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何時かの夢と花束



 季節は春、様々な花が咲き誇る季節。俺は学園から、ノワール城への帰路を辿り城下町の噴水広場で待ち合わせをしていたリンと落ち合った。


「次はアルカンシエルの視察、でしたね」


「はい、今日のスケジュールはそれで最後になりますが…最近お疲れではありませんか?アンナ様」


「ありがとう、リン。でも大丈夫ですよ、寧ろ早く園の子供達に逢いたいのでわくわくしています」


 そう、今日は4年前に設立した児童養護施設と学園、両方の性質を持つ孤児、一般問わず各々の優秀な才能を開花させる手伝いをする場。(アルカンシエル)学園の視察に赴く日だ。


 設立して暫くは好奇の目で見られていた学園ではあるが、今では孤児、一般枠で入学した者問わず才能を開花させ、あらゆる業界から期待されるまでになっている。



「アンナ様は本当に子供達が好きですね…では、園に着くまでは少し仮眠を取っていてください、到着次第起こしますので」


「ありがとう。…では、少しだけ休ませて頂きますね…」


「はい、おやすみなさい。アンナ様」



 噴水広場から少し離れた駐車場に停めていた車に乗り込み、促されるがままに座席に体重を預け眠りにつく、此処からなら普通に走れば30分で着くだろう。


 重たい瞼をゆっくりと綴じれば、そのまま眠りに着いた。


◆❖◇◇❖◆


 夢の中、というのは不思議なものだ。俺自身が夢だと認識しているにも関わらず、俺は前世の夢を見ていた。



「おかえり!お兄ちゃん!」


「おう、ただいま。ちゃんと寝てたか?」


「うん、ちゃんと寝てたよ?私も早く学校行きたいなぁ…」


 妹の春姫(はるき)は生まれた時から身体が弱かった、アルビノ…それに伴い幼い春姫は昔から奇異の目で見られ、心無い言葉を投げ掛けられていた。


 その度に俺は春姫を侮辱した奴等を殴る日々を送っていたが…それ故に血も涙もない悪魔、という呼び名が定着した。


 だが、それ自体に後悔の念を覚えた事はない、寧ろ俺自身が悪魔なら春姫を虐めた奴等にとっての鏡として存在する事が俺にとっては誇りでもあったからだ。



「はしゃぐとまた熱上がるぞ、…ほら、身体拭いてやるから服脱ぎな」


「は、恥ずかしいよ…それに身体なんて一人で拭けるから…」


「何恥ずかしがってんだか、…赤ん坊の頃から世話してんだから今更だろ。……ごめんな、親父もお袋もあんなんでよ」



 まだ小さな春姫が何故恥ずかしがってるのか、当時の俺には理解出来なかったが、事業に失敗して呑んだくれる親父とそんな親父に隠れて浮気をしているお袋が情けなかったのは今でも覚えている。



「どうしてお兄ちゃんが謝るの?それに今が苦しいだけだよ、ちゃんとお仕事が決まればパパ達もまた前みたいに…こほっこほっ」


春姫(はるき)!…俺がもっと早く生まれてりゃ…ごめん、ごめんな…」


「だい…じょぶ…っ…ぁ…身体を拭いたらゲームしよ…?お兄ちゃん、おままごとはしてくれないけどゲームはどんなのでも一緒にしてくれるから…」


「っ…ばーか、おままごとなんてこの歳でやれっかよ、ゲームは…まぁ、嫌いじゃねーからな」


「もう…っ…えへへ…お兄ちゃんの手…優しくて大好き…」


 虐めにより精神的に弱っていたからか、それともアルビノという体質がそうさせるのかは、当時の俺には理解は出来なかったが、身体が弱い春姫と遊ぶツールの1つとしてゲームは大いに役立ってくれた…身の回りの世話と一緒に遊んでやる事しか出来なかった俺にとって、ゲームは春姫との繋がりだったんだ。



『おにぃちゃ……いき、て…ね…?』



◆❖◇◇❖◆



「アンナ様、到着しました。…どうかなさいましたか、アンナ様…?」


「……いえ、少し懐かしい夢を見ていたようです」


「…左様でございますか、…矢張り今日はもうお休みになられた方が」



 心配そうに見詰めてくるリンに、俺は目尻に溜まった涙を拭い笑みを浮かべる。どうやら泣いていたようだ。



「いえ、問題ありません。子供達が待っていますから」


「…お供いたします、アンナ様」


 最近重みを感じてきた胸を揺らしながら車を降りると園の入口へと歩き出す。リンもそんな俺に従うように3歩後ろを歩き始めた。



─────

───


 2時間後、俺はリンを伴いアルカンシエルの施設を園の責任者であり理事長でもある、シエラに案内されていた。



「本日はお越し頂きありがとうございます、殿下」


「いえ、一ヶ月に一回は足を運びたいと言ったのは私ですから…あれから変わりはありませんか?」


「はい、園でお世話をしている子供達も皆、大病を患う事もなく健やかに過ごしております。また、園の外から来る子供達も皆優秀な子ばかりでノワール国の未来も明るいかと」


「そうですか、それは何よりです」



 芸能、料理、服飾、星騎士…あらゆる職業に就く為の才能を開花させる為の一助とする学園の長の言葉に穏やかな笑みを浮かべていると、3人の生徒が入ってきてその内、真ん中の少女が色鮮やかな花束を差し出してきた。



「「「アンナさまー、お花あげます!」」」


「私に…?宜しいのですか…?」


「はい、子供達がどうしても殿下に差し上げたい、と…1輪ずつ育てたものです、どうか貰って頂けたら私共としても…」



「…分かりました、皆、ありがとうございますね?」


 この花、1本1本が此処に居る子供達の気持ちなら有難く貰おう、俺は満面の笑みを浮かべる自分(アンナ)とそう変わらない子供達に笑みを浮かべ返し花束を受け取った。

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