ポートブリッジ統合軍基地内憲兵隊本部
権力を求めてうごめく者たちが現れると、それを阻止しようとする者たちも現れる。善と悪、光と闇、他にも似たような例は数多くある。相いれないものどうしがお互いの力を牽制しあって均衡を保つ現象である。時間のループによって再出発したこの世界には、幸いにもトゥーロン・イエールのバランスが維持されるように運命づけられていたのかもしれない。安全保障隊の不穏な動きに気づき始めた人間がいた。ポートブリッジ統合軍港湾憲兵隊のポーロ・モラン大佐である。彼はトゥーロン駐在武官のウォルト・クレーヴェン少佐を経由して、最近の安全保障隊の動きを探り始めていた。
そもそも安全保障隊は単なるトゥーロン・イエールの市兵に過ぎない。にもかかわらず、ここ最近になって本格的な軍事行動の準備を着実に進めている。市庁舎に近い駐屯地では兵員や装備が集結を始めており、市街戦を想定した演習を頻繁に行っている。さらに部隊の再編成が行われ、警備部隊の実戦上がりの将校が兵科部隊の指揮官に着任したとの話も伝わっていた。
安全保障隊は何かの軍事行動を計画している。それはまず間違いない。彼はそれを確信していた。その何かについて、彼は不吉なことを考え始めていた。トゥーロン・イエールの権力を奪取するためのクーデターが起きるのではないかと……。
根拠は充分にあった。安全保障隊の指揮官ルドルフ・フォン・シュバイツァー参謀本部長官の直球すぎる思想は有名な話である。その思想は強力な軍事力支持と弱者排除の論理で、トゥーロン・イエールが抱える避難民問題に対する答えのひとつとされている。それが人道的に正しいか正しくないかは人によって論議が分かれるところであるが、一部の市民の中には彼の思想を支持する人が少なくないのも事実である。それは統合軍内部においても同じである。
モラン大佐がただひとつ疑問に感じていることは、クーデターの引きがねだった。いくらなんでも安全保障隊が理由もなしにトゥーロン・イエールの権力を奪取するという暴挙に出られるわけもない。はるかに強力な装備を保有しているポートブリッジ統合軍がいい顔をするわけもない。しかし、引きがねなど、どうとでもなることも事実だった。かつての歴史を顧みれば、その例はいくらでも見つかるだろう。事実、もっともてっとりばやくて確実な方法がある。イエール旧キャンプ場の避難民が市内中央になだれ込んだらどうなるだろうか? 安全保障隊は治安維持という名目で政府の建物を管理下におけるだろう。市としては番犬に噛まれるようなものだから、阻止することは不可能である。
最近は安全保障隊の方が旧キャンプ場の避難民を煽っているらしい。モラン大佐はそれについても情報を得ていた。どうやら何かの対策をうつには、時間があまり残されていないことを彼は感じていた。
(第三章へ続く)




