セリア・ケイの明晰夢の中
彼女は、どんよりとした曇りの中、人気の絶えた街の中を歩き続けていた。彼女の周囲にも、同じような人たちが同じ方角に歩いていた。誰も何も語ることなく、黙々と歩く足音だけが、周囲に響いていた。この光景は、まるで町のお祭り日(Kermesse)に、仮設遊園地へ向かって家族といっしょに歩いていった時とそっくりであった。
お祭りが近いのであろうか? それにしては、ただ漠然と無表情に歩き続けている姿は、楽しいことがあるようにも思えなかった。彼女はふと立ち止まった。同じように歩き続けていた周囲の人たちは、彼女のことなど目に入らないかのように、無表情のまま横を通り過ぎていった。彼女は周囲の人たちが誰なのか知らなかった。ただ、自分と同じ境遇にあり、目的地が同じであることが分かっていた。
彼女は歩き続けていた理由を思い出せないでいた。たった今まで歩き続けていた理由すら忘れていたのである。理由は、そう、何かの仕事を言いつけられていていたことを思い出した。その何かについても、ただ大切なことに違いないという漠然的なことしか思い出せなかった。それでも大切なことであるなら、終わらせなければならないから、歩き続けてきたのである。
さらに目的地のことも、よく分からなかった。そして、妹が、この瞬間に、なぜ自分のそばにいてくれないのか、よく分からなかった。それが気になっているのに、昔からこのように歩き続けているような気がした。そう、これは夢の中の出来事である。なんども同じ夢を見続けていることを思い出した。
それならば、今日こそ、今までたどり着けなかった目的地にたどり着いてみようと思った。そこでは妹が待ってくれているようにも思えた。妹に会い、いっぱいおしゃべりをする。そうすれば、仕事なんて簡単に終わってしまう。それができるかもしれないと考えていた。
妹が生きているのが当たり前であって、妹が亡くなってから十年の月日が経過していることが判断できていなかった。まるで、十年前の平和で楽しかった頃の自分に戻ってしまったかのように、十年前では当たり前のことが、今でも当たり前に起きているとしか考えられなかった。全く疑問を感じなかったのである。
再び歩き続けると、やがて、この先で道が踏切と交差しているのが見えてきた。踏切の遮断機は空いているにも関わらず、彼女は立ち止まった。振り返ると、曲がりくねった大きな道が見えていた。今まで、この道を歩き続けていたはずである。そんな気がした。あとどれくらい歩き続ければいいのか、それも自分には分からなかった。
踏切が鳴り出し、列車が近づいてきた。列車が強い風を巻き込みながら接近してくると、遮断機が下りて彼女を護ってくれていた。彼女は目の前の電車が無事に通り過ぎていくのを見届けると、踏切を渡ろうとしたその時、カラスの黒い羽根が踏切内に落ちていることに気づいた。
そして、セリア・ケイは唐突に目が覚めた。意識がはっきりすると、いつもの夢を見ていたこと、そして今回も夢から途中で降ろされていたことに気がついた。まったく寝覚めが悪い夢であった。懐かしい人とは、妹のサラ・ケイのことであることに間違いない。夢が続けば、いつかはサラに会えるのであろうかと考えた。しかし、目的の場所にたどり着くことは、恐らく無いに違いないように思えた。そう考えると、なんだか寂しくなった。会えないのに、いつまでも探し続けている。喪ったサラへの執着が暗示として夢の中に現れたのかもしれない。
彼女はサラの写真を取り出した。写真であるため、いつも同じ表情のサラが、今日に限って彼女には無表情な顔をしているように見えていた。
戦いのためとはいえ、故郷に戻ることを決心したために、サラの思い出が強くよみがえつつあった。サラをなんとかして取り戻したいという思いが、自分の中に強く生まれつつあることに気がついていた。しかし、それは叶わぬ思いであることを自分自身がいちばんに理解しているはずであった。
「今日は、心がここにあらずといった感じね。どこかに行っているのかしら」
写真のサラが無表情であるときは決まって、自分の行動に迷いがある時なのである。彼女は、写真のサラの表情が変わることを期待して何度も見直したが、何も変わらないことに本気で戸惑っていた。




