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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第壱章 ルテチア
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フランス南東部ヴィトロル郊外

 ランドクルーザー〈ライオット〉の生き残りは、当初から乗り込んでいた乗員としてはわずかに三人だけとなり、後になって編入された軽装輪装甲車〈VBL装甲車〉乗員のエイベル・ベイカー軍曹を入れても四人しかならなかった。そのうちひとりは、昏睡状態のままである。ふだんは窮屈で息苦しいほどの場所であったにもかかわらずに、いまやそこは三人にとってやりきれない広さを持ち、忘れようとしても忘れることのできないない不吉な空気に満ちていた。

 エルザ・アルトマイアー伍長が臨時に車長の代理を務めてはいたものの、彼女にもできることは、もはやなかった。

「これから、どうすればいいの?」

 アルトマイアー伍長が陰気な目で、ぼやきをつぶやいた。すると後部カーゴから物音が聞こえてきた。誰かが壁をひっかくような音が何度も何度も聞こえてきた。

 アルトマイアー伍長は、つい先ほど、車内に幽霊が出るという噂を聞かされたことを思い出した。噂の元は銃座担当のライザ・ウェルトン二等兵である。車長代理ともなると、こんな話まで相談されるとは夢にも思っていなかったが、任務に集中するように諭した。

 アルトマイアー伍長は幽霊を信じる気はなかったため、後部カーゴをじっくりと覗き込んだ。期待に反して誰もいなかった。室内がいつもより暗すぎるような気がしたが、光の具合に過ぎないと気にも留めなかった。

「ワイマン伍長ですか? 気がつかれたのですね」

 声をかけてみたが、返事はなかった。薄暗い車内で、非常灯が揺らぐようにあたりを薄く照らし出していた。どこから入ったのかわからないが、蛾のような虫が光の源に向かって飛ぼうとして何度も非常灯にぶつかっていた。しばらく車内を見つめたが、他に動くものの気配は感じられなかった。不気味に思っていると、今度はなにかが這うような音が聞こえてきた。

「誰かいるの?」

 不安になって薄暗い車内を凝らして見たが、やはり誰もいなかった。床に少しばかりの新たな血のりが見えたが、アルバート・ワイマン伍長を運び込んだ時についてしまったのだろうと考え、特段に気にもしなかった。

「どうかしましたか?」

 上部の銃座にいたウェルトン二等兵が梯子の上から声をかけてきた。

「今、誰か下に降りていたかしら?」

「いえ、ここにいましたよ」

 ウェルトン二等兵が不思議そうな顔をして答えていた。アルトマイアー伍長は疲れていたため気のせいだったに違いないと思い、コクピットに戻った。まさか自分まで幽霊をみたかもしれないと言えるわけもなかった。彼女はワイマン伍長の容態も確認するつもりでいたが、不気味な体験にすっかり忘れて、特に確認することはしなかった。


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