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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第二章 トゥーロン・イエール
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トゥーロン最東端イエール旧キャンプ場

 消滅した時間に存在していたトゥーロン都市城塞でも問題となっていたが、新しい世界のトゥーロン・イエールでも、似たような問題が発生していた。市内の最東端には、やはり避難民が住みついているイエール旧キャンプ場が存在するのである。大異変とその後の戦火によって、家と職を失った人たちの収容施設である。

 施設と言えば聞こえはいいが、その実体は無秩序な混沌とした簡易住宅やプレハブ住宅でしかなかった。ここでは蛋白質を含む食料が不足しており、その偏った栄養事情から子供たちの筋肉量が減り、それがさらに基礎代謝量も減らす傾向にあったため、太った体質の子供が増えていた。また、仕事を定職につくことができない人々がいたるところにたむろしていた。このため、キャンプ場一帯に倦怠感がまんえんする結果となっていた。ここでは満足な医療施設もなく、若くして死んでいく人が後を断たなかった。

 キャンプ場に住む人たちは、身分を証明するものがないという理由で定職に就く機会も与えられず、当局の配給によってかろうじて生きながらえている状態だった。誰しもが生きていくことだけで精一杯であり、他人のことなどキャンプ場では無関心なのが常識になっていた。

 慢性的な栄養偏りと窮屈で不衛生な住居に、爆発寸前の不満が避難民の中に満ちているのは明白な事実だった。それは次第に、市内の中心部で保障された生活を悠々と送る人たちとキャンプ場の中で地獄のような生活を強いられている人たちとの対立関係を生み出しはじめていた。

 運よく、なにかしらの特技があるものは、キャンプ場から出て保証された生活を手に入れることができたのであるが、それは本当に限られた人だけだった。

 キャンプ場に避難民が住みつき始める初期の頃から、このような状態になっていたわけではなかった。最初は、トゥーロン・イエール全体が避難民に対して同情的であった。しかし、避難民問題が長期化するにつれて、貴重になりつつあった生活物資の避難民分配や、次第に多発するようになった犯罪に、嫌気がさすようになったのである。

 理想だけでは食べてはいけない。トゥーロン・イエールが最終的にとった態度がそれであった。現在では避難民を疎んずるようになり、彼らをキャンプ場に閉じ込めて境界線を引いてしまった。このような経緯により、イエール旧キャンプ場はタルタロスと呼ばれることがあった。古代ギリシア神話のゼウスが、ティターン一族を忌み嫌って追放した場所の名前をとったものである。

 それでもキャンプ場には自治組織があった。まだ知性と良心を備えた人間が、キャンプ場にもわずかに残っていた。トゥーロン・イエール行政機関やポートブリッジ統合軍との唯一の窓口となっているビンセント・マクネアーである。だが、彼にはあまりにも多くの問題が山積みにされ過ぎていた。キャンプ場のバランスが失われようとしているのは避けられそうにもないことだった。

 つい先刻も、避難民のグループのいくつかが無許可のデモをおこし、トゥーロンの警察隊と衝突が起きていた。騒ぎは次々とキャンプ場内に広がり、ついにはトゥーロン・イエールの行政機関直属の組織である安全保障理事会の持つ安全保障隊の介入まで引き起こしてしまう大事件にまで発展していた。その後処理のために、マクネアーは理事会に何度も出頭するはめになったのである。

 デモの原因となった事件は、とても些細なことに過ぎなかった。正確には些細なことというよりは、日常絶えなくなっていることである。キャンプ場に住む子供のひとりがトゥーロンで仕事をしたにもかかわらず、身分が証明するものがないということで賃金をもらえなかったのである。立場が弱いことを理由に、虐待されることは決して珍しいことではなくなっていた。

 さらに、トゥーロン・イエールの当局は物資の割り当ての保留を警告していた。もしそれが実行されたならば、さらに多くの衝突が発生することは避けられないことになるだろう。今回のような安全保障隊を介入させるような騒動はトゥーロン・イエールとの対立の激化につながってしまうために絶対に避けなければならないことであった。

 というのも、安全保障隊は名目上では安全保障理事会直属の簡易武装による治安維持組織ということになっているが、実質的には、あくまでも、トゥーロン・イエールの有力者の操り人形である安全保障理事会の私兵だからである。それだけに、旧キャンプ場に対しては非常に厳しい態度をとり続けているのだ。

 一方、旧キャンプ場と比較してトゥーロン・イエールの他の市街区画は、歴史のある街並みとなっており、清潔で活気にあふれていた。管理が行き届いているため、ネズミを始め、野良犬や野良猫などは一切見ることはなかった。

 トゥーロンの中心にはひときわ巨大な建物が、ひときわ目立ってそびえていた。その建物は、まわりの行政施設よりもはるかに強固に建造され、威圧的な巨大さでそびえていた。正面の入り口となっている地上からの長いエスカレータで中空二階まで来ると、全面クリスタルガラスばりの壁に取り囲まれたホールへ出るようになっていた。そのホールの中では、他の市街地に比べて照明がふんだんに使用されて、まぶしい程の明かりにみたされていた。さらに、中央の光ファイバの噴水が、クリスタルガラスに乱反射して見事な輝きを放っていた。世界の荒廃した状況に希望を失った群集がこの建物を見た時に、人類の力は健在であると考えられるようにと設計されたのだった。

 それは市庁舎でありながら、ギリシアの神々の居住するオリンポスにたとえられているため、一帯をオランピアと呼ばれるようになった。オランピアこそトゥーロンの中心であり、オランピアを守るかのように市内の至る所に高射砲塔が建設され、その屋上部分には高射砲が設置されていた。ドラゴンの空襲に対抗するためであり、市民のシェルターを兼ねる高射砲塔の存在は、まるで第二次世界大戦中の都市のようにも見えていた。


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