エピローグ〜支え〜
エミルが先輩メイドから聞いた情報を元に、私室へと向かうとそこには扉の前で顔を俯かせているエステルが立っていた。
「矢張り貴女でしたか、エステル」
「ごきげんよう、アンナ様。…どうしても2人きりで話したくて…御迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いえ、構いませんよ。…取り敢えず中へ入りましょうか」
「申し訳ありません…」
申し訳なさそうに謝るエステルに、俺まで申し訳なく感じるが、先ずは部屋に招いて落ち着いた状態で話した方が良いだろう。…話の内容自体心当たりがあるとしても、だ。
「いえ、…それで、話しとは…?」
「SSSリーグの件に関してです、…周りは良くてA級星騎士レベルなのにアンナ様は明らかに次元が違うから…」
「そうですね、はっきりと言ってしまえば星武器を展開しなくても問題ないレベルではあるかと」
矢張り、エステルはSSSリーグを何処かで観戦していたのだろう。リンやシュリに聞いた所、今年はある意味では荒れたらしい。例年を知らない身としてはあまり興味はないが。興味があるとしたら対戦相手が若さ故に柔軟な戦い方をしてくるかどうかだったが…蓋を開けてみればなんて事はない、彼等、彼女等は“普通の少年少女だった”
「だったら…!「しかし」…」
「然し、それが本気で向かってくる相手を侮る理由にはならないし、何より、負ける理由にもなり得ません。やり過ぎないように対戦相手の力量を見極める眼を養う必要はありますが…」
そう、普通の少年少女に俺という異物が混ざればどうなるか等、最初から分かりきっていた事だ。
◆❖◇◇❖◆
1回戦目の対戦相手は親が何処かの国の貴族のボンボンだった、歳は14歳…だったか?牽制がてら頬を掠める程度に狙いを定め、弾丸を打ち込むと彼のサーベル型の星武器を打ち砕きフィールドを貫通した。
『ひっ、ひいぃぃぃ!?』
結果は相手側の戦意喪失によるリタイア。
2回戦目、ノワール国…つまり親父が将来性を見出し唾を付けようとしていた軍が運営する学校に通う将軍の娘が相手だったが、彼女の得物であるアサルトライフルの弾道を読み取り、そこに一発だけ弾丸を打ち込むと彼女の弾丸を全て破壊し横腹を掠める。
『こんな化け物と戦えるか…!』
これも戦意喪失によるリタイア。
『悪魔め…!』
準決勝、対戦相手はチェーロ皇国のとある神官の息子で、繰り出したのは小さな円環を数珠繋ぎにした不思議な星武器だった。円環の一つ一つはその中心から魔力を凝固させレーザーのように放つ面白い創りをしていたが、担い手自身は空間を斬るには至っていなかったらしく、空間を裂く事で無効化させ、魔力切れにより試合続行不可能という状態に追いやった。
『血と才能に恵まれただけのくせに…!』
決勝戦、ロングソード型の星武器を展開する騎士の産まれの少女だった、星武器自体はありふれていたが唯一まともな戦いが出来た相手と言える。腕前だけならA級騎士に匹敵するが…彼女の攻撃が俺の防御を突破する事はなかった。
◆❖◇◇❖◆
試合中、或いは試合終了後に吐かれた暴言は記憶に新しいが、エステルは両目に涙を浮かべながら訴えかけてくる。
「どうして…どうして貴方がそんなに傷付けられなきゃいけないんですか…!?」
「…私は傷付いていませんよ、寧ろ…SSSリーグの事を知っていて尚、こうしてパーティに参加してくれる貴女や皆には感謝していますし、私の事を良く知らない方に何かを言われたとしても、それは“想定内の事”ですから」
「っ…」
そう、全ては分かりきった上で行った事。縁もゆかりも無い、唯その時に対戦した相手に何を言われようと俺は気にしない。前世も今も、俺は真の意味で俺をダチ公や仲間だと言う奴の言葉しか真に受ける事はない。
誰だってそうだろう?手前を愛してくれる奴を愛する、それは当たり前の事だ。…こうして本人以上にキレて、涙を流してくれるエステルが俺は愛おしい。
だから、俺はエステルの背中に片腕を絡め、髪を梳かす様に撫でて宥める。
「私の為に憤ってくれてありがとうございます。でも、私の為に泣かないでください…私にはこうしてあげる事しか思い付かないので…こんな悪魔に抱かれたくはないでしょう?」
「…貴方は、悪魔なんかじゃないです…っ…優しくて、不器用な…皆の希望ですから…」
皆の希望、か…そんな大層な事はしていないが、取り敢えず泣き止んでくれたなら良かった。
身体を離し、涙を指先で拭いながら俺はエステルに問う。
「ふふ、ありがとうございます。…エステル、良かったらエステルも新しく立ち上げるプロジェクトに参加してくれませんか?」
「プロジェクト…ですか?ノワール国が新しく立ち上げる企業と関係あるのでしょうか?」
「えぇ、…親族の居ない子供達の為の施設兼、その中でも各々に合った才能を、よりのびのびと開花させる為の専門の学校を併設する予定です。今は一人でも多く優れた人材が欲しいので…どうでしょうか?」
「…嬉しいです、アンナ様が私を必要としてくれる事が。…でも、今すぐはごめんなさい」
「もちろん、今すぐに来てくれるのが一番嬉しいですが、大人になってからでも構いません…矢張り御両親の事が気掛かりなのでしょうか…?」
「…はい、気にしているのは私だけかもしれませんが…」
「…御家族想いなのですね、…なら、これだけは忘れずに居てください。…どんな状況でも、私は貴女を支える、と」
今は、これで良い。何時か見た夢では互いに争ったエステルが、今の様な笑顔で過ごせる日々を過ごせるように、俺はエステルを含むダチ公達を護るだけだ。
「アンナ様…、ありがとうございます。…私も、貴方を支えたいです」
「ありがとうございます、エステル。…さ、パーティに戻りましょう?エステルも皆と一緒に楽しんでくださいね」
窓の外から此方に向かい手を振る皆の元へ案内するように、俺はエステルの手を取り歩き出した。




