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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第四章 イエール旧キャンプ場
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ポートブリッジ統合軍憲兵隊本部

 ポートブリッジ統合軍憲兵隊は全力を挙げて情報収集を行っていた。しかしながら未だに市庁舎や警察本部と連絡がとれなかった。安全保障隊の策略を早急に警告する必要があるのだが、ただ時間だけが空しく過ぎていった。それどころか、状況はさらに悪化していた。航空部隊の航空機が駐機するイエール空港は統合軍によって管理されていたが、トゥーロンの東端に位置しているために基地から遠く、もともと民間施設であったこともあり警備の盲点を突かれた。安全保障隊によって滑走路などを含む一部の施設を占拠されていることの連絡が入ったのである。それは、統合軍航空機の運用に重大な障害となることは明らかであった。

「戒厳令発令から初動部隊による輸送路の確保、通信体制の整備まで一時間以内。各部隊の警戒配備に、さらに約四時間が必要のはず」

 安全保障隊がクーデターの基盤を完成させるのに必要な時間を、憲兵隊のポーロ・モラン大佐はざっと見積りを計算した。その次になにが起こるのかを彼自身は充分に予測できないでいた。つい今しがた、避難民と安全保障隊が衝突し大騒動が起こったニュースが駆け巡ったばかりだった。避難民どうしの人種や宗教の違いなどがここにいたって表面化し、問題をさらに複雑にさせ危険な状態にしていた。武器を手にした避難民は文字どおりに凶器と化しているのだ。そして、安全保障部隊のクーデターは着々と基盤を固めようとしている。

 モラン大佐はトゥーロン・イエール当局との通信不通なのは安全保障隊の工作によるものと断定していた。あまりにも破壊活動の手際がよすぎる。十分に予想できたことであり、あらかじめ何も手を打たなかった自分が腹ただしかった。

 せめて、市庁舎にいるトゥーロン市の駐在武官ウォルト・クレーヴェン少佐と連絡がとることができれば、まだ手のうちようがある。彼の安全確保、および行政機関との連絡確保のために憲兵隊の一個小隊を市内に送り込むべきか悩んでいた。

 しかし、これを実行するにはひとつだけ大きな問題があった。トゥーロン・イエールに対するいかなる内政干渉をしないという条例があるのだ。なんとかして、トゥーロン・イエール当局から緊急出動要請を得る必要がある。そうすれば、誰にもはばかることなく出動ができるのである。

「要請ありしだい飛び込めるように、武装港湾防衛部隊には出動要請だけはしておくように……」できることは準備することだけであった。彼の権限では、トゥーロン市内と統合軍基地との間にあるゲートを封鎖し、基地警備隊によって火器施設を厳重に護るように手配するのが精一杯だった。「それから、信頼できる者にすべてのゲートを回らせて、絶対に発砲をしないように伝達させること。ひとつ、ひとつ、可能な限り回って徹底させて欲しい。もしも基地が巻き込まれたら、大変なことになる。絶対に誰一人として統合軍の施設に入れないようにしなければならない」

 他に何か手はないか? モラン大佐は必死に考えた。最期に残された唯一の方法、統合軍の最高責任者のみに認められている権限である行政継続計画の発動である。トゥーロン行政機関に壊滅的な被害が生じたと判断された場合にのみ使用され、行政の継続や復旧を図るために統合軍の判断で行動できることを条例に加えた覚書が存在する。

 モラン大佐は、事態の深刻さを鑑み、統合軍の最高責任者であるロイド・フランク・モンゴメリー統合参謀本部総長に直接に行政継続計画の発動を願い出ることにした。モラン大佐は言葉を選びながら話を始めた。

「キャンプ場の一部の避難民が今までにない大規模な暴動が発生していると思われます。ただし、本当はキャンプ場の避難民の意思によるものではなく、安全保障隊が扇動して事態を大きくさせています。その黒幕は安全保障隊のルドルフ・フォン・シュバイツァー参謀本部長官です。一見矛盾しているように見えますが、暴動事件を造り上げて安全保障隊は治安維持という名目で市の中枢を押さえようとするでしょう。ですから、この暴動事件は、本来の避難民を抑えることができるかがポイントになります。もしも、私の考えが事実であったのであれば取り返しのつかないことになります。このため、現在のトゥーロンの行政は停止状態であると判断し、行政継続計画の発動を具申致します」

 モラン大佐の説明は独り言のような話し方だった。

「それは、確かな情報なのか?とても信じられん」

「もちろんです。ただし証拠はありません。少なくとも、キャンプ場側には情状酌量の余地があると私は思っています。大規模な陰謀の計画に利用されただけなのですから」

「つまり、大佐が言いたいことは、安全保障隊の工作員が住民を挑発して暴動を起こすようにしむけたということ、そしてこの暴動を口実に安全保障隊はトゥーロンの実権を握ろうとすること、なのだな」

 モラン大佐は決して、妄想にとりつかれて誤った判断をするような性格ではないことをモンゴメリー統合参謀本部総長は十分に理解していた。

「こうなることは、時間の問題だったのです。安全保障隊に対する牽制行動は我々の権限を大幅に逸脱することになるかもしれません。ですが、今回の件だけは見て見ぬふりをするわけにはいきません」

 モンゴメリー統合参謀本部総長は念のためにモラン大佐の顔を見つめたが、一点の曇りもなかった。

「わかった。この件の処置に関しては、憲兵隊に指揮を委ねよう。思う存分動いてくれたまえ」

「ありがとうございます」

 モラン大佐は敬礼すると、すぐさま行動を起こした。統合軍の各師団に支援を要請したが、全て断られた。どの師団からも、ただちに要請を受け入れることは難しいとの返答であった。状況を分析してから、しかるべき対策を講じると横並びの返答であった。統合軍の将軍たちを信用しすぎていたのだろうか? なんだか裏切られたような苦い思だった。そもそも、各師団の将軍たちは自分を味方と思ってくれているのだろうか? ただのトラブルメーカーとしか見ていないのかもしれない。あるいは統合軍の師団の中にも離反する意思があって、安全保障隊側に合流しようとして状況を見守っているのかもしれない。

 モラン大佐は、それまで頭の中に描いていた悪夢を追い払おうとした。今直ちに自分でやらねばならない。

「ここまでだ、やつらに好き勝手をさせない。我々だけでやる。武装港湾防衛部隊だけでも市庁舎に送り込む。私が指揮を直接にとることとする」

 憲兵隊が慌ただしく動き始める中、アルテア・アルテミス少尉は、携帯電話にメールが1通届いていたことに気づいた。その内容につい口がにやりとしたが、一瞬のことで誰にも気づかれることはなかった。


(第五章へ続く)

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