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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第弐章 トゥーロン都市要塞
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トゥーロン都市要塞近海〈ジャンヌ・ダルク〉艦内

 安全保障軍海上部隊に所属する地中海艦隊は、戦力としてはそれほど大きなものではない。事実、安全保障軍の航空戦力と比較しても、五対一という低さである。それでも、地中海艦隊のもつ力の中で、もっとも不吉なものは旗艦の航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉に登載されている〈トレッキーダイス〉であった。その兵器は地球の傷ともいうべきフェアリーリングの出現後に開発された新型兵器であった。もっと正確に言うのであれば、フェアリーリングが存在するゆえに使用可能となった兵器であった。フェアリーリングは時空の特異点がむきだしになっているため、その特異点から発生する力場を利用する兵器なのだ。

 フェアリーリングの敵に対してはフェアリーリングの力で対処する。毒には毒をもって制するという考え方なのであろうが、安全保障軍の幹部によれば、その能力には大きすぎる危険がともなっていた。特異点に干渉する、すなわち時空に干渉する兵器は、場所を選択するわけではなく、時間を選択するのだ。過去をかえる兵器、それが兵器といえるかどうかは別として、過去に衝撃波を送り込むことで既に起こった事を阻止することができるという代物らしい。しかし、その結果は誰にも予測ができなかった。なぜなら、安全保障軍の幹部は〈トレッキーダイス〉は両刀の剣であることを十分に認識していたし、使用すれば世界は別の歴史を歩むことになるため、今の世界は消えることになるのだ。そんな兵器を気楽に試すわけにもいかなかった。あくまでも、最期の切り札として存在しているのだ。噂では、十年前に発生した大異変は、この〈トレッキーダイス〉の余波ではないかと考えている者もいた。


 その日の主日勤務が終わる頃になって、滞空中のE-2ホークアイ早期警戒機のレーダーが未確認物体の接近をとらえた。半径四百六十キロメートルのレーダーがドラゴンをとらえるのは、それほど珍しいことでもない。早期警戒機なら低高度の目標も補足できるのだから、なおさらである。

そういうわけで、まだ遠くにいる目標に向かって、航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉から要撃機が緊急発進した。すさまじい轟音とともに発進するラファール二機を甲板員は手を振って見送っていた。

 要撃機は音速の速さで目標の背後に回りこみ、相手が気付く前に攻撃をしかけて離脱することができる。テキスト上ではそのはずだった。しかし、大異変以降、厚い雲によって覆われた空での戦いは、テキストどおりというわけではなかった。しかも、相手は巨大な生物で硬い鱗によって保護されている。致命傷を負わせるには、空対空ミサイルの直撃を同じ場所に数発直撃させなければならない。それは不可能なことだった。

 今回のスクランブルは、作戦と言える代物ではない。ただの消耗戦である。軍の指揮が低下しないためのデモンストレーションに過ぎないのだ。

 悪夢な日々だった。生き残った者も、全員がなんらかの犠牲を払っている。その多くが、心の中にできた永久に取り除くことができない傷であることは間違いない。もはや、ドラゴンに対して戦争などという言葉はあてはまらない。敗走、遭遇戦、戦略的撤収。前線などというものは実戦では意味がなくなっている。相手は、いつ、どこで、どの方向から奇襲してくるかまったくわからないのだ。時には上空から、時には背後からだって襲われることも珍しくはない。

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