第一章 12 『それぞれの想い』
「はあ、今の状況をティスのあいつに任せて本当に大丈夫なんだろうか……」
学院長室を出たセリアが小声で呟いた。
正直なところ、セリアはティスに二回代講を頼んだ後で、これ以上頼み続けるのは気が引けていた。何せティスも学生だ。
ずっと代講させていれば変な噂が立つかもしれない。しかしジェイロスのあの精神状態を考えると、ティスの方がまだ安全な選択のように思えた。
「ああ、面倒だな……」
しばらくして、悩み事を抱えたセリアは二組の教室の前に立ち、気持ちを整えてから教室に入った。
セリアのクラスが有名になってからというもの、毎日多くの生徒が二組に現れるようになった。たまに上級生がこっそり授業を覗きに来ることもあったが、すぐに自分のクラスの講師に連れ戻されるのが常だった。立って授業を聞く生徒が出るほどになっていた。
セリアの授業スタイルは生徒たちに大きな利益をもたらし、「従来の教育思考を捨て、魔法を大量に暗記するのではなく、魔法を理解することを学ぶ」という指導方法は、在校する他の講師たちにも感嘆の念を抱かせていた。
ただしセリアは誰でも受け入れる姿勢で、ここで授業を受ける者は皆自分の生徒であり、ここで学び議論することができた。
「……魔法には『汎用魔法』と『固有魔法』の二種類がある。『汎用魔法』について言えば、お前たちが使っている元素魔法——土、水、火、風、雷、光、闇など、そして白魔法や黒魔法も、ほとんどが汎用魔法に分類される。」
そう言って、セリアは黒板に一つの魔法呪文を書いた。
「昨日の『麻痺電流』を例に取ろう。たとえ古代に置いてその威力が大砲のようであっても、それは汎用魔法に属する。そして今の汎用魔法は、何世代にもわたって改良を重ねてきたものだ。だからこそ、私はお前たちに魔法呪文を創造的に扱うことを学んでほしい。子供でも覚えられるような硬直した知識をただ覚えるだけじゃ、あまりにもつまらないだろう……」
セリアは台下の生徒たちに向かってそう言った。
「そして『固有魔法』とは、魔法使いが汎用魔法を基に、長年の研究と改良を経て、自分だけの魔法を創り出すことだ。簡単に言えば『カスタム魔法』だ。ただしこれは非常に難しく、普通の者はまず汎用魔法をしっかりと身につけることから始めるべきだ。」
固有魔法が非常に強力で構造も簡単だと思っている学生たちを慰めるかのように、セリアはそう言った。
「どうした、打撃を受けたか?心配するな。お前たちにもいつか自分だけの魔法を見つけるチャンスはあると信じている。ただ、私についてきて学び続ける気があるかどうかだ。もし見つからなくても、私のせいにするなよ?でも私はお前たち全員にそのチャンスがあると信じている。」
セリアの言葉に、一部の生徒は笑い、一部の生徒は眉をひそめてこれらの言葉を考え込んだ。
「魔法には確かに一定の才能や素質が必要だ。しかしそれ以上に、その後の学習と知識の蓄積が重要だ。才能があるというのは、結局は学習時に内容をより早く理解できるというだけであって、結局は絶えず魔法を追求し、探求し続けることが必要だ。もし才能があると思って立ち止まるなら、むしろ別のことをやった方がいい。」
セリアの言葉が終わると同時に、下校のベルが鳴った。
「……もう下校か?早いな。よし、今日はここまでにしよう。」
下校を宣言すると、皆が一息ついた。
誰もが真剣に授業を聞いていた状態から解放され、ただずっと机に突っ伏して眠っていたティスだけは、常にリラックスした状態だった。
以前は一部の生徒が彼の態度に不満を抱いていたが、何せティスの学力は確かだったので、次第に彼のこの怠けた態度を受け入れるようになっていた。
「はあ……本当に疲れるな。」
ティスの隣に座るエリーナがため息をついた。
「でも、セリア先生の授業は本当に素晴らしいよね。」
「そうだね……でもずっと集中し続けるのは疲れるよ。セリア先生の言葉はどれも重要に感じられるから。」
セリアが教える知識は確かに重要だったが、一部の生徒はセリアの言葉を全て心に刻み、余談さえも逃さなかった。エリーナはまさにそうだった。
「……そんなに自分を追い込まなくてもいいんじゃない?ほら、ティスくんを見てごらん、ずっとリラックスしてるよ。」
カルアがエリーナに言いながら、まだ眠っているティスを見た。
「この人は完全に能天気なだけだよ……確かに賢いけど、でも……やっぱり理解できないな。」
「あはは、そうかな。でもティスくんのあの態度は、むしろ充電しているって感じだよ。」
エリーナは眠っているティスを見つめながら、複雑な思いを抱えていた。おそらく授業中に寝ていても正しく答えられる彼の才能に嫉妬しているのだろう。
その時、先ほど教室を出たセリアが戻ってきた。
「ティス——」
セリアが顔を覗かせて、ぐっすり眠っているティスに声をかけた。
「……ん、ああ、何だ?」
「机の上の本や資料を図書館に運んでくれ。ちょっと雑用を片付けないといけなくて、悪いけど頼むわ。」
「ああ……わかった。」
ティスはぼんやりと起き上がり、寝ている間にうっかり垂らしたよだれを拭いた。
起き上がって数秒間呆けてから、隣のエリーナを見た。
「待って、セリアはさっき何て言った?」
「……本を運べって言ったんだよ。寝ぼけてるの?」
「ああ……そうだっけ。」
そう言って、ティスは頭を掻きながら立ち上がり、本を運ぶ準備をした。
「ちょっと待って、ティスくん。私も一緒に行くよ。」
カルアが突然立ち上がって、ティスに言った。
「え?なんで?」
「だって……手伝いたいだけだよ。特に理由はないけど。」
「……好きにしろ。でも、本当に運べるのか?」
「うん、大丈夫。エリーナも一緒に行こう?」
カルアが席に座っているエリーナに言った。エリーナは一瞬固まった。
「ちょっと待って、私は一緒に行くって言ってないよ?でも、確かにちょっと気にはなるけど……」
エリーナも立ち上がったが、少し気まずそうだった。
「まあいいや、手伝わなくても無理には言わないけど。」
「……私も行くわ。万一お前がカルアに何か悪いことをしたら困るし……」
「なぜだか分からないけど、またお前に何か言われた気がするな……」
ティスはまたもやエリーナに何か言われてしまった。
なぜか、カルアとティスのやり取りを見ていると、エリーナの心の中には何とも言えない感情が湧き上がっていた。
「よし、カルア、頼むよ。」
ティスは分厚い本を一冊カルアの手に渡し、穏やかな笑顔を見せた。
そして気性の荒いエリーナには——
「これ、どういうことだよ——!?」
ティスは残りの本を全部エリーナに押し付け、エリーナはよろめきそうになった。
「ああ、楽だな。」
ティスはエリーナの問いを完全に無視して、先に歩き出した。
「こ、これはどういう扱いだ!なぜカルアと私であんなに差をつけるんだ!」
「うーん……さあな。単にお前が態度がでかいからじゃないか。」
「そんな理由で納得できるかよ——!?このクズ野郎——」
後ろから聞こえてくる罵声を聞きながら、ティスの口元はむしろわずかに上がっていた。
……
放課後、他の生徒たちは皆帰宅した。
ティスは数日前に行ったことのある屋上に来て、手すりに寄りかかって遠くの景色を眺めていた。夕日がアスラント魔法学院を包み込み、遠くの街並みや、連れ立って歩く生徒たち——何の変哲もない光景なのに、ティスの胸には異様な感覚が湧き上がっていた。
この学院に来てからの日々で、彼の印象に残ったのは、セリアを除けば、普段接している三人だった。
リスのように思いやりがあり可愛らしい少女、カルア。
そしていつも突っかかってきて、彼に反発し、驚いた猫のような少女、エリーナ。
そして——
彼の頭の中に一人の顔が浮かんだ。暗青色の髪、銀色の耳飾り、話す時にはいつも「何もかも知っている」という余裕を漂わせる男。
ヴィンセント。屋上で彼に「君も魔法が好きなんだろう」と言ったあの男。
ティスは首を振って、そのイメージを振り払った。
「……」
ティスは彼女たちが本当に大きな志を抱いてこの学院に来たのかどうか知らなかった。そして自分はなぜ積極的に彼女たちと接しているのか。
しかしここ数日、彼が彼女たちの憧れる魔法を散々に批判したにもかかわらず、彼女たちの魔法への情熱は決して衰えなかった。
自分より数歳若いティスは、学生としての彼女たちが、軍人出身の自分と何が違うのかを見たかった。彼女たちが成長するのを見守るというより、彼女たちがどのような道を選ぶのかを見たかったのだ。
「はあ、面倒だな……」
ティスは汚い魔法を嫌い、家柄を誇る連中も嫌いだったが、今のところ接しているこれらの学生たちは、彼が思っていたほど悪い連中ではなかった。
「……でも、悪くないな。」
ティスは思わず笑みが漏れた。
「おや~?また人生について考え込んでるのか?」
後ろから突然声が聞こえてきた。ティスが振り返ると——
「……言いたくないけど、お前は本当に場の空気を読まないな。」
燃えるような紅褐色の髪の女性——それはセリアだった。いつもと違うのは、彼女が普段の講師服ではなく、帝国魔導士の軍装を着ていることだった。黒と青の制服のコート、肩章には金色の紋章が刺繍され、腰には緊急用の投げナイフが何本か差してあった。この格好は、彼女が軍務から戻ったばかりか、これから出発しようとしていることを示していた。
「そんなもん、あるわけないだろ。ただの孤独な男子が屋上に立って景色を眺めて独り言を言ってるだけじゃないか。」
「ちっ、余計なお世話だ。」
ティスが苛立たしげに言い返すと、セリアは前に進み出て、彼の隣に立った。
「それで、お前は何しに来たんだ?」
「別に何もないよ。偶然お前を見つけただけだ。」
「……嘘をつけ。何か用があるから、わざわざこんな格好で来たんだろ?」
何せ数年も同僚としてやってきたのだ。お互いのことはよく分かっている。
それにティスはセリアの家に長く住んでいた。同僚でなくても、日常生活でお互いの性格はとっくに掴んでいた。
「私は自分の服を自由に着る権利があるんじゃないか?もしかしたら私の同僚であり学生であり、そして弟でもある奴に会いに来ただけかもしれないだろ?」
「誰がお前の弟だよ?お前はせいぜい俺を引き取っただけで、血の繋がりなんてない。」
「どうして違うと言える?お前は私より七つ年下だ。私のお前に対する育ての恩は誰よりも大きい。」
「ちょっと待て、『育ての恩』なんて言葉を使うな。まるで俺がお前に一生借りがあるみたいじゃないか。」
「俺が何か間違ったことを言ったか?」
「……どこからそんな結論が出てくるんだよ。」
セリアの外見は二十代前半の若い女性に見えた。確かにティスの年長者と言える年齢だった。
しかしティスにとって、彼女のこの適当な態度はどうにも耐え難いものだった。
「でも、最近は元気になったな……」
「ん?」
セリアが感慨深げに言った。ティスは意味が分からなかった。
「お前も気づいているだろう。最近のお前の状態は前よりずっと良くなっている。まだ生きるのに絶望しているような顔はしてるけどな。」
「おい、それはどういう変な例えだよ——」
「でも前は……生きるのが辛そうだった。」
その言葉に、ティスはうつむき、沈黙した。
「軍がお前の処罰を死刑から監視に変えてから、お前は毎日まるで生ける屍のように生きていた。あの時お前が何を考えていたのか、私には分からない。」
「すまなかった……」
「いや、謝る必要はない。責任は私にある。」
セリアは全身を沈ませ、普段の授業中の自信に満ちた姿とは別人のようだった。
「もし私がお前を軍隊に連れて行かなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。もしあの時お前を魔法学院に送っていたら、もしかしたら……」
「もういい。」
ティスが彼女の言葉を遮った。
「この世に後悔薬はない。あの時は俺が愚かだったから、こんなことになったんだ。」
「でもお前は今も魔法を拒絶し、他人を憎み始めている。」
その言葉に、ティスは目を見開いた。
「……だからお前は、俺に魔法への情熱を取り戻してほしくて、魔法学院に行くことを認めたのか?」
「それだけじゃない。この過程で、お前に心から信頼できる友人ができることも願っている。せめて他人を憎むのはやめてほしい。」
セリアの心配そうな表情を見て、ティスは申し訳なさを感じた。
「本当にお前は、もうその年になってまでそんなに心配性なんだな。俺は確かに多くのことを嫌っているが、少なくともお前のことは嫌っていない。考えすぎると白髪が増えるぞ。」
「私の年で白髪が増えるわけないだろ……でも、少なくともお前の態度は変わったな。」
二人の間の空気は和らぎ、セリアも微笑んだ。
「もしあの時、既に魔法への情熱を取り戻していたら、お前は俺を魔法学院に行かせてくれたか?」
「うーん……お前自身の意志なら、もちろん行かせるさ。むしろ行ってほしいくらいだ。」
「なぜだ?」
「だってお前は私の家に五年近く住んでいたんだ。今のうちにたくさん学んで、いつか講師になって自分で稼げるようになれ。」
ティスが取り戻しかけた情熱は、またしてもセリアに消し去られた。
「……さっきの『お前のことは嫌っていない』って言葉、撤回する。」
ティスの文句を聞いて、セリアは笑い出した。その笑顔は夕日の中でひときわ軽やかに見えた。
「もう遅いよ、ちゃんと聞いたからな。」




