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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第参章 安全保障軍
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トゥーロン都市要塞安全保障軍警戒ライン

 ドラゴンの表皮は固い鱗に覆われている。トカゲと同じように基本的には硬質タンパクのケラチンを主体とした角質で構成されているため角鱗と呼ばれる。ドラゴンの場合には、厚い鱗の下の真皮に魚の鱗と似たような皮骨(骨片)が形成されているために固さが非常に強化されている。この鱗と皮骨の構造は、現代戦車の複合装甲と同等の機能を簡易的に有している。戦車の砲弾の成型炸裂弾は、モンロー効果の有効距離がわずか数十センチ程度であり、外側の鱗により内側の皮骨に達するまでに威力が大幅軽減されてしまう。このため、成型炸裂弾、装甲筒付翼安定徹甲弾であっても、ドラゴンの鱗を貫通はしているが、一撃で致死に至らせることができない。

 しかし、たとえ表面が戦車並みの固さを有するドラゴンといえども、肺の内側までも丈夫な組織で守られているわけではない。安全保障軍がドラゴン殲滅に用意したサーモバリック爆弾は、燃料気化爆弾とも呼ばれる大量殺傷兵器である。半径三百メートルは猛烈な熱と爆風により発生する急激な気圧変化は、ドラゴンの肺を内部から破壊することで、結果的に窒息死に至らせる。一方、サーモバリック爆弾は、装甲により密閉された金属容器である戦車内の兵士には比較的に安全である。ドラゴンとの非対称性の戦闘では、使い方次第では、友軍の被害を抑えながらも、ドラゴンのみにダメージを与えることができるうってつけの兵器であった。

 万一サーモバリック爆弾から逃れたドラゴンがいた場合、安全保障軍の主力地上部隊が迎え撃つ。戦車はドラゴンとの戦いの過程で恐竜的進化が繰り返され、エクスカリバー型超重戦車といった超重戦車が試作されていた。エクスカリバー型超重戦車は、本来の意味の戦車では全くなく「戦車駆逐車」に分類されるのが正確である。砲塔を持たず、代わりにケースメート方式の戦闘室を構築した車体を採用し、この車輛に比較的低い姿勢が与えられている。主兵装は2A46 120mm後装式滑空砲であり、これを車体正面上部の球形に成形された防楯に装備している。前部上側の厚みは最大300mmに達しており、ルクレール戦車と比較しても非常に厚く、ドラゴンのいかなる攻撃に対する防御として十分重装甲であったと考えられた。正面下部は128mm厚、また側面は64mm厚であった。このため、総重量は装備品を完全に積みこんだ場合86トンに達しっていた。その総重量にエンジンの出力が追い付かず、非常に限定された障害物乗越能力しか持っていなかった。このように足回りがどうしても欠点となるために実戦では非実用的とされていたが、トゥーロン都市要塞の拠点防衛に関しては、その厚い装甲と巨大な砲の威力は絶大であった。

 安全保障軍が保有するサーモバリック爆弾は九百キロと重量があるため、その使用は大型爆撃機が必要となる。ドラゴンを迎え撃つため、トゥーロン都市要塞の空軍基地から大型爆撃機が離陸を開始した。ドラゴンの飛翔高度限界よりも高い上空まで上昇し、V字型編隊を組みながら、出撃の準備を終えた。

 地上では、エクスカリバー型超重戦車が移動を開始した。あまりにも重い重量で、時速二十キロの制限により、市内から遠くに配置することができなかったが、今回はドラゴンからわざわざ接近してくれるのである。迎え撃つ地上軍も準備は万全であった。

 戦闘は、まるでゲームでもしているかのようだった。レーダーによりドラゴンの位置を把握した安全保障軍は、攻撃に最適な位置で、ドラゴンを待ち構えていた。爆撃機の編隊は、安全な高高度からドラゴンの上空に侵入し、最初のサーモバリック爆弾を投下した。

 大型爆撃機から投下された九百キロのサーモバリック爆弾は、空中でパラシュートを開き、ゆっくりと降下を始め、ドラゴンの群れの頭上まで降下すると、自動で信管が作動した。一次爆薬が起爆して液体燃料の加圧沸騰が始まる。沸騰した液体燃料は耐圧容器に密閉されているため高温になっても気化することができず、高温高圧の液体の状態でいるが、圧力が限界点に達した瞬間に放出弁が開き、急激な圧力低下によって液体燃料が蒸発して秒速二千メートルもの高速で噴出される。液体燃料が蒸発して蒸気雲が形成される頃を計算されて、二次爆薬により蒸気雲に着火して破壊的な自由空間蒸気雲爆発が発生した。一次爆薬から、わずか0.3秒前後のできごとである。

 その急激な気圧の変化は、ドラゴンの固い表皮には効果が薄いが、口や鼻から肺の内側を襲い、内臓を破裂させた。爆発に巻き込んだドラゴンは次々と落下し、ドラゴンの群れにぽっかりと穴があいたように見えた。サーモバリック爆弾の効果は期待以上であった。

 最初の爆発の余波が終わると、サーモバリック爆弾のパラシュートが、いくつもいくつもドラゴンの群れの上空に出現した。ここに至るまで、人間の死傷者は全く出ていない。ドラゴンが上昇できるより高い高度からボタンを押すだけで、強力な殺傷兵器がドラゴンに向かって落とされる。それは一方的な攻撃であった。

 サーモバリック爆弾の爆発により、内臓を損傷したドラゴンの落下が確認されると、その機会を待っていた砲兵部隊がドラゴンの落下地点に向けて長距離からの砲撃を開始した。砲兵が使用する砲弾は徹甲榴弾であり、侵徹能力と破片効果による加害能力を併せ持っている。徹甲榴弾は放物線を描いて、目標の頭上から落下することによって、鱗の薄い部位であれば貫通し、貫通しない場合でも水平面方向への破片効果によって、目などの比較的に脆弱な身体の組織への加害効率が高くなる。安全な長距離から数に物を言わせた砲弾により、広範囲のドラゴンに対して、さらなる深手を負わせることができる。

 砲撃にも生き残ったドラゴンに対しては、エクスカリバー型超重戦車が128ミリ砲身をドラゴンに向けた。有効射程の都合上、攻撃対象となるドラゴンは限定されるが、これまでの攻撃によって苦痛にのたうちまわるドラゴンには、数百メートル先から狙われていることに気付く余力もない。

 エクスカリバー型超重戦車の射撃時の衝撃はすさまじく、周囲の建物の窓ガラスを吹き飛ばしていた。発射された装甲筒付翼安定徹甲弾は、命中とともに、その際に生じた高圧力により、ドラゴンの鱗に秒速千五百メートル前後で着弾すると鱗と侵徹体は狭い領域で高圧に圧縮されるために、それぞれが流体としてふるまい、相互侵食を起こす。侵徹体の先端はマッシュルーム状に広がりながら鱗にめり込み侵入する。侵徹体は穿孔によって先端から失われてゆくため急速にその長さを失って行き、命中した部位の鱗厚に対して十分な長さが無ければ穴だけが残され、長さがあれば残端が鱗内部に飛び込んでドラゴンを加害する。

 横一列に展開したエクスカリバー型超重戦車は、まるで七面鳥撃ちを楽しむかのように、砲撃でドラゴンにとどめを刺していった。

 やがて、燃料気化爆弾を使いきり、エクスカリバー型超重戦車も車内の砲弾62発を使い切ると、作戦の第二段階が開始された。生き残った運のよいドラゴンを通常兵器で迎え撃つ。深手を負わせたドラゴンばかりであるので、十分に勝機はあった。

「勝てる」

 一方的な戦いに、誰しもがそう確信していた。

「なぜ、こんな相手に今まで苦戦していたのか?」

 誰しもが、そんな疑問を抱いていた。一般の兵士には、人類を滅亡の淵に追い詰めている本当の理由は別にあることを知らされていなかったのである。

 通常兵器では、ドラゴンの正面装甲を貫通させることは限定的であるため、柔らかい腹部を狙い撃ちする必要がある。遮蔽物が多い市内は戦場として好都合だった。待ち伏せのために建物の影に武器を隠蔽し、相手に気付かれる前の初弾のピンポイント攻撃に期待された。都市要塞の外であるキャンプ野営地にドラゴンをわざと引き入れて、隠してあった武器によって攻撃が続行された。キャンプ野営地を焦土と化しての殲滅戦だった。ドラゴンのほとんどをここで殲滅することが出来れば、それもやむをえないと考えられた。とにかく勝てれば、それでいいのだから……

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