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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第七章 セリア・ケイの憂鬱
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安全保障隊半占領下イエール空港

 イエール空港はトゥーロンの東端に位置する。このためルシファー侵入による緊急事態時発生時も、ほとんど影響がなかった。イエール空港を半分ずつ占拠しているポートブリッジ統合軍と安全保障隊の両軍ともお互いを監視するだけで、特に戦闘らしい戦闘もなく、市内の動向に関する情報を収集するだけの時間が過ぎていた。詳細は不明ながらも、事態は推移しつつあることは両軍とも把握をしていた。

「なんでも、キャンプ場のマクエアーの周りに市民が集まっているそうだ」

「なんでマクエアーなのだ。あいつは避難民の代表にしか過ぎないはずだろうが?」

「避難民をまとめる手腕が市民に認められたという噂だ。市閣僚には、緊急事態をさばけるような政治家などいないからな。さしずめ押し付け英雄ってところだろう」

 安全保障隊の兵士は退屈な時間をくだらない情報交換で過ごしていた。安全保障隊による行政の代行は最初こそうまくいっているように見えていたにも関わらず、どこかで狂いが生じていることに気づいていた。戒厳令によって事態は収拾に向かうはずなのに、逆に市内に市民や避難民があふれ出ている始末だった。おかげで、戒厳令は一向に解除される様子がなく、市庁舎周辺に兵員を集中させる事態になっている。空港施設は安全保障隊の最重要拠点に指定されているが、維持可能な最低限の人員にまで減らされていた。

 結果的にイエール空港の安全保障隊は孤立しているとしかいいようがなかった。ドラゴン空襲時もここを死守せよと命令があっただけで、その後は通信が途絶えてしまっていた。補給も届かない。これらはすべて何者かの妨害と思われた。理由は明確である。ポートブリッジ統合軍の動き出しているのだろう。安全保障隊の兵士たちは張り詰めた緊張感を肌で感じ、次に起こるべき何かに備えていた。焦りと沈黙の状況が続き、安全保障隊の兵士たちに疲れが現れ始めていたが、それでも彼らは命令されたとおりに、だが、うつろな表情でイエール空港の半分の占拠を続けていた。

 なんのために?

 安全保障隊の兵士は選ばれた人材であり、一兵卒に至るまで世界がどうなっているかくらいは知らされている。そんな時に、同じ人間同士で対峙することになっている事態に対して疑問がないわけではない。

「おい、なにか聞こえないか?」

 見張りを担当していた安全保障隊の兵士の一人が相棒に尋ねた。

「なにも、聞こえないが……」

 相棒は大きなあくびをしながら気のない返事をする。こんな朝早ければ市民だって寝ているに違いない。

 だが、なにかが聞こえたような気がした。聞きなれないような音で、まるで金属がこすりあわされるような鋭い音が次第に大きくなってくる。それも、ひとつだけではない。あちらこちらから、いくつもの音が聞こえてくる。

「無限軌道車の音だ。車両が接近してくるぞ」

 二人の兵士が音の正体に気づき、顔を見合わせる。

「どこの部隊だ? 友軍か?」

 相棒が指揮官を連れて戻ってくると、他の安全保障隊の兵士たちが既に集まっていた。

「近づいてくるのはルクレール戦車だ。数は二輛を確認した。さらに未確認の車輛が続いている。ルクレール戦車であれば、統合軍の主力戦車ということになるだろう。どう考えても友軍の車両ではない。ということは、敵側の湾岸警備部隊の援軍ということになる」

「受けた命令はここを死守せよだ。我々はその任務をまっとうするだけだ」

 安全保障隊の司令部は状況を解っているのだろうか? 援軍は期待できるのか? そんな不安が彼らの心の中に芽生えていた。突然の状態に困惑しているのだ。兵士の中に不安を募らせるものが出始めた。

「念のため、伝令を出して状況を報告。援軍の要請もだ」

「手後れです。戦車が目の前まで来ています」

兵士の一人が指揮官の言葉を遮った。ルクレール戦車は横一列に並び、停車しているのが見える。統合軍は戦う気なのだ。もはや友軍など当てにしないで自分たちだけで任務を全うするしかない。

「戦闘配置!」

 安全保障隊はAT-4 CS滑空式無反動砲を構えた。AT-4 CS滑空式無反動砲は安全保障隊が持つ唯一の対戦車砲である。しかし、この単発使い捨ての砲は扱いが難しいだけでなく、ルクレール戦車のような第3.5世代の戦車正面装甲に対しては効果に疑問があった。

「射て!」

 指揮官の命令とともに無反動砲が発射され、ルクレール戦車に命中する。だが、ルクレール戦車はその正面装甲によって砲弾を全て跳ね返した。ルクレール戦車は蚊に刺された程度にしか動揺せず、その威圧感だけで安全保障隊を圧倒していた。

「だめです。相手は統合軍の主力戦車です。装甲が厚過ぎます。我々の装備では太刀打ちできません」

 いくら安全保障隊が武装していても、ただの治安維持部隊でしかない。重装甲の戦闘車両に対しては全くの無力である。このまま、ポートブリッジ統合軍と全面衝突することにでもなれば、自分たちの装備だけでは赤子の手をひねるようにあっさりと破れるのは明白だった。

「お返しがくるぞ」

 ルクレール戦車の列はゆっくりと前進し、安全保障隊の築いたバリケードを踏みつぶしながら、問答無用に割り込んできた。安全保障隊の兵士は旅客ターミナルの奥に逃げるしかなかった。そして、ルクレール戦車はそのまま立ちはだかるように停車した。

 統合軍港湾警備隊のフランクリン・シナトラ少将が率いる陸上部隊の突入により、安全保障隊は追い詰められていた。抵抗らしい抵抗もなく、到着ロビーは統合軍によって取り戻され、安全保障隊は空港発着ロビーのある上階に逃げていった。これにより、空港内の航空部隊施設、もともとはトゥーロン海軍の航空隊基地は、すみやかに安全が確保された。残るはイエール空港の旅客ターミナルに立てこもる部隊だけとなった。

「到着ロビーをクリアしました。損害はなし」

「そのまま前進だ」

 シナトラ少将は、ためらうことなく指示した。

「了解、上階の出発ロビーに向かいます」

 統合軍港湾警備隊は半分に分かれ、片方は到着ロビーに残り、もう片方が出発ロビーに向かう通路を横に広がって進んだ。そのかたわらで、統合運が治安回復に乗り出していること、さらに市庁舎以外は鎮圧されて投降していること、これらの情報をスピーカーで何度も流した。やがて出発ロビーが見えてきた。

「報告します。傾斜路に安全保障隊が待ち構えています。どうしますか?」

「私が話をしよう」

 シナトラ少将は安全保障隊と対峙する場所まで自ら出向くと、彼は最終通告を告げた。

「この地区を占拠している安全保障隊に告げる。既にこの地区は包囲されている。抵抗は無駄であり、援軍は来ることはない。すみやかに、この地区を統合軍の正式な持ち主に返却せよ。貴殿の任務は終了したのだ」

 FA-MASアサルトライフルを構えたポートブリッジ統合軍の港湾防衛隊の兵士が駆け足で現れ、安全保障隊を遠巻きに包囲しようとしていた。

 勝敗は明らかである。安全保障隊の兵士たちに困惑の表情が現れていた。結論を出すまでの数分が何時間にも感じられた。

「了解した。我々は安全保障隊の中でも、ただの警備部隊だ。兵科部隊のような本格的な戦闘は無理だ。ポートブリッジ統合軍に投降する」

安全保障隊の指揮官は司令部の許可を待つこともなく決断を下した。軍人の彼にとっては、命令違反をすることは重大なことである。それでも、自分の部下を正しいことかわからないことに命を落とさせるわけにはいかないのだ。


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