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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第八章 帰郷
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トゥーロン市内第6軽機甲旅団駐屯地補給物質集積所

 厚い雲を通した鈍い色の朝日を浴びながら、統合軍補給基地には、82式指揮通信車、16式機動戦闘車を中心とした日本国の自衛隊の車両群が待機していた。セリア・ケイ少佐の率いる第6軽機甲旅団隷下の第1外人工兵連隊第5中隊であった。

 彼女の中隊はその設立理由からもわかるように特別編成となっていた。82式指揮通信車〈コマンダー〉を先頭に、第1小隊は16式機動戦闘車4両、第2小隊は85式地上レーダー装置搭載高機動車、野外通信システム搭載73式中型トラック、無人無線中継システム搭載73式中型トラック、さらに、第3小隊は軽装甲機動車〈ライトアーマー〉1両、野外支援車1両〈トイレカー〉、弾薬補給車1両、燃料給油車1両、野外炊具1号を牽引した大型トラック〈カーゴ〉1両から構成されていた。

ちょうどそこへ、TRM2000全輪駆動式トラックが到着した。TRM2000トラックにはマールス・グラディウス少尉を中心とした第1小隊の戦闘機動車の乗員たちが乗っていた。彼らは、もともと特殊部隊やゲリラ鎮圧部隊に所属していた者が集められ、グラディウス少尉によって鍛えられてきた兵士である。ケイ少佐にとっては、出来すぎの優秀な部隊であるが、敵はドラゴンであり、ルシファーであり、過去に例のないこの作戦には出来すぎるということは気休め程度にしか意味がないのかもしれない。

TRM2000トラックから降りた兵たちは、駆け足でケイ少佐の前に整列した。そして、グラディウス少尉が一歩前に進み出て敬礼をした。

「第1小隊、全員集合しました」

 これで先に揃っていた第2小隊、第3小隊とともに全員が揃ったことになる。

 ケイ少佐はゆっくりと答礼をして、一人一人の表情を目で追った。全員、興奮ぎみで力に満ちあふれている。誰一人として、今回の作戦に怯えている者がいないことを見て取って彼女は安心した。

「全員に話しておきたいことがあります。中継してください」

ケイ少佐が通信担当のタチアナ・ベルテンス准尉に向かって言った。出発の時が来たのである。坂井美春伍長がそうであったように、ケイ少佐も一刻も早く出発したいと考えていた。

「準備できました」

 ベルテンス准尉が告げた。

「全員、その場で聞いてください。私は作戦に参加する諸君に深く感謝しています。人類にとってもっとも困難な時期に、私は諸君の指揮官の職務を担うことになる責任の重さを十分に自覚しているつもりです。私が指揮官として前線に立つことを決意したのは、私たちの未来を信じているからです。そして、人類存続に対する義務の遂行を回避したくないからです。今回のデュランダル作戦は、統合軍にとって戦略の転換、すなわち、消極防御の立場から、積極攻撃の立場に、切り替えを可能にする唯一の道であると考えています。現在、ネーデルランドに向けてドラゴンが集結しつつあります。しかし、これは私たち人類に対する総攻撃の準備のためではなく、また、根も葉もなく噂になっている異変から逃れようとしているわけでもありません。これはドラゴンが産卵期を迎えたための移動に過ぎないと推測しています」

 ケイ少佐は異変を否定することによって、話をドラゴンだけに止めようとした。自分を信頼してもらえば、決して悪いようにする気はなかった。話さなければならない時がきたら、その時は全てを話すつもりであったが、今は伏せたまま話を続けた。

「ドラゴンが集結しつつある場所は、まずフェアリーリングに間違いはないでしょう。そしてドラゴンが集結しつつあるのは、私たちにとって一隅のチャンスでもあります。なぜなら我々の持てる兵器を全て集中的に注ぎ込むことが可能であるため、私たちに残された戦力でもドラゴンを戦滅させることができるからです。次のドラゴンの産卵は、いつになるのかわかりません。この機会を絶対に逃してはなりません。それだけに主力部隊の第2機甲旅団を誘導しなければならない私たちの前路掃討部隊の任務には非常に重い責任があります。しかし、ひとりひとりが自分の職務を全うし、ひとりひとりが捨て身の覚悟で臨めば必ずやり遂げられると信じています。この任務をやり遂げることこそが、この十年間に散っていった多くの仲間たちの弔いになると信じています」

 ケイ少佐は覚悟を決めていた。それは全員に伝わっているはずである。彼女は話を続けた。

「ドラゴンの群れは、既に遠くまで離れていますが、防衛識別圏を通過すれば、私たちより前にいる友軍は存在しないということになります。でも心配はいりません。統合軍全軍が我々の行動を支援することになっています。それは、戦闘車両二千台を含む空前の大部隊です。ドラゴンは他のエリアの群れと合流しつつあり、その両翼は数キロにわたるものと報告されています。最終的にはドラゴンの群れは数十万頭にも及ぶ数に達するでしょう。我々はこれを追跡し、その目的地を見極めなければなりません。それが、どんな意味をもつのかは誰にも分かりません。ですが、ドラゴンが集結している今こそ長き戦いの勝機であることに間違いはありません。それゆえに、自分たちの未来だけでなく、統合軍およびトゥーロン並びにイエールにいる同胞たちの未来のため、我々はただちに戦いに向かいます。上手く言えませんでしたが、全員が生還できるように私は最大限の努力を惜しまないつもりです。どうか、私に力を貸してください。以上です」

 ベルテンス准尉が後を引き継いだ。

「各員、これより出発する」

 兵たちが車両に向かって駆け出した。次々と、各車の乗員が配置につく。弾薬を積み終えたTRM2000全輪駆動式トラックのリヤドアが閉められ、直前まで補給していた給油ノズルが外された。一斉に始動した各車のエンジン音が大気を震動させ始めた。

 グラディウスの乗る機動戦闘車が先導車を務め、一台ずつ車両が続いていった。ケイ少佐にとって、トゥーロン・イエールは単なる一時的な避難地に過ぎなかったのかもしれない。しかしながら、今はここを離れることが寂しく感じられた。再び全員で戻ってくることを心の中で固く誓ってはいたが、それでもなお、この街の景色をまぶたに焼き付けておこうと、指揮通信車〈コマンダー〉の上部ハッチから身を乗り出して、街での暮らしを懐かしく思い出していた。

 ほとんどの乗員は、車内で頭をぶつけても怪我をしないように戦車帽をかぶっていたが、ケイ少佐は髪が邪魔にならないようにバンダナを頭に巻く程度にしていた。戦車帽で動きづらくなることを嫌ったからである。彼女は風になびくバンダナに、こそ痒さを感じながらも、まだ見えぬ遠い故郷を見つめていた。

 車列が進み続けると、たまたま道路脇にいた新安全保障隊に配属されたばかりの少年兵たちが、見送りのつもりで不器用な動作ながらも直立敬礼をしていた。まだ子供さを残す少年兵たちからは、機動戦闘車に搭乗する自分たちが立派な兵士に見えているのかもしれない。彼らは車両が整然と走行するのを目にとめ、いつかは自分たちも戦車にのって戦いたいと希望を輝かせているに違いない。

 ケイ少佐は道路脇の少年兵の姿に気づき、不器用とはいえ、純粋な気持ちで、守りに就く少年兵たちに愛しさを感じながらも、トゥーロン・イエールのことをお任せしますとの想いを行動で示すことにした。

「各車長は、頭右かしらみぎをお願いします」

 彼女は全身全霊の車上答礼にて答えるように号令した。いろいろといきさつがあった安全保障隊とはいえ、組織は新しくなっており、これからの世界を担ってもらう若い人々に彼女は最大級の礼を尽くしたのである。そして、各全の車長も彼女に習い、答礼をしながら少年兵たちの前を通過した。6月10日の朝のことであった。


(第九章へ続く)

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