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 『『……残念ながら、それは出来ないよリア。』』



 レオナルドが微笑を浮かべ、扉に寄りかかり声を掛けてきた。驚きのあまり呆然と固まってしまったアリシアを余所に、王妃様が『こちらに来なさい』と声を掛け、手招きをしている。

 側にレオナルドが歩み寄ると何やら密かに話をしていた。



 何の話をしているのだろうかと耳を澄ましてみるが全く聞こえない。

 気にはなったが、今こちらはそれどころではないのだ。

 この王太子妃部屋から抜けだすにはどうしたらいいのか頭を働かせる。……が、なにも思い付かない。



 二人の話が一段落したのか席に座るように促した。

 何故か、アリシアの隣にくるレオナルド……

 あちらのお一人様席が空いていますよーと目で訴えるが微笑むばかりでこちらの言いたいことに気付いてくれない。



 『レオナルド、報告しなさい。』



 お仕事モードの王妃様のキリッとした声音に、自然と背筋が伸びた。



 『『はい。まず無効化の薬に関してですが、出席者並びに護衛、御者、使用人など王宮に務めるもの全てに配り終わりました。城も正常に戻りつつあります。

 …………………ですから…………。

 …………。しかし………。

 そして…………。………………。

 ……………であります。

 それから男爵家に赴いた三名はまだ戻っておりません。数日間、男爵家の領地に宿泊し調査を続けると伝令がありました。

 国王陛下にも報告済みです。以上になります。』』



 一通り説明すると報告書を王妃様に手渡した。

 その報告書をくまなくチェックし、指をパチンと鳴らすといつの間にか王妃様の印章が手に握られていた。書類に判を押すと再度指を鳴らす。印章が消え、その報告書をレオナルドに戻した。



 アリシアは王妃様のキャリアウーマン姿に惚れ惚れしながら見つめていた。あの魔法が使えるようになったら便利だろうなー!習得しよう!と考えていた。



 《流石、大国の王妃!国母様!明るくて穏やかでお友達のように接してくれる王妃様も魅力的だけど、公務中の王妃様も出来る女性って感じで素敵すぎる!カッコいい~!!》



 『報告は以上なのね。わかったわ。ご苦労様。

 それで?アリシアちゃんの件は?』


 

 へ?……私の件??なんか報告あったっけ?悪さはしていない。余計なことも言っていない。おっちょこちょいも多分……してないはず。王妃様とレオナルドのやりとりを見ているうちに、妃殿下部屋のことがすっかり頭から抜け落ちていた。

 意味がわからなくて戸惑い目線を上にあげてみる。お二人の顔を交互に見ると良く似た表情でアリシアに微笑む。なにやらいや~な予感がする。お二人の圧の凄さに一言も発せず固まってしまった。



 『『国王陛下からアリシア嬢の王宮滞在に関して手続きをするようにありましたが、調整も内宮省にも手続きをして参りました。白薔薇の間への滞在許可もおりてますので特に問題はありません。

 アリシア嬢付きの侍女の選別も侍女長が行っております。間もなく挨拶にくるでしょう。』』



 《あー宿泊のはなしね☆な~んだ。ドキッとしちゃったよ。待って……内宮省に手続きって何なの……どんな手続きー!?ただの宿泊しまーす!オッケー!な感じで軽いものだと思っていたのに……やはり白薔薇の間だからか……未来の妃部屋だからだ……》



 自分の知らないところで次々と話が進んでいくことに驚き唖然としてしまう。



 『流石ね。仕事が早いわ。皆の反応は?批判無しということでよろしいわね。』



 満面の笑みで頷き、王妃様も満足気に頷き返した。そして、更にアリシアに向かって輝かしい笑顔を送ってくる。



『でもね。アリシアちゃんは白薔薇の間……レオナルドのお隣の部屋はお断りしたいそうよ。黒薔薇の間、もしくは公爵家に戻りたいと言っているの。』



 どうする?と王妃様が残念そうに首を傾げる。

 すると、レオナルドがアリシアの方に体の向きを変えて穏やかに諭すように話始めた。



 『『リア、先ほども言ったけれど、白薔薇の間以外の場所で過ごすことは無理なんだよ。もちろん公爵家にも帰れないよ。』』

 


 レオナルドの声音は穏やかだか、背中にどす黒いものがみえてしまうのは気のせいだろうか……真っ黒な竜が……

でも言い返さなければこのまま流されてしまうんじゃないかと危機感を感じ反論する。



 「で……ですが……。私がこのお部屋を使うのはやはりおかしいと思うんです!未来の王太子妃殿下の私室になるわけですよね?

 レオナルド殿下は婚姻適齢期ではないですか。素敵なお相手が出来た時に、他の女性……お子様の私が宿泊した事実があれば、レオナルド殿下の輝かしい婚姻の汚点になりかねません。

 ですから、そんな恐れ多い場所を使わせていただのはご遠慮させていただいて……別のお部屋へ宿泊したの方がよろしいと思います!!!」



 無理無理無理と首を振って全力で否定する。



 《だってレオは20歳でしょ?王族は早くに良家のご息女さまの婚約者をゲットして結婚!お世継ぎ!これ大事なんだよね。

 寧ろなんで今まで婚約者を置かなかったのかな。あー唯一の女性がいるって言ってたよね。未だに婚約者になってないということは、二人を阻む何かしらのものがあって、密かな愛を育んでいる最中とかかなー?

 そんな人がいるなら尚更。14歳のお子ちゃまで友達、妹のような私が、レオの側にいたら二人の邪魔するような存在として認識されちゃうよ……そうなったら、もー大変。悪役令嬢まっしぐら、訳もわからない罪でバッドエンドだから。死んじゃうからー!お気楽生活終了だからー。

 それに私は優しくて平凡な生活が出来る人と縁を結んで、可愛い物、美味しい物に囲まれてのんびりやりたいことだけするって決めてる。だから、ちょっとでも噂になるようなことは避けたい。だからやっぱり帰る一!!》



 ぶつぶつと心の内を呟いていたことに気がつかない。

 その独り言を隣のレオナルドに聞かれていたことにも気付いていない。

 


 『『……。王太子妃の部屋だからと気にしないで。今空いている部屋が()()()()この場所だったというだけだよ。

 それに、リアは勘違いしているみたいだけど、私には秘密の愛人なんていないよ。

 私の婚姻?良家のご息女だっけか?それは心配いらないよ。

 だってこの国の一番の良家のお嬢様はアリシアだからね。我が国唯一の公爵令嬢なんだから。

 まず私達が噂になったとしても誰も文句は言わないし、寧ろ喜んでくれるとおもうよ!今のところ誰も異を唱える者はいないしね。

 公爵令嬢の君が平凡な男との生活?婚姻?それは困るね。

 そうだ、私が平凡な男になればいいのか。平凡とは何かよくわからないからリアから学ぶ必要はあるな。世界中から可愛い物や珍しく物、美味しい物を集めてきてあげるよ。ほら問題解決!

 それに、婚約者の打診は公爵家、アリシア嬢にしているはずなんだけど?保留らしいからもしかして忘れてた?

 ってことはリアが私が密かに思う女性であると言うことになるね!』 』



 《そうだった。私……良家のお嬢様だった。しかも現段階ではレオの婚約者候補の最有力株。確かに打診もあった……》



 「しかし、……私達はありえません。年齢が離れずぎてはないですか……」



 『『たかが6つじゃないか?問題ないよ。』』



 二人のもどかしいやり取りを聞いていた王妃様がしびれを切らし話に入ってきた。



 『そうよ。アリシアちゃん。貴族の婚姻は、年齢なんて関係ないのよ。家柄も大事だけれど一番は善き相手かどうかなの。

 私と陛下も8つ離れているし、あなたの知っているイシード・クライサスのご両親は16歳も離れているのよ。

 クライサス公爵の奥方はあなたの歳の頃にイシードを出産したのよ。確か……一昨年、二人目の子息が誕生してたと聞いたわ。お二人は親子ほどの年齢よ。それでも仲睦まじく幸せそうよ!

 年齢は断る理由にしては駄目よ!』



 クライサス公爵に挨拶をしたときのことを思い出していた。一歩下がって慎ましやかに立つ女性がいた。

 イシードに似た容姿の美しさと瞳の色に引き込まれた。30とは思えぬ童顔。余りにも可愛らしい方で二人の子を持つ母親には見えなかった。イシードのお姉さんだと思っていたアリシアだったが、まさかお母上だったとは……しかも16歳差の結婚を知り、驚きを隠せなかった。




 『『兎に角、今はリアの安全が第一だし、あの女のせいで王宮内も貴族街も余裕がないんだよ。動ける者も護衛の騎士も限られているんだ。

 黒薔薇の間は領地へ戻れなかった貴族や近隣の王公貴族で空きがないし、青薔薇の間は、現在、私以外の王子や王女がいないために特殊な魔法で閉鎖されているから使えないよ。

 あの女の標的にされているのはリアだよね。

 リアの安全を考えた時に、母上のところが一番安全であると判断されたんだよ。

 だからと言って、国王陛下の私室で一緒に過ごすわけにもいかないし……私の隣の部屋ならば新たに騎士を置かなくても、このままの人員配置で安全が守れるよ。

 国内最強の先鋭がそろう近衛団が目を光らせて護ってくれているからね。妃の部屋とかあまり深く考えないで。

 リアの気持ちを無視して王太子妃の地位に立たせようなんて、私達は一ミリも考えていないよ。

 だから10日間だけ、気楽にこの部屋で過ごしてくれればいいよ。私も忙しくて部屋に戻れないだろうし……隣の私のことは気にならないはずだよ。ねっ、リア?』』 



 「……で……ですが、、自分の身は自分で守れますし……屋敷にはお父様もお兄様もおりますし、命を狙われるなどの問題はおこらないかと思いますし……」



 『『ハハハ!リアって以外と堅物なんだね~(笑)新たな一面を見れて嬉しいよ!』』



 突然、笑い出したレオナルドに母親の王妃様が驚きつつも嬉しそうに表情を緩めていた。



 《……堅物?わたしが?なんとかなるなると生きてきたお気楽なわたしが?お堅いってことなの……》



 『『公爵は宰相の立場として、国の大事には長として動かなければならないし、それを補佐するクリスも屋敷に帰れないほど忙しくしているはずだよ。

 公爵家にも先鋭された騎士も多いが、現段階で魅了の力がどこまで広がっているかわからない。

 先ほどのリカルドの暴走は、本来だったら処罰の対象だ。操られてたとはいえ、公爵令嬢に刃を向けて襲いかかったんだから。フィリップス公爵家も何かしらの処分は受けていただろうね。

 だが、私の執務室での出来事であったから、事が公になることはなく内々で収められた。

 しかし、どうだろう。リアの出歩く先で今回のような事が起これば、理不尽なことであっても処罰しなければならなくなる。

 リアが王宮で過ごすことで、リア自身を守るだけでなく周りの者も守ることに繋がるんだ。だからリアはこの部屋で過ごすという選択肢しか無いんだよ。』』



 《……。あー詰んだ……》


 

 新たな反論は出て来ず。

 こうしてアリシアは白薔薇の間に滞在が決まったのだった。

 国民始め世間さまは、グランツ公爵令嬢と王太子殿下の婚約内定!婚前同居!運命の相手!と勘違いして盛り上がっているとかいないとか……

 王宮内に勤める使用人達も冷徹王太子に訪れた初めての春に、喜びを隠せず、密かにお祝いの盃を挙げてお祭り騒ぎだったとか……。

 次話は、レオナルド(息子)と王妃(母)の密かな会話を投稿したいと思います。

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