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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第八章 帰郷
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トゥーロン北部モン・ファロン山頂旧展望台

 十年前に起きた異変以後に消えることなく天空を覆う粉塵の厚い雲が、夕日によって真っ赤に染まっていた。まるで鮮血を思い起こす程に不気味に、しかしながら美しく、天空は夜の闇の世界に入ろうとしていた。

 トゥーロン北部にあるモン・ファロンの山頂には、通称名が象の檻と呼ばれる施設がある。象の檻とは、正式にはウーレンウェーバーアンテナと呼ばれ、CDAA(Circularly Disposed Antenna Array)と呼ばれるアンテナの一種である。全方向からの受信を精度良く、かつ機械的機構なしに電子的に高速走査できるフェーズドアレーアンテナの一種である。多量の受信機を同時に運用し、西欧のあらゆる場所で発信された電波をキャッチするのが目的である。

 人類滅亡の危機を迎えた今では、トゥーロンおよびイエール以外からの音信は既に途絶えて久しく、これらのアンテナは受信する電波もなく、虚しく立ち尽くすだけであった。だが、そのアンテナのひとつが天空のノイズに混ざって、大地の発する規則的な電波を受信し始めていた。フェアリーリングを抜けた向こう側に存在すると思われる妖精界から流れてくるメロディである。

 妖精界、それは別名ティル・ナ・ノーグと呼ばれ、最近になって活動が活発化し、奏でるメロディも次第に強くなりつつあった。

 厚い雲の下すれすれのところを、地中海艦隊に所属する航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉から発艦したE-2Cホークアイ早期警戒の航行灯が定期航路を旋回しているのが見えていた。

 セリア・ケイ少佐は闇に閉ざさつつある天空から視線を戻しながら、目を閉じて何かを考え込み始めた。今日の彼女はいつもの薄い化粧とは趣が違っていた。ちょっと赤くてくっきりした口紅をつけているようであった。そして、かすかな花の香り。おそらく、海上部隊事務局爆破事件により殉職していった憲兵隊の兵士の墓標に花束をおいてきたばかりなのだろう。

 やがて、大きくため息をするとケイ少佐はふり返った。これ程大きなため息をしたのは、彼女が今まで何かについて悩んでいたからである。

 ケイ少佐は、まだ二十代後半のうら若き女性である。平和な世界なら家事や育児の悩み事にため息をすることもあったろうが、彼女は自らの意志に関わりなく混乱した世界の問題を背負い込むことになってしまった。それは間違いなく、彼女の心のどこかで常に大きな重荷となっていることは明らかであった。

「あなたに見せたいものがあるのよ」

 ケイ少佐は坂井美春伍長に向き直ってから口を開いた。

 彼女はデュランダル作戦の準備で忙しいスケジュールの合間をぬって、坂井伍長と二人だけでここにやってきたのである。その場所とは、トゥーロン全域を見下ろせることができるモン・ファロンの頂上である。ここに至る途中、ケイ少佐は一言も話を切り出そうとはしなかった。そして、坂井伍長の方もケイ少佐が何か言い始めるのをずっと待ち続けていた。状況が状況だけに単なる世間話をするためとは思えなかったからである。何か重大な話があることを予感していたのである。

「見せたいものとは何ですか?」

 坂井伍長は間が持たずに戸惑っていた。何しろこの場所から目の前に広がっているのは、トゥーロン市街全体を見下ろすことが出来るありふれた光景だけである。市内全域は照明管制下にあり、さらに巧みなカモフラージュによって偽装されている。それは今の世界では見慣れたものであり、わざわざ見るべきものは何ひとつ見当たらなかった。

「すぐに、分かるわ」

 悪戯とも冗談とも分かりかねる答えであった。ケイ少佐はそれだけ言うと、再び、トゥーロン市街の方角を向いてしまった。その後ろ姿には、どこか悲しげな姿があった。

 坂井伍長はケイ少佐が何かを打ち明けようとしている意思を感じ取って、ケイ少佐の視線が求めるものを目で追ってみた。少しばかり展望のよい場所から見る市街地、それだけを見せるために呼び出されたとは思えず、坂井伍長にはやはり理由が分からなかった。

「デジャヴという言葉を知っているかしら?」

 ケイ少佐はあいかわらず遠くを見つめたままである。気のせいか、どことなくケイ少佐の声が震えているようにも思えた。

「ええ、知っています。始めて経験するはずの出来事なのに、既に体験していたことがあるように感じる現象のことですね。でも、それは疲れた時に引き起こされる錯覚に過ぎないという話を聞いたことがあります」

 坂井には、論理的な説明をすることが苦手なので、上手く説明はできなかった。しかし、ケイ少佐に言葉の意味の説明を求められたとも思えなかったので、一般的な常識を答えるだけにとどめておいた。

「そう……」

 ケイ少佐は小さくつぶやくように言い放った。

「それに意味があるのですか?」

「十年前に不思議な夢を見たわ。とってもリアルな夢で、とっても恐ろしくて、とっても泣き出したいほど辛いものだったわ。でも、その夢が単なる夢でなく、まるで現実に起こる気がしてならなかったわ。いえ、これから起こる未来そのものなのかもしれない。もしも、そうなるのであれば、私はルシファーに殺されることになるわ。おかしいでしょう。でもね、現実の世界で初めて見聞きするはずのことでも、その夢の中で既に見聞きしていることを思い出すことがあるのよ」

 ケイ少佐は何かを自分に伝えようとしている。坂井伍長は肌でそれを感じ取った。しかし、何を? ケイ少佐は具体的な説明をする気はないようであった。まるで教壇で学生に質問をする教師のように、生徒が答えを導き出せるように見守っている感じであった。

「フェアリーリングには、まだ何か秘密があるというのですね? それは、交じりあった妖精界と我々の二つの世界に関した秘密で、ひょっとしたら、それは……」

 その時であった。トゥーロン市街地の静寂が突然に鳴り渡ったサイレンによって破られた。そのために坂井伍長の思考が中断することになった。

 サイレンは市街広範囲に広がっていたものの、今まで聞き慣れた空襲警報や待避警報とは違っているようであった。

「何の警報でしょうか?」

 坂井伍長は警報に関して何も聞いていなかったので、不安感を募らせた。

「警報なら大丈夫よ。それよりも、しっかりと見ておくのよ。もう、二度と見ることができないかもしれないから」

「先ほどから私にいったい何を見せようとしているのですか? まったく分かりません。何かが見えているのですか?」

「慌てないで……。あるがままを受け入れて、素直な心で見るのよ。そうすれば、私が見せたいものが必ず見えるはずよ。それは、今始まろうとしているわ」

「?」

 坂井伍長がさらに困惑していると、目の前に広がるトゥーロン市街で何か大きな動きが始まったことに気づいた。街に明かりが見え始めた。ひとつふたつと、次第に明かりが増えていく。目の前に広がるトゥーロンの街は人々の生活による明かりが無数に広がっていった。まさしく目の前に百万弗の夜景が広がろうとしていた。

 市民は再び開かれた外の世界を不安な思いで見つめていた。人によっては恐怖にかき立てられてシェルターに逃げ込んでしまった。そのような人にとって、暗闇と閉鎖にこそ、今までと変わらない平穏があると考えているに違いない。しかし市民の多くに起きつつあることが受け入れられ、大きな騒ぎとなるような問題は起きなかった。

「いったい何事でしょう?」

「十年という空白を終えて、私たちは再び大地と天空を取り戻す時がきたのよ。今までは城壁の殻に閉じこもっていたけれども、これからは現実から逃げることに決別するのね。惰眠を貪るのをやめ、脅威に正面から対決するのよ」

「目の前で起きていることは、それとどういう関係があるのかよく分かりません」

「城壁はドラゴンやルシファーから守るために造られた物よ。いわば貝のように閉じこもって身の安全を確保するための殻ね。だから、今、自分自身を殻から外にさらけだしたのよ。もちろん、理由はドラゴンと本格的な戦いを交えるためだわ」

 城壁を開くということ自体は、人々の眠れる心を起こす、という大きな目的に使われたのである。人々の目を再び外に向ける。ドラゴンと最後の決戦を交えるためには必要なことであった。

 明かりが次々と灯されると、市内の照明が主送電ケーブルの電圧降下の影響を受けて薄暗くなった。それは嫌がうえでも人々の不安をかき立てた。だが、人々はその試練に打ち勝っているのは明白な事実であった。本当のところは、明かりが灯されたことの重大さがトゥーロンの人々の多くには、分かっていなかったのである。人間が地上の征服者であった過去の栄光に慣れてしまい、危険を予感する能力を失ってしまった後遺症であった。しかし、それがかえって不要なパニックを引き起こさずに済んだ原因になったのかもしれない。いずれにしても、人々に冷静に受けとめられたようであった。

「どうして、今までどおりではいけないのですか? ドラゴンと人類が住み分けをすることで、今まではなんとか生き残ることができたではないですか。二つの勢力が本格的な戦いを交えることにでもなれば結果はどうであれ、お互いが大きく傷つくことになるだけです」

「その答えは、目の前にあるわ」

 目の前の景観は一変していた。カモフラージュが撤去されてトゥーロンの街の明かりがあらわになっていた。街の明かりは大地に根を下ろすように広がりをもち、規則正しく明滅し、流れる明かりはさながら光の結晶のようにも見えた。それはひとつひとつで見ればとてもささやかなものだけれども、全体として見れば厚みといい、奥行きといい、見事な輝きを放っていた。

 隠れるように息を殺して生きるだけでは、この輝きを絶対に手に入れることができない。失われた大地と天空を取り戻すことによって、初めて手に入れることができるものである。これこそ、新たな世界に挑戦することの象徴のように見えた。劇的であり感動的でもある光景である。その姿は、いくつもの対空砲に囲まれて決して優美なものではなかったけれども、何物にも変えがたい美しさがあった。

「ええ、私にも分かるような気がしてきました。この街の明かりのひとつひとつに人が生きているのですね。これこそが人間が今までしてきたことなのですね。道路を作り、家を建て、そして、街を築いた。そこには、歴史があり、そして、未来もある。戦いを終わらせなければ、いつかは人間が築いてきたものが壊されると考えているのですね」

 二人の間に沈黙が訪れた。眼下では、次第に統合軍基地の明かりも加わって、眼下に広がる明かりはさらに輝きを増し始めた。天空が闇に包まれていくにつれて、街の中に、ひとつ、またひとつと、さらに明かりが増えてゆき、次第に街全体が明かりの中で揺れているように見えていた。

「いったい、少佐を動かしているのは何なのですか? 失礼な言い方になりますが、とても少佐がそれほどに強い人だとは思えません。どちらかといえば、かなり無理して背伸びしているように見えます。どうして、無理し続けてでも戦い続けるのですか? 少佐にはそこまでしなければならない責任はないはずです」

「私は私なりにこの街を守りたいのよ。それだけよ。もう私が守ってあげなければいけない人はいなくなってしまったけれども、せめて私が守り切れなかった罪滅ぼしに、同じような子供たちを守ってあげたいのよ」

「妹のサラさんのことを言っているのですね。でも、私が聞いた限りでは少佐に責任はないと思います。避けられない事故に出会ってしまったようなものです。そんなに自分を責める必要はないと思います」

「死なせてしまったのに責任がないと言えるわけがないわ。私は自分が許せないのよ。器量もないのに守ってあげようと自惚れた自分が恨めしいわ。私の気まぐれさえなければ、こんなに早く死なせることはなかったはずよ。だからこそ、自分が許せないのよ。でも、今は自分を罰することはできないわ。私には和田中尉やグラディウス少尉、それから、アルテミス少尉、さらに彼らの仲間たちが慕ってくれているのですもの。彼らの信頼を自分の都合で勝手に破棄するような裏切りはできないわ」

 坂井伍長はケイ少佐の意外な一面を見せられて驚きを感じていた。もしも彼女からサラに対する自責の念を取り払ってあげることができれば、おそらく平凡などこにでもいるような女性に戻ってしまうに違いない。そして、和田中尉やグラディウス少尉、それから、アルテミス少尉とは関わることもなく、信頼関係で結ばれることもなかったであろう。そうなれば、おそらくトゥーロンやイエールの運命も変わっていたに違いない。

「全ての脅威を取り払おうとして、完全な安全を獲得することにこだわり過ぎています。しかも、サラさんに対する罪悪感のために常に自分を危険な状況に置かなければいけないと思い込んでいるのではないですか? だから、いつも無茶をしているように見えます」

 しかし、坂井伍長はそれを口に出して言う勇気はなかった。どうして、ケイ少佐の固執する思いの強さを責めることができるであろうか? そんなことは誰にもできるはずもない。結果的にトゥーロンやイエールが何度も救われたのは、そのおかげかもしれないなのである。

「この街の明かりは、以前は人工衛星からもはっきりと見えたそうよ。人間はそれほどの街を作ったわ。そして、この明かりの中に、およそ二十万の人間が生活している。彼らのほとんどは情報を制限されていて、ルシファーの存在を知らないし、人類が存亡の危機に立たされていることすら知らされていない。だからといって、私がそれらの情報を知っているといっても、私が世界についてどのように変わってしまったのか知っていることといったら微々たるものでしかないわ。でも、あなたはどうかしらね」

 街の明かりの印象が十分に坂井伍長に効いた頃を見計らって、ケイ少佐は本題に入った。坂井伍長の方といえば、いきなりの質問に心の中を見透かされた気分になった。慌てて平静を装って、なんとかかわそうとした。しかし、ケイ少佐は街を見続けたままで、坂井伍長の方を見向きもしなかった。まるで、彼女には坂井伍長の心の中が見えているようである。

「私が? 買い被りすぎですよ」

 坂井伍長は探りを入れてみる。

「買い被ってはいないわ。ただし、今のあなたには無理かもしれないわね。でも、近い将来のあなたは、どうかしらね」

 ケイ少佐は有無を言わせなかった。

「私に何かを期待しているというのですか」

 坂井伍長は言葉を変えてみた。

「その逆よ、あなたがわたしたちに何をして欲しいのか見極めて欲しいのよ」

 ケイ少佐は坂井伍長の方を始めてみた。ケイ少佐の表情は真剣そのもので、坂井伍長を圧倒する程に気迫が感じられた。その眼差しからも、決心が固いことを示している。もしもケイ少佐に何かの決断をしてもらいたいことがあるとすれば、それはただちにトゥーロンとイエールの二十万の人間に関ってくることを意味しているに違いない。ケイ少佐の階級では軍のトップでもないにもかかわらず、少なくとも一連の事件の結果を見る限り、現状では間違いないのは明白である。

「言っていることが、よく分かりません」

 ケイ少佐は自分を試しているのではないかと坂井伍長は疑っていた。そのほうが納得できる。

「今のあなたには、そうかもしれないわね。でも、それができるのはあなただけだと信じているわ」

 坂井伍長は何も答えることができなかった。

「ルテチアに戻るそうね。その前にラングルに向かいなさい。第6軽機甲旅団はラングルを通過する作戦計画になっています。そこで第6軽機甲旅団の将兵と接触し、ルテチア防衛軍から派遣されたと説明するのです。そして、ルテチア防衛軍はいまだ健在であり、ルテチア解放の戦いのための援軍が必要であることを説明しなさい。それを聞きつけた第2機甲旅団の将兵は、喜んでルテチアに向かうでしょう。口実をずっと探していましたからね。でも、ルテチアが解放された時、それはあなたの任務が完了した時でもあるはず。あなたは、次はどこへ向かうのかしら?」

「?」

「あなたには、もう隠す必要もないでしょう。異変の震源地、ル・アーヴルに向かいなさい。そこには人類が隠し続けていた真実のひとつがあります。その先にこそ、あなたが求めているものがあるでしょう。あなたは行かざるをえないのよ。それが、あなたに与えられた運命だわ。十年前に起きたこと、そして、その先にあるものを見届けて欲しい」

 ケイ少佐は平然と言ってのけた。運命なのだ、とおおげさなことを言っているのであるが、ケイ少佐はただ単に事実を述べているかのような口振りである。そして、坂井伍長にミネラルウォータの入ったペットボトルを渡した。

「これは?」

 ペットボトルは年代もののように古さが感じられた。製造年月日を見ると十年前になっていた。しかも日本製品である。坂井伍長には、この古いミネラルウォータにどのような意味があるのか全く分からなかった。

「十年前にフランス軍を含む北大西洋条約機構はドラゴン包囲殲滅作戦を計画していたわ。その作戦がどんな結果に終わったかは、あなたも知っているでしょう?」

「異変による北大西洋条約機構の壊滅、それは、その後の世界的な大混乱の始まりだわ」

「そう。そのミネラルウェータをどうすればいいのかは、ル・アーヴルに着けば分かるわ。たった1本しかないミネラルウェータだったけれども、十年前に自分が持っていってあげたかった……」

「少佐が既にご存じなのでしたら、もう、私などが行く必要はないと思いますが……」

 ケイ少佐は突然笑いだして、坂井伍長を止めた。

「心にも思ってないことを言うのね。本気ではないのでしょう。あなた自身、今まで捜していたものを自分の目で確かめなくて、それでいいのかしら? 捜しているものを見つけてみたくはないの?」

「捜すって、なんのことです?」

 坂井伍長はとり乱しながら、とぼけた。それは、かえって白状しているのも同然な振る舞いとなってしまった。

「ごまかしても、無駄よ。この世界の行方のことよ」

「御存じでしたか……」

 坂井伍長は、とうとう諦めた。ケイ少佐が自分よりも上手なことを認めないわけにはいかなかった。少なくとも、ケイ少佐はからかっているわけではない。しかし、どうしてそんなことをちっぽけな自分なんかに聞くのだろうか不思議であった。

「私も同じことを考え続けていたからこそ、あなたを見ていて分かったのよ。この世界は一見混乱の局地に立たされているように見えるけれども、そうではないはずよ。違っているかしら?」

 それは、まさしく坂井伍長が考えていたことであった。今まで、自分と同じことを考えている人がいるなんて考えたこともなかったために、すくなからずとも興味を持った。

「そのとおりだと思います。しかし、まだ、頭の中は矛盾と疑問だらけです。何から話していいのかも、判断に迷ってしまう程です」

「今、あなたの考えを聞く気はないわ。パズルが解かれるまで誤った知識は持ちたくないのよ。そのかわり、本当の答えを見つけたならば、必ず教えて欲しいわ。私とこの街に住む人たちのすべきことをね」

「でも、どうやって?」

 坂井伍長の頭の中では既に行き詰まっていた。

「まず、あなたがどうすればいいのかは私がヒントをあげるわ。しかし、それからのことは自分で見つけなさい」

 少なくとも、ケイ少佐は自分よりも前を進んでいたらしい。同じレベルに達するまではフォローをするけれども、なんとかしてそれより先に進んで欲しいというのであろう。それは、あまりにも荷が重過ぎる仕事というものである。

「少佐の方が部隊を動員できるのですから、私のような個人に頼まなくても自分で行動した方が早いのではないでしょうか?」

「いいえ、坂井伍長でなければいけないのよ。坂井伍長だからこそ、見つけることができる答えが隠されている気がするのよ。なんといったらいいのかしら、私はそうなることを知っているのよ。笑うかもしれないけれども、信じるか信じかはあなたの自由よ。昨日、私は部隊ごと転属申請をしてきたわ。海上部隊の事務局から第6軽機甲旅団の戦闘集団への転属よ。私はいろいろ出しゃばりすぎて将軍たちに疎んじられているから、遠くへ行ってくれるということで喜んですぐに許可されたわ。これでドラゴンを撃つために出発することができる。でも、それが精一杯。なにしろ、私の敵はドラゴンやルシファーばかりでなくて、あちらこちらと多すぎて自由に動けないのよ。とにかく、坂井伍長は行く運命にあるのよ。でも、それについて、今は、何も言うつもりもないわ。なんの先入観も持たないで、あなた自身で考えるのよ」

伝えるべきことを全て伝えたらしく、ケイ少佐はきびすを返して来た道を戻り始めた。しかし、突然立ち止まって彼女は港の一隻の軍艦を指差した。

「そうそう、航空母艦〈ジャンヌ・ダルク〉はあれよ。サラは聖人ジャンヌ・ダルクの物語が好きだったわ。これも何かの縁なのかしらね。でも、なぜかしら、あの艦は昔からこんな名前だったのかしら? 昔は違っていたような気がするの。なんとなく、そんな気がしてしかたがないの。そんなわけがないのに、全然違う名前が浮かぶことがあったけれども、その名前がすぐに思い出せなくなってしまうのよね」

坂井伍長は尋ねてもいないことを突然に教えられて戸惑った。これも、何かのテストなのだろうか? いったい、ケイ少佐は最後に何を言おうとしたのだろうか?


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