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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第弐章 トゥーロン都市要塞
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トゥーロン都市要塞安全保障軍警戒ライン

 大異変後による砂漠化が進む南東部フランスの大地の上で、なにかが動いていた。デリンジャー派遣部隊の最後の生き残りである坂井美春伍長である。つい先刻に彼女はルテチアからともに行動してきた仲間を失ったばかりだった。派遣部隊はドラゴンに襲われ、彼女一人だけがここまで逃げのびたものの、極度の疲労のため動くことすらできない状態だった。

 坂井伍長の意識は次第にもうろうとなり、任務も自分自身も、どうなってもいいと投げやりな気分になっていた。その感覚に身体を委ねてしまえば、苦しみから永遠に解放されるかもしれない。彼女はそんなことを考え始めていた。

 だが、もうひとつの動くものがあった。坂井伍長が絶望の崖っぷちを転がり落ちようとしていたまさにその時に、その音は彼女の耳に無理やり割り込んできた。聞き間違えるわけもないディーゼルエンジンの特徴的な音だった。その音がきっかけとなって、彼女はルテチアで待ち続ける仲間を助けなければいけないという任務を思い起こした。まだ、しなければならないことがある。彼女は音の正体が何であるか視野の中にとらえようとした。

 しかしながら、消耗しきった身体ではそれすら容易ではなかった。彼女は残っていた最後の力を振り絞って、サバイバルキットから信号弾を打ち上げた。それが彼女にできる精一杯のことだったのである。

 信号弾は燃え尽きるまでのわずかな時間に、まばゆいばかりの閃光を照らし出すことに成功した。坂井伍長にとっては希望の灯火のように見えていたことだろう。その閃光を見守りながら、自分の存在に気づいてくれることを祈った。

 近づいてくる車両は白色によって塗装されているとはいえ、フランス陸軍が使用していたAMX10-RC裝甲偵察車であることに間違いはなかった。六輪の車体に長い砲身の105ミリライフル砲のシルエットは独特のものである。

 その裝甲偵察車は実戦を経験し続けたらしく、焼け焦げ、かつ、泥をかぶった車体であったが、部隊エンブレムだけは読み取れるように几帳面にきれいにされていた。エンブレムは青い盾のデザインに黄色の十字が描かれていた。それは相手の装甲偵察車がなんらかの組織に所属していることを意味していた。つまり、強力な軍隊が存在しているかもしれないという可能性を示唆していた。

 そのAMX10-RC裝甲偵察車が所属する安全保障軍は、旧北大西洋条約機構軍の残存戦力を結集した部隊であった。敗走壊滅していたと思われていた人類にも希望が残されていたのである。欧州西部における残存戦力を結集し、名前と姿をかえつつも強力な軍事力によって自らの命を生きらえながらえてきた軍団であった。

 その偵察隊の一つであるキャロル少尉の率いる車両偵察隊の目的は、十キロ以上も続く警戒ラインの警備・哨戒と、最前線における情報収拾であった。その日も警戒パトロール中で、たまたま今日に限って西部に突出した順路を走行していた。順路を変更していたことについては些細な理由があったからである。彼は前日に警戒ライン西部で戦闘が起きる夢を見ていたのだ。その夢は生々しく、彼の心の中に大きな不安となって残り続けた。それは変化に乏しい彼の任務にひとつの変化を生み出すのに十分な動機となった。その結果、坂井伍長を見つけることになったのである。裝甲偵察車は彼女の期待を承知してでもいるかのように、ゆっくりと進路をかえたのである。

 坂井伍長は心の中で助かったという安堵感に、張り詰めていた緊張もほぐれることができた。そして、任務をやり遂げることができたという安心感に満たされると、そのまま意識を失ってしまったのである。

 坂井伍長がルテチアを出発してから五日目のことであった。


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