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女子学園に潜入した美少女探偵ですが、ライバルお嬢様が推理勝負を挑んできます ~令和の小林少年と怪人二十面相の遺産~  作者: 佐倉陽介


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プロローグ2-3 普通じゃない少年

 時刻は午後四時を回ったころ。


 社内全体に、終業まであとひと息という落ち着きが漂いはじめていたが......その空気の中で、佐倉課長は席を立ち、静かに上着を手に取った。


「ちょっと立ち寄ってから、今日は直帰します」


 声は淡々としていた。だが、それがただの外回りではないことを、三好も小春もすぐに察していた。課長が向かう先は、きっと、天野祐希少年とその保護者のもと。今日の会議で交わされた“依頼”を、現実の行動に移すタイミングが来たのだ。


「......動くんですね」


 三好がぽつりとつぶやく。


 佐倉は応えず、小さく会釈だけをして会社を後にした。


 彼の背中が見えなくなってから、小春は思い出したように問いかけた。


「三好さん......天野くんって、そんなに“すごい子”なんですか?」


「“すごい”って言ってしまえば簡単だけど......うーん、空気のまとい方が違うって感じかな」


 そう言いながら、三好はスマホを取り出し、何枚かの写真を探し始めた。


「これ、去年の秋。社内懇親会のときの集合写真。十月だった」


 画面に映ったのは、社員たちが集まって和やかに写っている一枚。その中に、小春にもすぐにわかる少年の姿があった。


 深いネイビーのシャツにグレーのパンツ。派手さはないが、小学生にしては落ち着いた色合わせで、場の空気をちゃんと読んでいることが伝わってくる。


「服装もですけど......なんだか、佇まいが“大人”っぽいですね」


「でしょ? 無理して背伸びしてる感じじゃなくて、自然とそうなってるの。あの場でも、誰に紹介されてもちゃんと挨拶できて、目を見て話して、口調も落ち着いてた。まるで、接待の心得があるみたいな感じ」


「それって......課長の影響、ですか?」


「うん。きっとね。課長は礼儀に厳しい人じゃないけど、あの子に礼儀が身についてるのは、おじさんの背中を見ているからって感じがしたわ」


 三好は、懐かしむように笑った。


「で、これが......同一人物、だと思うんだけど」


 次に見せられたのは、雑誌のページをスマホで撮影した画像。そこには、ファンタジー系アニメの少年主人公......銀髪のリュカ・フェリクスを完璧に再現したコスプレ姿の少年が写っていた。


「えっ......これ、同じ子ですか?」


「たぶんね。確証はないけど、目元と骨格は間違いないと思う。名前は載ってなかったし、雑誌のコピーだけど......一部の界隈では結構話題になってたみたい」


 少年は写真の中で、まるで“キャラクターそのもの”として息をしていた。無邪気さと透明感、どこか影を含んだ目の表情までもが、作品の世界観と一致していた。


「......すごいですね。カメラの前に立つ度胸というか......一種の役者魂すら感じる」


「でも、その“中身”はまだ小学六年生。普段は普通の子だと思うわ。だからこそ、今回の件......どうなるのか、私も少し気がかり」


 三好はスマホをしまい、少しだけ遠くを見るような目をした。


 小春は、静かに唇を噛んだ。


 かつて自分も“普通じゃない場所”に立っていた。


 “普通の子”を演じながら、求められる“非日常”を担っていた日々を、今も体の奥が覚えている。


 だからこそ、気になってしまう。あの少年が、これから踏み込むかもしれない世界の重さを。

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