プロローグ〜獣達の話し合い〜
場所はノワール国、ノワール城の円卓の間。此処ではこの国が抱えるS級星騎士達が3ヶ月に1回顔を合わせ互いの情報を共有し合う。
今回は、今年開催されるS級星騎士が一堂に会するS級星騎士リーグと、彼女達が仕える主の子孫にあたり、彼女達がG級星騎士にまでに教え導いた少女のチカラが題目として挙げられていた。
「アンナ様も今年で12歳…ですか…」
「そうだね~、未だ歴史とか勉強面で知っていって欲しい事はあるけど、少なくとも星騎士としての練度だけでいえばG級星騎士に恥ずかしくない実力は持っているよ~、それはアンナ様を4年間教師として指導してきたアタシが保証するよ」
執事服を身に纏う男装の麗人、このノワール国有数の剣豪であるリンの呟きに対し、メイドと教師の2足のわらじを履くシュリが豊かな胸をより強調するように胸を張ってアンナの星騎士としての成長を語る。
「うむ、4年前…アンナ様が8歳になった年には時期的な問題もあり、参加出来なかったS級リーグでアンナ様が何処まで神槍を扱えるか見定めるのじゃろう?」
「そう言えば、アンナ様が訓練で神槍を使ったって話は聞いていないし、オレが見た感じじゃ扱ってる所も見た事がないっすね、そこん所はどうなんすか?シュリ」
S級星騎士が互いに武を競い合うSリーグは4年に一度開催される。4年前、つまりアンナが8歳になる年には既にSリーグは開催され、時期的に出場資格は無かった、という訳である。
更に、この話し合いはアンナが持つ破壊の力、神槍を今現在、何処まで扱えるのか、扱えたとして現在の設備で満足に戦えるのか、というのが議題の一つとなっている。
それを理解しているのか、シュリはコメカミを人差し指で抑えながらレイとハクの問いに答える。
「ん~…一応“振れてはいる”って感じかなぁ…リンちゃんの時みたく記憶の混濁化も見られないし、普通に振る程度には扱える様にはなったみたい?あの神槍自体が破壊の力を持った力の塊だから制御も激ムズだよ~…もう少し自由に出来る時間があれば、ってつくづく思う~。ただ、近くで指導出来るアタシは、その間アンナ様のデータを採取出来るから何とか大会迄には専用の強化フィールドを作れそうだねぇ」
「なるほど、シュリはやる事はやっている訳ですね…お疲れ様です。アンナ様は学園生活に加えユリウス様とフリードリヒ様の補佐をしているという事もあり多忙ですから今以上を望むのは酷というものでしょう。今年のS級リーグはアンナ様にとって良い刺激且つ息抜きになるのでは?」
「えぇ、少なくともアンナ様の今の実力であればSSSリーグに出てくる星騎士では最早、経験値は見込めないでしょう。それでしたら今年のSリーグはアンナ様にとっても、我々にとっても実り多き試合になるようにペアを組んだり、何か特別なルールを考えユイ様に掛け合うのも良いのでは?」
ただでさえ多忙であり、然しG級星騎士として、何よりウルガルド学園のいち生徒としてSSSリーグに毎年参加しているアンナではあるが、傍から見たら全力を出せない相手との試合とは思いの外ストレスが溜まるものだ、警視総監である立場としては褒められた言動ではないが、自分達S級星騎士なら、ある程度全力で戦えるだろう、というのがセイの言。
それに呼応し、そして補足するようにリンが提案する。ただでさえ4年前、自身と引き分ける形で神槍の力を振るっていたのだ、それをある程度自分の意思で扱えるという事、何より神槍が齎す“進化”という名の成長性という観点から、従来の一対一というルールではアンナに経験を積ませる、というのは難しいと判断したのだろう。
それ等を踏まえた上で、シュリは首を横に振る。
「それも手かもしれないね~…ただ、リンちゃんは神槍を使ったアンナ様と戦った事があるから分かると思うけど、はっきりと意識がある状態で神槍を扱うアンナ様と戦うのは一筋縄じゃ行かないよ?さっきも言ったけど、大会までには強化フィールドを作れるとは思うけど、変わった事はあまり出来ないかも」
「かといって、大会の趣旨とユイ様の思惑としては神槍を使わせずに戦って頂く、というのも…ですね」
「「「「「………」」」」」
5人は考え込むが、これと言って良い案は浮かばない。無理もない話ではあるが、神槍を使わせない、という選択肢は存在しない。主であるユイの為、というのも勿論あるが各々の思惑として神槍を扱った戦闘を経験させ、更なる高みに登ってもらう、という共通意思が5人の中には存在する。
「…此処であれこれ考えても今はどうしようもあるまい?取り敢えず、今年のSリーグは例年とは違った試みを考える、という事でよいな?その辺はわしからユイ様の耳に入れておくとしよう」
「そうだね~、アタシも一応どうすればアンナ様にとって一番効率の良い環境に出来るかを考えておくね~?」
最初に口火を切ったのはレイであった、始祖神と並々ならぬ縁を結んでいる彼女は個人的にもユイとは浅からぬ関係であるが故、ユイの耳に話を入れるというのは造作もない。
シュリはメイドとして、何より教師としてアンナの事を優先して大会当日迄に戦い易いフィールドを作ると口にする。
「…それでしたら、当日の警備は私とハクにお任せを」
「そうっすね、例年通りなら今年はノワール国の軍と警察が警備を担う予定だし」
「では、私は当日までは変わらずアンナ様を支えるとしましょう、執事ですからね」
セイとハクは各々、警察と軍に所属している身として万全なる警備を約束し、リンは執事として、何よりアンナの願いを知る者として務める事を誓う。
全ては、各々の思惑の為に。




