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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第五章 安全保障隊
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トゥーロン市内市庁舎危機管理室

「ポートブリッジ統合軍憲兵隊から、状況確認の催促が入っています」

 フリードリッヒ・エッカーマン副長官は、既に何度も同じ報告をしていた。

「ほうっておけ」

 ルドルフ・フォン・シュバイツァー参謀本部長官も、既に何度も同じ回答をしていた。

「ですが、これ以上ごまかすことはできません」

 エッカーマン副長官は助言した。

「だめなものはだめだ。やつらに情報を流せるようなことができるか」

 すでに賽は投げられているとはいえ、エッカーマン副長官は、刻々と変化しつつある状況を心配していた。広がる一方で一向に沈静化する気配の見えない市民の被害を憂慮し始めていた。これ以上の被害の拡大は、安全保障隊だけでなく、統合軍の足元も危うくするからである。もっとも危惧すべきは、ロイド・フランク・モンゴメリー統合軍参謀本部総長自身の面子が失われたことである。安全保障隊が統合軍航空部隊の駐機場所となっているイエール空港の半分を占拠したため、彼は完全に面子を潰されたと考えるだろう。そんな状況に統合軍の最高司令官であるモンゴメリー統合軍参謀本部総長がいつまでも甘んじるはずもない。安全保障隊と統合軍との戦力差は歴然としている。早いタイミングで、統合軍と協定を結びなおす必要があると考えていた。

「閣下、報告します」ハインリッヒ・ケーラー親衛隊隊長が危機管理室に入室すると敬礼していた。「ポートブリッジ統合軍の憲兵隊が基地正面ゲートを抜けて、こちらに向かっているとのことです。先頭にプジョーP4ジープ型車両、さらには、数台のTRM2000戦術トラックが確認されています」

「いよいよ来たな。陸上部隊の装甲車ではないのだな?」

 シュバイツァー参謀本部長官は、鼻を鳴らした。憲兵隊ならポーロ・モラン大佐に違いないと考えたため、小馬鹿にしたのである。モンゴメリー統合軍参謀本部総長の腰巾着が、はやくも行動をおこしている。これは予想していたことだった。どうやら統合軍で我々の作戦に気づいたのは腰巾着だけのようだ。それならば、それはそれでやりようがある。参謀本部長官は市長用の椅子に座り、足を組んで余裕を見せていた。

 腰巾着は、憲兵隊の大佐にすぎないくせに、基地外にもかかわらず我々のする仕事に何でも口を出してくる。かつてがそうであったように、今回もまた例外でないらしい。今回の憲兵隊出動は市内の重要施設を確保しようと憲兵隊を送り込んできたに違いない。だが、少しばかり遅かったようだ。今となっては我々の勝ちは決まったようなものだ。重要施設は我々の手中に落ちつつあり、腰巾着がどうあがこうともう手後れなのだ。しかし目障りだけならともかく、何か策略でも企てられて計画に狂いがでるかもしれない。

「リトビノフ市長とその官僚たち、それから、裁判所長、とにかく、大物と思われる者を全員移すことにする。密かに、軟禁中の自宅から市庁舎に集めるのだ」

 シュバイツァー参謀本部長官は、意味を理解しかねているエッカーマン副長官を無視して、ハインリッヒ・ケーラー親衛隊長に命令した。

「閣下、何をしようというのですか?」

 エッカーマン副長官は、人質を取ろうとしていることに気がついていた。彼は勇猛果敢な軍人らしく、人質をとるということに賛成できなかった。だが、シュバイツァー参謀本部長官は、そんなことにはまったく意にも介さなかった。

「くどい。二度同じことは言わん。だが、少しばかり戦力が散らばりすぎているようだ。ここに集結するように各部隊にすみやかに連絡をしろ」

「わかりました」

 エッカーマン副長官は上官の命令に逆らえなかった。敬礼をして後ろに下がると、命令を遂行するべく連絡将校に合図しようと振り返った。しかしシュバイツァー参謀本部長官の話は、まだ終わっていなかった。

「やつらには気づかれないようにだ。いよいよ一回戦の始まりだ。だが戦いの流れはこちらの手の内にある。それを統合軍に見せてやろう」

「閣下、一回戦とはどういう意味なのですか? もしも強行な手段にでれば、市内が戦場になりかねません。それだけは絶対に避けなければなりません。ここはもう一度お考えください」

 市内が戦場になり、廃墟と化す夢をエッカーマン副長官は見ていたのである。そのあまりにもリアルな夢は、彼の心の中で、誰かがなにかを訴えかけているようにも思えた。その訴えが彼の行動に影響を与えていたのである。

 いずれにしても、安全保障隊や統合軍の多くの人間が決断を迫られていた。だが先手を取っていた安全保障隊に時間は味方しようとしていた。しかしながら、この世界の繰り返される時間が示すとおり、現在の時間の流れが常に正しいとは限らなかった。


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