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ドラゴンリング  作者: 半纏ボク
第八章 帰郷
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トゥーロン市内サントラル・トゥーロン墓地

 一夜が明けて静かな朝に礼砲が響いた。海上部隊事務局で発生した爆破事件で、死亡した憲兵隊の兵士の葬儀に出席するために、セリア・ケイ少佐はトゥーロン市内のサントラル・トゥーロン墓地に来ていた。

 自分の傍で、再び死者が出てしまった。ケイ少佐はすっかりと落ち込んでいた。妹のサラから始まり、これで何人の人が亡くなったのか、その数すらも思い出せないほどになってしまった。どうしたら、このようなことを無くすことができるのか? 彼女は考え込んでいた。あるいは、このような悲劇を無かったことにできないのか? そう、この世界は時間がループしているのであるから、全員が助かる時間の流れがあるのかもしれない。しかし、実際の彼女は無力であった。今の彼女にできる唯一の事は葬儀に参列することで、死者が安らかに眠れるように見届けることだけであった。

 ケイ少佐を取り巻く環境に変化があった。安全保障隊は組織が一新され、生まれ変わっていた。生まれ変わったと言えば聞こえは良いが、退役した老人や学生を駆り出して新たな部隊を編成し、トゥーロン・イエール市内の治安維持にあたらせることになったのである。一度は退役した老人たち、まだ子供のような少年たちまで動員している。コミュニティの中核となる二十代や三十代の人材が不足していた。

 サントラル・トゥーロン墓地に礼砲が轟いた。ケイ少佐は身体が思わずすくんでしまった。頭ではただの礼砲に過ぎないと理解しているつもりなのに、爆破事件の恐怖が脳裏によみがえって無意識に身体がすくむのである。

 ケイ少佐は柩にかけられる土を見ながら、考え込んでいた。彼女は争いを好まない性格ゆえに、人の屍を越えてまで正義を通すだけの勇気を持ち合わせていない。これからは自分本来の仕事であるMLAの管理に専念し、誰が何をしようと余計なことを一切口にしない。そうして何事も見て見ぬふりを決め込めば、自分とその周りの人たちを二度と争いに巻き込まないですむのかもしれない。

 彼女の心が揺らげば揺らぐほど、心の中で必死になって呼びかける存在があった。正確には呼びかけているわけではなく、フェアリーが何かを伝えようとしている姿といった方が正確であろう。彼女自身はフェアリーの言葉を聞いたことは一度もなかった。しかし、彼女は妹のサラととても仲が良かったフェアリーの存在を強く感じていたのである。

 既にこの世から去った妹のサラとフェアリーではあったが、ふたりの魂は今の混沌とした世界を憂いている。ドラゴンとルシファーによってもたらされた恐怖と死が支配する世界、未来が閉ざされて希望の光が失われてしまった世界、そんな世界に変えてしまったフェアリーリングはフェアリーが創りだしたものである。もともとフェアリーリングはフェアリーが単なる遊びで創ったものであったが、十年前に悲劇が起きた。そう、あの悲劇は不可抗力であったはずである。誰にも悪意はなかった。にもかかわらず、悲劇が増長され続けている。そんな事態にフェアリーは憂いているに違いない。

 子供たちが青空の下で、死の影に怯えることなく、無邪気に遊ぶことができる平和な世界を取り戻して欲しいと、ふたりの魂はケイ少佐の心の中で訴え続けていた。誰にでもなく、自分自身に願いを託しているのである。それはサラを死なせてしまった原因が自分にあるのかもしれないという罪の意識であり、ふたりの魂の求めている未来こそ彼女が切に求める未来でもあったからである。

 いつのまにかケイ少佐は空を仰いでいた。この空は故郷のベームスター干拓地にもつながっている。懐かしい場所でもあるが、そこはフェアリーリングが未だに存在する場所でもある。故郷で起きた悲劇から、あるいは、フェアリーリングからもたらされた恐怖から、今までは逃げてきた。フェアリーリングに何があるのか分からないけれども、これ以上の悲劇を止めるためにも、悲劇を終わらせなければならないことは明らかであった。

「やっぱり私が行動しなければいけないわ。未来は自分で切り開かなければいけない……。そう、まだ何か、きっと私にもできるはずよ!」

 彼女の華奢な身体や少女っぽい顔からは想像もつかない強い思いは、いや、そんなものではなく彼女を今まで内面から動かし続けてきたサラに対する罪の意識は、それは彼女だけにしか分からない大切な思いであった。何かしら決意に似たものが自分の中に現れていた。どうして、そんな気分になったのか分からないが、ただ、自分が何をなすべきか今はっきりと理解したのであった。

 決意を胸に秘めて、ケイ少佐はサントラル・トゥーロン墓地を後にした。


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