、なんだこれ……ぼくが帰るとき、こんなことは今までにとなかったぞ。」

 何とかその言葉を絞り出す。


「たぶん主人公がいる場合は情報が上書きされるんだと思います」

 校舎の外にいるみのりが話す。


「校舎を出て、校門をくぐるまでの間。なぜだかわからないけど、この区間だけはゲームのシステム制御から一時的に解放されるんです。私も校舎から出ているので、比較的自由に行動できます」

 みのりは校舎の中のぼくに語りかける。


「見てください。叫んでいるのは全員女子生徒です。特徴の無い男子生徒は無表情のまま歩いています」

 確かにその通りだった。男子生徒たちは人形のように無表情で歩いているが、女子生徒たちは……まるで意識はあるのに体を操られているかのような恐怖に満ちた表情をしていた。



「お願い、誰か助けて!」

「私は本当は……私は……」

「記憶が、記憶が消されて……」



 女子生徒たちの悲鳴が響く。しかし、その声は校舎の中にいるぼくにしか聞こえていないようだった。


「そろそろ私も行かなきゃいけないみたい」

 みのりの足がまるで操られるように校門に向けて歩き出す。彼女の表情も苦痛に歪んでいる。


「ま、待って!」

 ぼくがみのりを追って校舎を出ると、世界が塗り替えられた。阿鼻叫喚の世界は、和気あいあいとした学生たちの放課後へ変わっていた。楽しげに談笑して帰宅する女子生徒たち。さっきまでの悲鳴はどこにもない。


「どうなっているんだ?」


「私の話せる範囲ですべてお話しします。ついてきてもらえますか?」

 自分で立ち止まることができないのか、みのりは校門に向かってまっすぐ歩いて行った。それをぼくは追う。



 校門を抜けると、みのりの足取りが自然になった。


「ふう……やっと自由になれました」


「今のは一体……」


「ここではまだ話せません。喫茶店に行きましょう」


 学校近くの小さな喫茶店で、ぼくたちは向かい合って座った。みのりの表情は先ほどとは打って変わって真剣だった。

「今見てもらったのが、この世界の真実の一部です」


「あの女子生徒たちは……」


「みんな、本当の意識を持っているんです。でも、ゲームシステムに支配されて、決められた役割を演じさせられている」

 みのりは震える手でコーヒーカップを持った。


「校舎から校門までの区間だけ、一時的にシステムの制御が弱くなるんです。その時だけ、彼女たちの本当の意識が表面に出てきます。しかし、そこで立ち止まることはできない。一度歩き出したら校門を出るまで足を止めることはできません」


「なぜ男子生徒は無表情なままなんだ?」


「男子生徒のほとんどは完全にNPCです。意識なんて最初からない。でも女子生徒たちは……」

 みのりは言葉を詰まらせた。


「元々は別の世界の人間だったんじゃないかと思います。私たちと同じように」


「同じように?ってことはやっぱり君も……」


「はい。何らかの理由でこの世界に連れてこられて、NPCとして役割を与えられた」

 ぼくは愕然とした。あの地獄のような光景の意味がようやく理解できた。


「でも、なぜ主人公のぼくがいると情報が上書きされるんだ?」


「主人公であるあなたには、この世界の真実が見えないように隠されているんです。あなたがゲームを楽しめるように」

 みのりの言葉が重くのしかかる。


「世界シュミレーション仮説って知っていますか?」

 突然の話題にぼくは思わず聞き返す。


「あ、ああ確か世界はどこかのコンピューターの中で作られた仮想現実の中なんじゃないかって話だよな。確かに今の状態は正にその状況ってことだけど、それがどうしたんだ」


「この世界は神代君を中心に作られているっていることです。神代君の認知できる範囲ではシステムが世界を書き換える。でも、システムリソースの問題か神代君が見ていない場所では制御が緩むんです。その一端があの校舎から校門までの区間だったってことです」


「じゃあ、君もぼくとあっていないときは、今とは違う存在になるの?」


「それは禁則事項です。ただ一つ言えるのは、私もしょせん今はNPCの一人にすぎないということです。ヒロイン以外のクラスの女子生徒に話しかけても、まともな反応は返ってこないでしょう?それが普通です。私たちは決められたセリフしか言えない……」


「でも、君は違う」


「私も本当は同じはずなんです。たまたま今はシステムに取り込まれていない、それだけのこと。なぜか学校内や主人公である神代君の前でもシステムに制御されずにある程度は自由に動くことができている」

 みのりは自分の両手を見つめ呟く。


「でも、怖いんです。私もいつか自分の意思がなくなってしまうんじゃないかって」


「君はこの前、この世界はゲームだと言った。この世界に来る前のことを覚えているのかい?」


「それも禁則事項です。そのことについて話すと私の意識もシステムの支配下にはいって自由な活動ができなくなります。この前は一定期間で意識を戻すことができたけど、今後はどうなるかわかりません。いずれ私もあの行列に加わってしまうのかもしれない……それが怖いんです」

 みのりは恐怖におびえる表情を見せた。


「私がお手伝いできることは、もう何もありません」

 それだけ言うと、みのりは苦しそうに身をかがめた。


「ここまでです。これ以上は話せません。ごめんなさい、もう戻らないと」

 逃げるように席を立つみのりの腕をつかんで、ぼくは最後の問を掛ける。


「じゃあ、ぼくはいったいどうすればいいんだ?」

 

「わかりません。でも一つ確かなのは、普通に攻略するだけではダメだということです」


「ああ、知ってるさ、どのヒロインと結ばれたって死んでしまうっていうんだろ!」

 ぼくの言葉に、みのりがさらに苦しそうに答える。


「違います。あなたがハッピーエンドを迎えることは、死よりももっと恐ろしいことになってしまう。あなただけは何とかこの世界から……」

 みのりの表情が急に変わった。


「時間です。もうすぐ私の意識もシステムに支配されます。ごめんなさい、もう戻らないと」


「待って、まだ聞きたいことが……」


「また今度。でも気をつけて。システムがあなたの異常行動を感知し始めているかもしれません」

 みのりはぼくの手を振り払うと、逃げるように喫茶店を出て行った。



 

 一人残されたぼくは、衝撃的な真実を前に混乱していた。この世界は、ただの恋愛ゲームではなかった。無数の人々が囚われた、巨大な牢獄だったのだ。

 そして、ぼくがヒロインたちとハッピーエンドを迎えることは、死よりも恐ろしい何かを意味するらしい。


 みのりの言葉が頭に蘇る。「あなただけは何とかこの世界から……」


 彼女は、ぼくにこの世界から脱出してほしいと願っているのだろうか。しかし、それは可能なのだろうか。そして、他の囚われた人々を置いて、自分だけが逃げることは正しいのだろうか。


 答えのない疑問を抱えたまま、ぼくは夕暮れの街を歩いていた。







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