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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第参章 安全保障軍
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トゥーロン都市要塞内安全保障軍第27高射砲塔

 ドラゴンに対する一方的な攻撃に勝利を確信しつつあったにもかかわらず、市内の異変は徐々に拡大しつつあった。トゥーロン都市要塞の防空最前線である高射砲塔と呼ばれている施設は、単なるコンクリートで囲まれたトーチカのような低層構造の陣地にしか過ぎなかった。高射砲塔は市内のいたるところに防空のために建造され、全面には土のうが積み上げられ、高射砲がはりねずみのように設置されていた。割れると危険なガラスは窓にはめられていないために外気の冷たい風が中にまで吹き込んできていた。

 大異変以後の変わることのない厚い雲におおわれ、星一つ見ることができない夜の闇の中で、安全保障軍兵士は単調な任務に就いていた。空襲警報が発令された場合に、索敵用のサーチライトを点灯し上空を警戒する。ドラゴンを発見したら高射砲を撃ちこむのである。したがって、彼らの危険は空にあるものというのが常識となっていた。しかも、その空にある脅威は、今まさに除去されつつあると、勝利気分が支配していたため油断があった。

 絶え間のない爆発音は遠くから聞こえるだけであった。高射砲塔の兵士は遠くで行われている戦闘の様子に想像を膨らませながら、市内中心部であるこの場所は安全であったため、戦闘がなく正直不満であった。それでもここを守るのが任務である以上、なにかいないかと索敵用のサーチライトを操作していた。ドラゴンがタルタロス以外の市内に侵入していないか見張るのが当面の任務であった。

 しかし、直面していた身に迫る危機は空ではなく地面を這ってすぐ近くまで忍び込んでいたのだった。安全保障軍の一般兵士はドラゴン以外の敵の来襲を知らされていなかったために、まったくの不意をつかれることになった。

 遠くで行われている戦闘による爆発とは明らかに異なる音が聞こえていた。暗闇の中で、くちゃくちゃと咀嚼する音に思えた。すぐ近くで咀嚼する音は不快そのものだった。兵士が携帯ライトを向けると、闇の中に猫が浮かび上がった。猫はライトによって瞳が反射し、それだけでも不気味であった。猫はなにかを食べているようであった。口元を動かしながら何かを咀嚼している。よくよく見ると猫の口元は赤い血で染まっており、猫の前足は血でそまった鼠のようなものを抑えていた。ライトに照らし出されながらも、猫は足元の鼠から肉を食いちぎっては、咀嚼を続けることに夢中であった。その度に、猫の口から血が滴り落ちていた。

 もっと注意深く鼠の方を観察すれば、鼠の姿の異常に気づいていたはずである。鼠には不釣り合いな大きな目が背中にできていて、自分が食べられる様を恍惚な表情で見ていたのである。鼠に感染していたルシファーは、より大きな動物に乗り換えるため、猫にわざと自分を食べさせているのである。

 鼠と猫の異常さに気づいていなかった兵士が、気色の悪い猫を追い払おうとした。すると、獲物を取られるかと思った猫は、牙をむきだしにして威嚇してきた。猫風情に人間に楯突くとは生意気に思った兵士は、近づいて猫を蹴り飛ばそうとした。すると、猫の口が裂け、小さな牙が見る見るうちに数倍の大きさとなり、兵士の足を串刺しにして返り討ちにした。それは一瞬のことであったため、なにが起きたのか飲み込むのに時間が必要だった。

 何も知らされていない人間にとって、初めて見るルシファーの姿や行動を予測することなどできるはずもない。異状にまっさきに気づいた兵士が銃口を向けた。しかし、猫の姿はすでになかった。そのかわり上から血が滴りおちてくるのが見えた。

 血の滴り落ちる元を見るために全員が見上げた。そこには高射砲の砲身に今まで見たことのない生き物が張りついていた。その生き物は猫よりもさらに大きな動物を見つけ、自分のものにしたいという欲求に興奮していた。そう何かの生き物だ。兵士たちが生きている時に最後に考えたことはそれだけだった。さらにつけくわえるならば、このような事態が市内のいたるところで発生していたのである。


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