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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第十章 ブロセリアンドの森
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フランス西部ブロセリアンドの森最深部、帰らずの谷

 坂井美春伍長が目を覚ました時、既に陽が上り、明るくなっていた。

「今の夢は、いったい、なに?」

 リアルな夢であった。坂井伍長は睡眠中に涙を流していたことに気づいた。あれほどまでに一貫性があり、しかも現実の体験と区別がつかない夢を今まで見たことがなかった。ふつうの夢であれば、目覚めた瞬間に見ていたことさえ忘れてしまうことが多いのであるが、この夢は違っていた。まさに現実と同じように記憶がはっきりしていた。

 坂井伍長は額の汗を拭おうと、腕を持ち上げた。その時、右手の人差し指に黒いあざが残っているのが見えた。拳銃の引き金を力いっぱい引いた時にできた跡にも見えた。

 そんなはずが、あるわけない。慌てて、ホルスターのベレッタ92拳銃を探してみた。だが、ベレッタ92拳銃はフックを掛けられたまま腰にあった。もちろん、弾を発射した形跡はない。では、この新しいあざは夢の中で使った拳銃によって出来たのであろうか? 信じられないが、それ以外に理由が考えられなかった。

「これが謎というわけね。グリフィスさんが言っていたことは、このことなのね」

 坂井伍長はこの夢が単なる夢の幻ではない気がしていた。彼女は夢の出来事を忘れないために、記憶を振り返って見た。それが重要なことのように思えたからである。

 取り掛かりとして夢の舞台となった時間と場所を整理してみた。時間はヂュランダル作戦後のトゥーロンへ帰還する途上である。場所は航空母艦〈ジャヌ・ダルク〉の艦内である。

 夢の中に出て来た航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉という名前を 坂井伍長はどこかで聞いたことがあった。セリア・ケイ少佐が、教えてくれたトゥーロンの軍港に停泊していた軍艦にその名前があったことを思い出した。同名の船がトゥーロンの港に存在し、今現在はデュランダル作戦に参加するため、ネーデルランド近海に向かって北海を航海中である。それは偶然に名前が一致するという単純なことではなく、おそらくまったく同一の船なのだろう。違いがあるとすれば、存在していた時間、あるいは、世界が違うということになるはずである。

 帰らずの谷には、別世界にあったと思われる車両が数えきれないほどに残されていた。それらと同じように夢の中の舞台となった航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉は、帰らずの谷にある。坂井伍長はそんな予感がした。航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉が見つかれば、その残骸の中から夢の中で起きた痕跡が見つかるに違いない。

 帰らずの谷には、まるで解いてくださいと言わんばかりに謎が集まっている。坂井伍長は妙に感心してしまった。だが、そんな悠長なことは言っていられない。夢の痕跡を確かめなければならない。


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