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女子学園に潜入した美少女探偵ですが、ライバルお嬢様が推理勝負を挑んできます ~令和の小林少年と怪人二十面相の遺産~  作者: 佐倉陽介


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プロローグ2-2 密談

「誰か私を訪ねてきた?」


 スマホを手にしたまま、佐倉課長が席に戻ってきた。画面には、社内チャットツールの緊急通知......“○○学参パンフ撮影モデル変更対応の件(※機密事項扱い)”という一行が表示されたままだ。手元に視線を落としながら、すでにこの後、何が起きるのかを察しているようだった。


「営業二課の鈴木くんが、やたらキョロキョロしながら来ました」


 そう答えたのは、三好だった。小春は彼女の言葉にうなずきながら、佐倉の表情をそっと窺う。いつもよりわずかに険しい。その理由は、すぐに明らかになる。


 午後三時、社内の一角......営業部と制作部に挟まれた小さな会議室。その扉が無言で閉じられると、オフィスのざわめきは遮断され、閉じた空間だけが、まるで別の時間に包まれていた。


 室内にいるのは三人。営業部長、総務課の課長、そして佐倉陽介。議題は非公式ながら、内容は社内全体の信用に関わる重要案件だ。紙の資料は存在せず、共有端末と、部長が持参した手帳だけがテーブルに置かれていた。


「モデルの降板は決定事項だ。明後日までに代役を立てなければ、パンフレットの制作スケジュール全体が崩れる。印刷所の手配もあるし、クライアントも既に校了予定日を把握している」


 営業部長は前置きなしに本題を切り出した。その声は感情を押し殺しているようで、だからこそ重みがあった。


「我々は教育分野の広報だから、普段は“権威ある識者”に登場してもらう。そういう堅実な路線だ。若者モデルを起用する案件はごく限られている。今回のパンフレットも例外ではなかった......はずだった」


 彼の言葉には、苦味と悔しさがにじんでいた。


「たしかに。基本的には“保護者に安心される人物”が好まれますからね。とはいえ、現場としては若年層向け企画の流れも無視できません。差し替え不可というのは、ある意味、この仕事が“攻め”に出た証拠です」


 佐倉が応じると、部長はうなずいた。


「そうだ。企画自体が“クライアントの子弟をモデル起用する”という、きわめて繊細な案件だった。外部には一切の情報を漏らすことができない。だからこそ、代役の選定にも慎重を極める必要がある」


 その時点で、佐倉は言葉の行き着く先を理解していた。頭の中に、去年の社内懇親会......狭い会議スペースに仮設の軽食が並べられ、社員とその家族が気軽に顔を見せていた光景が蘇る。


「......去年の懇親会で、君の甥っ子が来ていたね。確か名前は、天野くん。祐希くん、だったか」


「はい。小学六年です」


「小六か......だが、落ち着いた物腰だった。写真映えするし、第一印象の良さも際立っていた。正直、年齢以上に完成された雰囲気がある。本人がOKすれば、見た目の年齢要件もクリアできるだろう。それに、最近、雑誌のグラビアにもモデルとして掲載されたそうじゃないか」


「あれは居合わせたカメラマンが興に乗って撮影したお遊びみたいなもので、コスプレと言って、元の本人の顔がわからないぐらいメイクもして、名前も載りませんでしたから。掲載がアニメ雑誌だからこそのものです」


 名前を掲載しなかったことが、かえって世間の関心を惹いてしまった面もあり、今も編集部に問い合わせがあるそうだが、本人情報は伏せてもらっている。


 言葉を区切り、部長は背もたれに深く体を預けた。


「私は、君の副業について、今まで一度も口を出してこなかった。作品も読ませてもらったよ。面白かった。業務に支障がない以上、こちらから口出す立場じゃないからな」


 そこには個人的な好意も、一定の信頼も感じられた。しかし、次の言葉はそれらとは無関係に降りかかった。


「だが今回は、君の“社外の顔”を、社内の危機に還元してほしい。要は......頼らせてもらいたい、ということだ」


 佐倉は、わずかに視線を落とした。


 祐希は、ただの小学生だ。条件だけを見れば、今回の撮影には最適かもしれない。


「......本人と家族が納得すれば、協力は可能です。少し、時間をください」


 部長はうなずいた。


「もちろん。児童に何かを強要することはできない。きみが説得してもダメならそれまでだ。その報告を疑ったりはしない。ただ......君自身の“人脈”を、会社のこの一局面に生かしてくれたらと思う。今日中に結論が出れば助かる」


 しばし沈黙が流れたあと、佐倉はゆっくりと口を開いた。


「一つ、報告しておくべきことがあります......天野祐希は、血縁上の私の甥ではありません」


 部長の眉がわずかに動いた。


「うん? それは......どういう意味だ」


「もう一つ、承知しておいてください。説得が上手くいったとしても、彼......祐希は、本当は“女の子”です。それは社内でも外部にも、一切、秘密にしてください」


 その瞬間、室内の空気がわずかに張り詰めた。


 総務課長が視線を交わすこともなく、沈黙したまま事態の複雑さを噛みしめていた。


 部長は一度、口を閉じた。目を伏せ、何かを反芻するように小さく頷き、やがてぽつりと口を開く。


「......きみ、まさか。あの事件の時の、あの子か」


「そうです」


 応えた佐倉の声は、いつも以上に冷静で、淡々としていた。


 部長は短く息を吐き、視線を天井に向けた。


 それでも、思い出したかのように呟いた。


「......ま、今回限りの話だ。ここで止めておこう」


 そう言って、手帳を閉じ、椅子を引く。部長は会議室を出て行った。


 佐倉はその場に残されたまま、椅子にもたれかかり、天井を仰いだ。


 社外では“作家”として物語を紡ぐ。だが今ここで求められているのは、物語の書き手ではない。“一人の子ども”を、会社の危機に差し出す......その判断を、背負う人間としての覚悟だった。


 静まり返った会議室の中に、微かなため息と、言葉にならない思案が滲んでいた。

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