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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第三章 ルシファー
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トゥーロン市内サント・ミュス病院

「防疫部隊により再封鎖しました」

 セリア・ケイ少佐の率いるマールス・グラディウス少尉の部隊が現場に到着した時、すでに先行していたポートブリッジ統合軍憲兵隊からなる防疫部隊が現場を隔離していた。

 血まみれの現場には、身体の一部、もしくは人間の物かどうかも識別できない無惨な肉片が散らばっており、気の弱い人間には直視できる状態ではなかった。ケイ少佐は、この光景をかつて見たことがあった。十年前にダンケルクに到着する前に見た惨劇と同じなのだ。今まで何度忘れようと努めてきたかしれない。だが、悪夢は忘れさるどころか、同じ惨劇が繰り返されようとしている。この死体にもルシファーの菌糸が潜んでいるかもしれない。そうなれば、時間が経過すれば再び動きだし、もっと被害が増えることになる。

「生存者はいません。それから安全保障隊からポートブリッジ統合軍は本事案から手を引くように警告が出ています。どうしますか?」

 悲惨な惨状に吐き気を無理やり押さえた憲兵隊の現場指揮官が報告をしてきた。

「だめよ。リトビノフ市長の要請はきちんととってあるわ。このまま封鎖を維持し、誰も絶対にここに入れてはいけないわ。今は縄張り争いをしている場合ではないことが、どうして安全保障隊にはわからないのかしら?」

 封鎖を突破されてしまうとは、なんとまずい遭遇戦を演じたことだろう。民間人まで巻き込んで挙げ句の果てにルシファーの行方を見失ったのである。ルシファーに関する情報を隠蔽し続けていた結果、一般の警官には対抗する術を知らされていなかったのである。ケイ少佐はみすみす被害を増やす結果に、惨劇の再来を危惧していた。

「もうひとつ、報告することがあります。アジア系の民間人女性が、我々の制止を振り切ってルシファーの後を追って行きました。警察には身柄を確保するように既に連絡済みです」

「アジア系って!」

 ケイ少佐は坂井美春のことがまっさきに頭に浮かんだ。なんだって、彼女はルシファーの後を追っているのだ?

「その女性は黒髪のボムヘアだった?」

「ええ、そうでした。御存知の方だったのですか?」

 現場指揮官はとまどいながら尋ねた。

「なぜ、止めなかったの?」

「止めました。しかし、あまりにもしつこくルシファーの行先を聞くので教えると、バリケードを破って車を飛ばしていったのです。一瞬の出来事でした。彼女は軍事訓練を受けていたと思えますし、我々にはそれを防ぐ装備を持ちません」

 自分は防疫部隊の工兵に過ぎないのだと言い訳を言った。

「もう、いいわ。それより、遺体の焼却を行なうように指示を受けているわよね。消毒を確実にお願いします。本体から分離したばかりの菌糸の今なら、容易に焼けるはずです。ただし、犠牲者には敬意を忘れることなく、丁重に扱ってください。もし怠けたり手を抜いたりして防疫が完全でなかったら、軍法会議で弁明しなければいけないことになるでしょう。もっとも、その時は軍法会議ができるような状況ではないでしょうけど……。いいわね、時間を無駄にしないで手際良く行なってください。私はルシファーの後を追います」

 ケイ少佐は防疫部隊の工兵に何度も消毒について念を押した。分裂したばかりの菌糸の状態なら寄宿者の中に菌糸を張り巡らして栄養を吸収することに注力しているはずであり、活動は限られるからである。ケイ少佐は、よほどの理由なく相手を脅すようなことは言ったりしない。もしも消毒が完全でなかったら、ねずみ算式に犠牲者が増えることがわかっているため、事実を言ったに過ぎない。

「報告します。市内第27高射砲塔付近で、施設警備の憲兵隊からルシファーと接触報告がありました。援軍を要請しています」

 グラディウス少尉の差し迫った声が、ケイ少佐の乗るプジョーP4ジープ型車両に響いた。

「ただちに、追跡に移るわ。グラディウス少尉は状況把握に全力を努めてください」


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