トゥーロン・イエール市内
査問会から解放されたものの、坂井美春伍長は見事なまでに落ち込んでいた。彼女は精神安定剤の投与を行いながらも、基地の外に自分の部屋を借り、閉じ篭りがちな日々を送っていた。だが、部屋に閉じ篭もっているとルテチア脱出の記憶が蘇り、非常につらくなり落ち込むばかりであった。だから、できるだけ部屋にいる時間が多くなることを避けていた。
軍には戻れなかった。どうして、仲間のいない軍に戻れるというのだ。仲間は全員死んでしまったのだ、もはや守るべきものは、なにも存在しない。
彼女は感情が欠落していた。それは無理もなかった。彼女は男もののジャンパーと疲れかけたジーンズをはき、両手をポケットにつっこんだまま、街頭の壁面スクリーンがわめき立てているさまをぼんやりと眺めていた。写し出される宣伝がそこそこ面白いというわけではなく、ただ頭の中を空っぽにできるからだった。
スクリーンは華やかなドレスを身にまとった女性を写し出していた。この女性は、きっと、この町から一歩も外に出たことがないに違いない。彼女は皮肉を込めてそんなことを考えたりしていた。
ポートブシッジ統合軍は一種の保険なのだ。トゥーロン・イエールの住人は保険に守られて、外の地獄を知らない。だが、保険は保険にしか過ぎない。いつかは、保険に限界がくるだろう。坂井伍長にはそれがよくわかっていた。でも、その時がくるまで知らないでいたほうが幸せというものである。




