モン・ファロン火器管制室
セリア・ケイ少佐が早口で「赤外線照明弾はある?」と言い終える間もなく、すかさずマールス・グラディウス少尉が前に進みでて照明弾射出装置を構えた。準備に十五秒とかからなかった。
「照明弾用意よし」
「撃て!」
ケイ少佐は命じた。赤外線照明弾は風に流されながらもほぼ真上に向かって飛んでいった。だが、突然、なにかにぶつかったようにはじかれて軌道がかわった。その直後、赤外線照明弾は破裂し強力な赤外線により周囲を照らし出した。赤外線証明弾は人の裸眼では大して明るく見えないが、暗視化を通して見ると非常に明るく見える。
その刹那、暗視化を通して天空を見上げていたすべての人の視線が釘付けになっていた。あまりにも信じ難い光景に、最初は起こっていることを誰も信じようとはしなかった。見えるものがわかっていたにも関わらず、空が無数のドラゴンによって覆われている光景を目の当たりにして畏敬の念にかられてしまった。
「死にたくなければ、絶対にドラゴンを刺激してはだめよ」
最初に我に返ったケイ少佐がトランシーバーに怒鳴った。しかし、その必要もなかった。誰もが恐怖におののいている。恐怖といっても、ドラゴンを恐れているのでない。ドラゴンの姿によって映し出される威圧感に、底知れない不安を感じているのだ。なにかとてつもなく恐ろしいことが起ころうとしている。そんな感じに見えた。
ドラゴンはなにかにとりつかれている。そうとしか考えようがない。何千、何万というドラゴンが北を目差して突進している。他のことはまったく目に入らないに違いない。トゥーロン・イエールやポートブリッジ統合軍基地も例外ではない。今まであれほど人間と反目しあっていたドラゴンが人間の街に目もくれようともしない。
「私の作戦って、必要なかったのかしら?」
ケイ少佐は独り言を言いながらも、基地が襲われなくてほっとしていた。
「あれは?」
ケイ少佐が指差した方向には、今まさに力尽きようとしたドラゴンが一匹、地上に落下しようとしていた。後ろから飛んでいる仲間に衝突され、飛行高度を維持できずに疲労した翼を空しく羽ばたかせている。
「基地内部に入られると厄介です。攻撃しますか?」
ドラゴンに照準を合わせるために対空砲が旋回を開始した。
「だめよ。そのまま、出てってもらうのよ。万一の責任は私がとるから、相手が出ていくまで辛抱強く待つのよ」
地上に落下したドラゴンは明らかに人間の存在に気づいている。だが、むやみに暴れる気はないようだった。ポートブリッジ統合軍もドラゴンを刺激しないように注意深く監視するだけに専念することにした。
幸いにも空のドラゴンの群れには動きの変化がみられない。そのまま通り過ぎていく。一応は均衡が保たれていた。だが、まさしく微妙な均衡である。
「防空戦闘指揮室に出向く必要があるわね。また、シナトラ将軍に攻撃を思いとどまるように説得しなければいけないわ。今度も何を言われるかわからないし、できれば行きたくないのだけれど……。本当は、結果なんて気にしないでパアっと戦った方がよっぽど楽なのよね」




