パーティ〜終幕〜
周囲の動揺とざわめきを打ち消すように、フリードリヒは努めて冷静を装うように問い掛けるが、その目は真剣そのものであった。
「S級を目指す…アンナ、御前はそれが何を意味しているのか分かって言っているのか?」
「はい、お父様。S級になれば幾ら国王であろうと簡単には王命を下す事は出来ない、何故なら本来S級以上の星騎士はユイ様が指揮系統の全てを担う『星々の騎士団』に所属する決まりがあるから、それは学生であろうと年齢に関係なくS級にランク付けされた時点で変わらない…ですよね?」
正直、『星々の騎士団』が何を目的に存在する団体かは分からない。が、リンやシュリ、レイにハク、セイがフリードリヒやユリウス爺さんよりも、ユイ様に敬意を払っている以上、単なる王族以上の権力をユイ様は持っている事になる。
そしてサルヴァトーレの反応を見るに、皇帝よりもその権力は上らしい事が分かった。──勿論、その危険性も。
「…その通りだ、だが御前は分かってない。『星々の騎士団』に所属するという危険性「…たとえ」…?」
「例え、この手を血で汚しても、例え、此の身が血と汚泥に塗れようとも、護るべきものを護り、救えるものが救えるなら…私は騎士になります。皆を護り救える騎士に」
そう、どんなに汚泥に塗れようが、どんなに血に汚れようが、そんなのは前世で“既に通ってきた道に過ぎない”
「アンナ…っ、私は認めぬぞ!何処の世界に我が子を危険に晒して平気な親が居る!」
「落ち着け、フリードリヒ殿。…アンナ姫、君の覚悟は今、聞かせて貰ったがそれは王族としての役目から逃げるとも聞こえるが?」
フリードリヒの焦りようと言葉の端々から伝わる、俺に対する愛情に嘘はないのだろう。
そして、サルヴァトーレの言葉も客観的に見たら逃げているように見えるのも理解は出来るが、その言及に対しての返答は既に用意している。
「サルヴァトーレ様、それは違います。寧ろ考えてもみてください。仮に私がS級以上の星騎士になった場合、実績と人徳を積んだ女を婚約者として改めて迎え入れた時に何が起きるか、という事を」
「……成程、考えなしの癇癪では無いらしい。然し「面白いではないですか、サルヴァトーレ、フリードリヒ」…ユイ様」
パーティ会場に繋がる扉から、リンを伴い俺の横迄やってきたのは、俺に『星々の騎士団』を始め、様々な情報を教えた上で覚悟を示す手段を教えてくれたユイ様であった。
「S級以上を目指す、それがどんなに困難な事かを知らない貴方達ではないでしょう?…幸い、試験開始日もそう日を待たずして訪れる…その結果を聞いてから婚約の儀の日程を決めるのでも遅くはないでしょう?」
「……ユイ様がそう仰るのであれば」
「然し…「それからフリードリヒ、仮にS級以上の星騎士になったアンナをどうしても、王族として置いて置きたいのであれば私が知恵を貸してあげますので後程、私の部屋まで来なさい、良いですね?」…分かりました」
「ありがとうございます、ユイ様」
「私は恩返しをしたに過ぎませんよ、大変な道程だとは思いますが、精進なさい」
「はい、ユイ様」
そのまま、この場を後にしようとするユイ様に腰を曲げ、頭を下げる俺にだけ聞こえるように耳許まで唇を近付け激励の言葉を投げ掛けてくれる彼女に笑みを浮かべると、サルヴァトーレとフリードリヒは遅れて彼女の後を追った。
◆❖◇◇❖◆
未だ騒然としているパーティ会場を抜け出し、庭園で集まり直した俺達は、互いの顔を見遣り安堵の吐息を吐きながら談笑を始める。
「S級以上…すげぇ事言い出すもんだな、御前…」
「うん、びっくりしたよ…」
「あの、S級以上って存在するものなんですか?」
未だデバイスを手にしていないエリーが疑問を問い掛けるが、俺自身その存在を耳にしたのはユイ様との会話が初めてだ。此処は、それがどれだけ周囲に浸透しているのかを知る為に静観するとしよう。
「Fランクから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がって行くのは知っていますが…」
この中で恐らく、俺の次くらいに、星騎士としての知識を吸収中のエステルが答えるが、それでもS級迄の知識がなく、周りも唸っている。
知りたい事は知れたので答えを出す。
「G…GODの頭文字を取ってSの上にGが来るとの事ですがそれ以上はユイ様からは何も」
「あ、やっぱり誰かの入れ知恵だと思ったら!おかしいと思ったんだ、脳筋な御前からあんな頭良さそうな交渉が出てくるなんて」
「……後で〆るとして、2人がお父上に異を唱えるとは思いませんでした。何かあったのですか?」
正直、此奴にだけは脳筋だのなんだのは言われたくなかったが、エリー絡みじゃない事に噛み付くとも思ってなかった為、小首を傾げ問い掛けると、2人は互いを見合い笑っている。
「へへ、そりゃあ」
「ふふ、秘密です」
「…?…そうですか」
「…アンナ様…鈍感さんです…」
「…?」
何処か拗ねたように呟くエステルの真意が分からないまま、ひと騒動もふた騒動もあったパーティは終わりの時間を迎えるのであった。




