75 【~レオナルドside★NO.1~】
レオナルドsideのお話になります。
母と息子の内緒話の前にお話をいれたら、思いの外ながーくなってしまいました……ので75,76に分けて一気に投稿します。
ちなみに76話は母と息子の内緒話の投稿です。
お楽しみ頂ければ嬉しいです。
アリシアが私の私室にいると母上からの伝言を受け取った。進行中の処理を中断し、白薔薇の間への滞在許可書類の作成を超特急で行っていく。
母上の指示は3つ。
1,白薔薇の間の妃部屋の使用許可を取ること。
2,許可書を持ち、父上とグランツ公爵の承諾のサインを貰うこと。
3,この決定に異を唱える者に対して圧をかけてくること。
★追伸★全ての事柄を四半刻で済ませておいでなさいな。遅れたら許さなくてよ♡
とのことである。
一秒でも早く彼女の元へ行こう。
期間限定とはいえ、アリシアが自分の部屋で生活するということに、嬉しさでいつもの景色が輝いてみえる。
油断するとスキップをしそうな勢いだ。そんな気持ちを抑えながら、足早に長い廊下を歩いていると背中から聞き慣れた声がする。
““我が友、竜王よ。何か良きことでもあるのか?””
『『やぁ。黒蓮!』』
振り返るとそこには金の瞳に黒毛のフサフサの長い毛並みを持つ大型の動物いた。名は黒蓮。我が国で神の使いと崇めたてられている神獣である。代々竜王となる者のそばにあり絶大な加護を与えてくれる存在である。
七精霊王の上に君臨するこの世で最も最上位の精霊なのだ。
『『私の愛する女性が……未来の妻となる女性がしばらくの間私の部屋で暮らすことになったんだ。今から彼女に会いに行くところだよ。』』
““あぁ。あの良き魂を持つ娘子か。””
レオナルドはフサフサの毛並みを撫でながら頷く。
黒蓮も気持ちよさそうに身を任せている。
『『落ち着いたら君を紹介するよ。待っていて。』』
““それは楽しみだ。(我が同胞らの護りし子に会える日が……そうだな……。ふむ。明日にでも偶然を装い会いに行くとしようか。竜王には内密にしておこう。)””
黒蓮がボソリと呟いた一言はレオナルドの耳に届くことはなかった。
黒蓮に別れを告げ、内務長官のところへ急ぐ。
短時間で許可印をもらいアリシアの元に行くのだと気を引き締めた。
内務室に入室すると一目散に長官の執務机の前に行く。
突然の王太子の登場に何事かと周囲にざわめきが起きていた。一枚の紙をバン!と机に置くと“早急にサインを……”と圧力を掛けた。揉めることなくすんなり許可を取り付けた。
半ば脅す形で印を得たようにもみえるが……許可さえ有ればこちらのもの。
手続き書類を追加で準備している姿を、レオナルドは鋭い目付きで“はやくしろ!”と圧を強めて長官を凝視している。
若干焦りをみせた内務長官が、““あとは、自分の印をおせば手続きは終了いたします。すぐに戻りますので御待ちください。””と声を掛けた。
内務室の最奥にある金庫室の重厚な扉を、特殊な解除魔法を使い開けると中に姿を消した。
数分経った……数十分経った……遅い、遅すぎる。
長官がなかなか金庫室から出てこないことに苛立ちを隠せない。
イライラが爆発寸前なところで、バタバタと次第に大きな足音を立てこちらに近づいてくる。
めんどくさい奴らが来てしまった……
公爵令嬢の滞在先の情報を聞き付けた頭の固い貴族らが抗議にやってきたのだ。
圧をかけろという母上の指示に従い追い出すしかない。
なるべく早く始末してしまおう……
私の婚姻に納得がいかないエランドル侯爵が、最後の最後まで引くことはなかった。娘のマリドッドを私の妃に立てようと裏で暗躍しているからだ。
侯爵が筆頭となり、他国の王女や令嬢を我が国に迎えるべきではないと反対している。国内から王太子に相応しいご婚約者を選ぶべきであると声を挙げていた。
地方を取り締まる監察長官をしていることから、地方貴族、自分より身分の下の領主の不正を見逃す変わりにエランドル侯爵家に忠誠を誓わせている。愛娘が王太子妃になり王族の姻戚となった暁には派閥の者を優遇すると謳っている。ここ最近は勢力がかなり増しているようだ。
マリドッドに関しても良い噂は聞かない。
妃候補になるだろうと名が上がった令嬢は、身分や容姿が優れていて博識な者が多い。マリドッドはそんな候補者に言い掛かりを付けて社交の場から抹殺している。
6人ほど侯爵家に未婚の令嬢がいるが、一人は生まれつき体が弱く社交の場には姿を見せず引きこもり。もう一人は年齢が幼い。残りの者はエランドル侯爵が手を回し婚約者をあてがわれ無理矢理婚約させられた。候補に上がることはない。
そのため、侯爵家の中で最も力のあるエランドル侯爵の娘である自分が妃にふさわしく婚約者、次期王太子妃に内定していると自ら噂を流している。
成人を迎えた令嬢の中で最高位の令嬢だったことから、公爵令嬢アリシアの登場ははらわたがが煮えくり返るほど面白くなかっただろうな。
早速アリシア排除の計画を企てていると報告があった。
今までは女避けとなり寧ろ感謝さえしていた。何を吹聴しようが構わず無言を貫いてきた。
しかし、アリシアに危害を加えるものがあれば黙ってはいない。侯爵も娘もそれに連なる貴族らも排除してやるだけだ。
失脚させるほどの情報がこちらの手にあることを知らないとは……愚かな奴らだ。
まぁ、それはじっくりと追い詰めていくとしよう。
ひとまず……軽く圧をかけておくか。
『『……エランドル侯爵。一体、何が不満なのだ?確か……侯爵らが言ったのではないか?
他国の王女や令嬢を我が国に迎えるべきではなく、国内から良き家柄の婚約者を選ぶべきであると申したよな?
最高位の公爵家のご令嬢との婚約はこの国にとって喜ばしいことで問題ないはずだが?
それともアリシア嬢以外に私に相応しい令嬢がいるとでも?』』
お仕事スマイルで意見を求める。
エランドル侯爵は苦虫を噛み潰したような表情で口をつぐんだ。
『『何故黙る?意見があるなら先ほどまでのようにはっきりと申していいのだが?侯爵以外の者もあれば申せ!私の時間は有限ではない。』』
周りの貴族らはレオナルドの怒りを含んだ凄みのある声や表情に恐れをなす。目線を下げ、固唾を呑む。
『……では恐れながら……。殿下のお考えは理解いたしました。グランツ公爵令嬢をお気に召しておられるのもわかります。
しかしながら……王家とグランツ公爵家との繋がりが密過ぎて、不平不満に思う貴族がおるということ知っていただきたい。
同じ高位貴族であっても、宰相という立場を使いどこか優遇されているグランツ公爵家を妬み、よく思わない者たちが数多くいるのです。』
公爵家を妬み、よく思わない者……それはお前だろ!と突っ込みを入れたかったが、敢えて口を挟まない。考えるふりをして瞼を閉じ腕を組む。とりあえず侯爵の言い分を聞いておこう。
『それに公爵家には古くから良くない噂も……ございます。
白の病?でしたかな。そのような呪われている血筋と縁を結ぶよりも、皆が納得し、多大なる支持を得ている家柄の娘を妃として迎えていただきたいと誰もが願っているのです。
公爵家はどんな理由があって成人を迎えるまで存在を隠しお知らせしないのか説明をしていただきたい。これは極めて異常なことであり解せません。
今宵姿を現したばかりのぽっと出のご令嬢が殿下の婚約者候補であるといわれても納得できません。お子様方の母親が何処の誰かもわからないというのも心配でならないのです。
未婚の公爵が婚姻せず子を成したことも驚きですが、奥方に認められないほどの低い身分の側女に産ませたのでは……出生に問題があるのでは……と皆が口を揃えて申しております。
レオナルド王太子殿下には次代の国王陛下として、民の安全、安心な暮らしが未来永劫変わりなく続いていくのだと示す義務があることをお忘れなきように。
よくない噂のあるご令嬢……病がいつ発症するかもわからない短命の家柄の女性を妃として殿下のとなりに立つことは皆の……国民の不安を煽ることになります。
女に惑わされた権力者の末路は殿下もお分かりでしょう?ただ美しいだけの容姿に魅せられ虜にされているのならば、強国といわれる我が国も傾く原因になりましょうぞ。
ですから今一度申します。国内の貴族の支持が最も高い家柄で、身元がしっかりと保証されている令嬢を皇太子妃に選ぶべきだと私共は考えております。
周りの意見を聴かず、想い人だからと白薔薇の間に滞在させることで既成事実を作り、婚姻を強引に認めさせようとするやり方では誰一人納得はしないでしょう。認められません。
妃の決定は熟考せねばなりません。いささか性急過ぎると申し上げているのです。しかりとした手順を踏まねば国が荒れる元となりますぞ。』
こやつは何様なのだろうか?王家の婚姻問題に奴の許可など全く必要ないのだが……王家の決定事項に文句を言うなど許せん。
多大なる?最も高い支持を得た家柄?身元がしっかり保証された令嬢?だと!?……自分の娘がそうだと言いたいのか?あり得ない。
後ろに控える侯爵の金魚のフン供に持ち上げられて一国の王になったつもりか?
王家に対する侮辱。アリシア、筆頭公爵家に対する侮辱。根拠のないことへの憶測や批判で貶める行為。自分がグランツ公爵より上にいるようなの言い様。
調子にのりすぎたな……
『『成る程。侯爵の言い分はわかった。
だかな……此度のことは国王陛下の下した決定事項である。王妃陛下も大公殿下からも許可をいただいている。私はその手続きに参っただけだ。
国の大事を焦って決めたわけでもなければ、私の好意だけで次代の王妃を選ぶなど勝手が通るわけがないだろう?何事も国のことを第一に考えてのことである。
そもそも王家の婚姻に侯爵の許可など必要ないのだが?いつからそのようになった?私が外遊している際に国の在り方が代わったのか?
数ヶ月前からグランツ公爵家にアリシア嬢を私の妃、婚姻者にと打診もしている。性急に決めたことではない。
国母になるかもしれない女性に関して詳しく調べているのは当然のことだ。特に問題がないから妃にと選定されされた。
今までは(そなたの娘を筆頭に)私に見合う令嬢がいなかっただけだ。
美しく、聡明なアリシア嬢の人柄を知れば、反対するものはいない。何故、そなたがこんなにも頑なに反対するのか理解出来ないな。
白薔薇の間に滞在するのは、私の妃候補となれば身が危険にさらされる機会が増えるだろう。環境が整うまでの短い間、国の保護が入り令嬢の安全を確保するのが目的だ。
もう一つ。学園入学までの期間で王妃陛下自ら妃教育の指導に当たられる予定だ。母親のいないアリシア嬢を気遣い、出来るだけ近くに置き沢山のことを教え、支えてあげたいと言うお優しい王妃殿下の内情を組んでいる。
それでも批判があるのなら直接、国王陛下、王妃陛下に申し出ればよい。』』
更に追い討ちをかけよう。
『『侯爵は自分の立場を取り間違えていないか?グランツ公爵家を侮辱するような発言は控えられよ。侯爵の身が公爵家よりも高いと勘違いして意見しているように感じられるのは気のせいか?
公子、公女の母親のことはただの噂であろう?アリシア嬢のお母上は問題のない方だ。王妃陛下の古くからのご友人であったときく。出所もわからないくだらない噂話を口にするとは……情けない。
あちらは国の宰相であり筆頭公爵。立場的にもそなたの上であるはずだ。己より身分の高い者に対してあることないことを公の場で口に出し批判するとは信じられない愚行だ。
残念だがこの件は陛下に報告させてもらう。勿論、宰相にもな。軽口は身を滅ぼすとよくいったものだ。身をもって知ればよい。各々処分が下るのを待つんだな。』』
戦々恐々と表情を青黒くなる者達が慌てふためいていた。
ようやく自分たちの立場を理解したのだろう。
侯爵だけは額に青筋がみえる。怒りでなのか、焦りからなのかはわからないが、『……後悔しますぞ。』と一言、吐き捨て去っていった。
侯爵派の貴族らは右往左往しつつも、侯爵に続いて部屋を後にした。
長く王国を留守にし過ぎたようだ。以前のように厳しく取り締まるとするか。明日からが楽しみだな。
こちらこそ、後悔させてやろうではないか。
書類を持ち、父上、公爵から承諾の印をもらった。侯爵の件は後程報告に参りますと告げた。予定よりも時間がオーバーしている。母上のご機嫌が……マズイかもしれない。
あいつらのせいで、時間を無駄にしてしまったことに腹を立てながらも、これからの10日間の新婚生活(仮)のような幸せな生活を思い浮かべると胸が躍る。
いち早くアリシアのいる場所へたどり着かねば………




