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第七話 揃わぬ理由

第七話 揃わぬ理由



 山道を、五人は進んでいた。




 静かだった。




 だが、その静けさは心地よいものではない。




 どこか――




 “見られている”ような感覚。




「……まただな」




 犬山道節が低く言う。




「ああ」




 犬川荘助も頷く。




「気配が消えない」




 犬田小文吾は周囲を睨む。




「出てこねえのが一番厄介だな」




「……出てこないんじゃない」




 犬坂毛野が言った。




「“出る必要がない”だけだ」




「どういう意味だ」




 信乃が問う。




 毛野は、少しだけ間を置いた。




「俺たちは、もう“見られている”」




 その瞬間だった。




「正解だ」




 声。




 どこからともなく響く。




 だが、今回は違う。




 現八の時のような歪みではない。




 もっと――




 はっきりとした存在感。




「……姿を見せろ」




 信乃が言う。




 すると――




 木の上から、一人の男が降りてきた。




 軽やかに。




 音もなく。




 その動きには、無駄がない。




 だが、どこか“軽い”。




「やれやれ」




 男は肩をすくめる。




「せっかく静かに見てたのに」




「……何者だ」




 道節の声が鋭くなる。




 男は、にやりと笑った。




「犬江親兵衛」




 軽い口調。




 だが、その目は笑っていない。




 そして――




 胸元。




 光る珠。




 刻まれているのは――




 「信」


挿絵(By みてみん)


「……六人目か」




 荘助が呟く。




「そうなるね」




 親兵衛はあっさりと答えた。




「で?」




 信乃を見る。




「集めてるんだろ、それ」




「……ああ」




「なら、質問」




 親兵衛は、指を一本立てる。




「なんで、まだ揃ってないと思う?」




 一瞬、沈黙。




 小文吾が眉をひそめる。




「そりゃ、まだ見つかってねえからだろ」




「違う」




 即答だった。




「じゃあ何だ」




 道節が睨む。




 親兵衛は、少しだけ笑みを深めた。




「“揃ってはいけない状態”だからだよ」




「……何?」




 信乃の表情が変わる。




「どういう意味だ」




「そのままの意味さ」




 親兵衛は肩をすくめる。




「八つの珠は、ただ集まればいいわけじゃない」




「条件がある」




「条件……?」




 荘助が反応する。




「そう」




 親兵衛は一歩近づく。




「それぞれが、“本来の徳”を持っていないと」




「揃わない」




 その言葉に――




 全員の視線が、自然と小文吾へ向く。




「……なんだよ」




 小文吾が不機嫌そうに言う。




「俺は戻っただろ」




「戻った」




 親兵衛は頷く。




「だが、“完全”ではない」




「……っ!」




 空気が変わる。




「どういうことだ」




 信乃が問う。




「簡単だよ」




 親兵衛は言う。




「一度、珠に飲まれた」




「つまり――」




 一拍。




「また、落ちる可能性がある」




 小文吾の拳が、わずかに震える。




「……言わせておけば」




 だが――




「事実だ」




 毛野が静かに言う。




 小文吾が、振り返る。




「お前……」




「否定できるか?」




 冷静な声。




「……」




 言葉が詰まる。




 その時だった。




「……そこまでだ」




 信乃の声。




 全員が、そちらを見る。




「弱さがあるなら、支えればいい」




 真っ直ぐな言葉。




「それでいいだろ」




 沈黙。




 そして――




 親兵衛が、ふっと笑った。




「……やっぱりな」




「何だよ」




 小文吾が言う。




「試してただけさ」




「は?」




「お前らが、“ただの寄せ集め”かどうか」




 その言葉に、道節の目が細くなる。




「で、結果は」




「合格」




 あっさりと言った。




「少なくとも、“崩れない”」




 そして、珠に触れる。




 それは、静かに光っていた。




「信は、繋がりだ」




「疑ってばかりじゃ、成り立たない」




 信乃は、少しだけ笑った。




「……なら、どうする」




「決まってる」




 親兵衛は言う。




「俺も行く」




「……いいのか」




「いいさ」




 一拍。




「面白そうだから」




 軽い口調。




 だが、その目は真剣だった。




 六人。




 ついに、ここまで来た。




 だが――




「……あと二つ」




 荘助が呟く。




「まだ足りない」




「ああ」




 道節が頷く。




「だが、近いな」




 風が吹く。




 六つの珠が、わずかに共鳴する。




 その光は、確実に強くなっている。




 だが同時に――




 何かが近づいていた。




 見えない圧力。




 試されるような感覚。




「……来るぞ」




 毛野が低く言う。




 誰もが、理解していた。




 ここから先は――




 今までとは違う。




 “揃うこと”そのものが、試練になる。




 物語は、核心へと近づいていく。

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