トゥーロン市内警察本部
トゥーロン警察本部は市庁舎と同じように安全保障隊の兵科部隊によって包囲されていた。安全保障隊は警察本部をすみやかに明け渡すように呼び掛けている。しかしながら、国家警察の警官たちは警察本部を明け渡す気は毛頭なく、徹底的に抵抗する気配を見せていた。しかしながら、警察本部、すなわち、警官たちの一般装備はMAS 50自動拳銃であり、特殊部隊や警護部門ではNAS-49半自動小銃やMAT49短機関銃が若干ある程度であり、客観的に見れば武装の質の違いから、安全保障隊のほうがはるかに優勢である。
ルシファー事件のため警察本部にたまたま来ていたセリア・ケイ少佐は不本意ながら巻き込まれてしまった。彼女は統合軍に所属するため、トゥーロン・イエールの行政や司法には静観せざるをえない立場にある。ケイ少佐はルシファー事件の残務について調整にはいるどころか、廊下のソファーで待たされるはめとなってしまった。彼女はしかたなく湯飲みに入った日本茶を口にあてて、ちびちび飲みながら廊下を走る警官のあわてふためく様子を窺うことしかすることがなかった。
「帰れなくなったみたいね」
ケイ少佐は、心底がっかりしたようにため息をついた。彼女は、ここでは部外者であるゆえに、なにもできない。正確には、市内の事案になにも関わってはいけない。とはいえ自分がここでいるだけで、この問題に既に非常に強く関わることになることに早くから気づいていた。そもそも、騒動の真っただ中に、一目で統合軍の将校と分かる軍人がいるのに、誰もある問題に気づかないことに、彼女はよりいっそう疲れが増すような気がした。
「ケイ少佐殿。お待たせしました。報告します」ケイ少佐は名前を呼ばれて振り返った。警察署長であった。「残念ながら、お話はあとで聞かせていただくことになりそうです」
「そのようですね」
ケイ少佐はルシファーのほうがもっと重要なのですよと心の中で叫んでいた。そのためか返事は淡々としたものになっていた。
「しばらくここに残られたほうが安全と思います。と言いたいところですが、安全保障隊は、いつ警察本部に突入するかわからない状況であり、ここも危険です」
「たぶん、それはないです。だって、私がここにいるのですから」
ケイ少佐は先ほどから気になっていた問題にやっと入れるため、子供のようにいたずらっぽく返した。
「はい?」
警察署長はまだ飲み込めていないようであった。
「いちおう、私はこれでもポートブリッジ統合軍の将校なのですよ。協定によりお互いに干渉しないことになっているのですから、ここに強行突入して、統合軍の将校である私に怪我でもさせたら、まずいでしょう。違うかしら? 私がここに入るところを外の彼らに目撃されていますから、今頃は向こうも予想外の事態に困っているでしょうね」
「あっ。なるほど」
警察署長は本当にいま気づいたようである。おそらく、犯罪の防止と検挙に万進する性格で、政治的な問題にはうといのであろう。
「とはいえ、私を人質にして、立てこもっていると思われるのも不本意でしょうから、基地から迎えが来たら、私はここを出ることにします。携帯電話の基地局を安全保障隊におさえられる前に、連絡しておきました。安全保障隊に道路閉鎖を解除してもらえれば、すぐに迎えが来ることでしょう。今頃は正式に道路閉鎖の解除の要請が出ていることでしょう。でも、それって安全保障隊からしてみれば、できない話ですよね。だって、ここ警察本部は市庁舎に近いのですから。だから、ここを守るためには時間稼ぎになると思うのです」




