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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第弐章 トゥーロン都市要塞
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トゥーロン都市要塞外キャンプ野営地

 不穏な空気がただよいだしたのは、代日時間が始まってすぐだった。トゥーロン都市要塞では二十四時間の防空警戒体制下にあるため、勤務に昼と夜の区別に意味はない。かわりに一日を主日時間と代日時間に分けている。それぞれが昼と夜に対応しているが、市民のほとんどは太陽が昇っている主日時間を中心に生活していた。

 したがって、ふだんならばこの時間になると避難民はキャンプの自分の棲み処に戻り始め、キャンプにも静けさを取り戻す時刻であった。にもかかわらず、今日に限って街角という街角に避難民があふれていた。

 警備していた安全保障軍の憲兵隊も、ふだんとは違った雰囲気を感じ緊張していた。避難民が数人集まっただけでも、すぐに銃を突きつけて解散させようと近づいてきた。

「解散しろと命令しているのだ」

 憲兵隊が難民に威圧的な態度で命令した。虎の牙を借りる彼らは、銃をおもちゃのように手でもてあそんでいた。

「俺たちがなにをしていようが、おまえらには関係ない」

 避難民の一人が抵抗を試みようとした。だがその直後、鈍い音とともに銃尻で殴られて道路に倒れることとなった。

「命令に従わなければ、逮捕する。抵抗すれば、この場で射殺だ。だが、その前に、ここにいる全員の身体検査をした方がよさそうだな。全員、壁に向いて並べ」

「なんの権限があってそんなことをする。我々は罪人ではないぞ」

 仲間を助け起こしながら別の避難民が抗議する。

「治安を乱すものは、誰でも撃つように命令されている。これは、安全保障理事会の決定事項だ」

「そんな勝手は通用しないぞ。安全保障理事会には、我々キャンプの代表が締め出されているという話ではないか」

 憲兵隊と避難民がもめていると避難民たちが集まり始め、彼らが発散する強い怒りと不満によって次第にあたりが熱気に包まれ始めた。感情が異様なまでに興奮し、百人もの避難民がひとつの熱狂になろうとしていた。

 異常に気付いた憲兵隊は、すぐさま装甲車を投入した。何の警告もないまま、突然に、催涙弾を避難民の中にうち込んで避難民を蹴散らし始めた。それは関係のない女性や子供まで巻き込んで、見境がない攻撃だった。

 しばらくの間、避難民の一部は投石を続けたが、力の差は歴然としていた。安全保障軍の憲兵隊は、避難民の中で最後まで抵抗していた者を強制的にトラックに押し込めると、今度はみさかいなく徹底的に催涙弾をばらまいたのだった。

 一度燃え上がった避難民の怒りは消え去ることがなく、あちらこちらの街の隅でくすぶり続けていた。キャンプには、街のいたるところでバリケードが築かれていた。憲兵隊の装甲車を通さないために避難民が築いたものである。その数は時間と共に、確実に増えていた。

 何度か憲兵隊がバリケード撤去を試みようとしたことがあった。その憲兵隊と避難民の衝突の結果は散々たる光景であった。憲兵隊は催涙弾で難民を蹴散らしながらブルドーザーで強攻しようとしたのである。ところが避難民が黙ってやられているわけがない。どこからともなく火炎びんや石が跳んできて、憲兵隊を苦しめていた。やっとのことでバリケードを撤去しても、その間にも、他の場所で数ヶ所のバリケードが新たに築かれてしまうのである。

 双方に相当な数の負傷者が出ていた。道路という道路は血と油のにおいが染みつき、あちらこちらで煙があがっていた。このイタチごっこに最初に、音をあげたのは憲兵隊のほうであった。今では、バリケードを間に挟んでにらみ合いが続いていた。もはや、問題はキャンプだけではおさまらない状況にまでなっていた。

「キャンプ全域に戒厳令をしいて、完全武装した部隊を突入させるべきです。陸上部隊の装備を使えば、バリケードくらいどうということはないでしょう」ルドルフ・フォン・シュバイツァー参謀本部長官が双眼鏡を渡しながら言った。相手はトゥーロン都市要塞の市長であるニキータ・リトビノフである。「私に二十四時間ください。必ずや、キャンプの避難民を黙らせてみせます」

「そう言ってくれるのを待っていたのだよ。だがね、絶対にトゥーロン都市要塞の住人や財産に損害を出さないように頼むよ」

 市長にとっては次の選挙の人気が一番大切である。キャンプ問題が解決できれば、次回当選は、まず確実に保証されると考えたのだ。

「それは、わかっています。市長殿」

 だが、その時、愛想のあるシュバイツァー部隊参謀本部長官の頭の中では、市長に敬意など全くなかった。市長が今の地位でいられるのは、自分のお情けであることを十分に承知していたからである。

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