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  「……あの!イシード様!あちらで!二人で!!二人だけでちょっとお話しませんか!?」



 そう言うと、アリシアはイシードの手を強引に引っ張って部屋の奥の隅に足早に連れて行った。


 アリシアの頭の中はパニック中……


《今、無効化って言おうとしてたよね?……マズい……マズい……マズすぎる……バレた?バレてる??ばれちゃったの……どうやって誤魔化したらいいのー?!》



 『……は?……えっ……ちょっ……なに……待っ……どこに……』



 急に手を握られ引きずられるように連れて行かれたことにあたふたしている。イタズラ好きでおふざけ体質のイシードは自分がちょっかいを掛けるのはいいが逆にされると特に女性からだと取り乱すらしい。

 アリシアもプチパニック中なもんでイシードの言葉は耳に届かない。その場に残された3人も茫然としていてアリシア達を目で追うことしかできなかった。

 スタスタと二人だけになれる部屋の奥に着くと防音魔法をかけ話を切り出した。



 「……あの。イシード様はなぜ私の力が他と違うとおっしゃるのですか?私は普通ですよ……特別なものなんてありませんけど……」



 『ちょっと急になにー?!何が起こったんですか!?……ふーっ……待って一旦落ち着くから。』


 『……えーっと……あーアリィの特別な魔法のこと?そうだね、あらゆる魔法も解除する力だと仮定すると……無効化なのかなって思ってる。でも僕はそれが何属性に当てはまるのかわからない。だから知りたいだけだよ。

 初めは光魔法?って思ったけど、光魔法は治癒能力だけに特化してるんだよ。アリィのは防御系の魔法のようだし……だとしても治癒と防御は結びつかないんだよね……防御力が高くて物を造り出すとなると土魔法だけど、魔力の流れは土じゃないし……防御を物に込める魔法は光魔法じゃないしね。

 因みに物に魔力を込められるのは最上級魔法を操る人の中でも一握りの人にしかできないことなんだよ。悔しいけど僕も出来ない……

 14歳の成人を迎えたばかりの女の子がパパっと簡単に出来るものじゃないからね。アリィは全然普通じゃないよ!

 ““と・く・べ・つな存在””だから……』

 


 アリシアはドキドキ、ハラハラして冷や汗が止まらない。

 物に魔力込めることが普通じゃないなんてそんなの知らない。みんなは凄いね~位で反応は薄かった。魔力の込め方はアルフレッドから教えて貰った。勿論、クリストファーも出来る。アリシアはみんなが出来るものだと思っていたのだ。

 仕方がないから知らぬ存ぜぬを貫き通すしかない。真剣な面持ちでイシードの話を興味深く聞いているふりをしてフムフムと頷きながら尋ねて……いや探りを入れてみる。

 イシードが光魔法をどこまで知っているのか……光=治癒だけだと思っているから誤魔化せる可能性は大である。



 「ひ……光魔法ですか?」



 『光魔法って聞いたことない?言い伝えだと何百年かに一度その治癒能力を持つ子が現れるらしい稀少な力のことだよ?

 どんな病気も怪我も一瞬で治せるらしいよ。この国では初代国王陛下の妻、つまり初代王妃様が治癒能力を持っていたみたいだね。それからは現れていないみたい。

 何年か前に隣国の王女が光魔法を発動させたと話題になったことがあったんだけどそれもただの噂だった。』



 その話をきいてアリシアはドキッとする。まさかエメラドーナの自分の話が出るとは思っていなかったのだ。



 『興味本意であの時はかなり調べたんだけど、その王女が女神の如く美しい容姿から見ているだけで癒される~的なことで治癒能力?聖女現わる?と勘違いした人達が誇張した話を近隣諸国に伝えてしまったしたらしいよ。

 でも、その王女は呆気なく病気で亡くなってしまったみたい。まず治癒能力があれば自分で治せるはずだから、死ぬことがないよね。だから結局、王女は光魔法保持者ではなかったと結論がでたのさ。』



 《えっ………。エメラドーナの私って死んだことになってるの?!なぜに?姿を見せなくなったから?何で?どういうこと??……まぁ、イシードが光魔法を除外してくれたからセーフってことにしちゃおう。今のこの世には存在しないって言ってるし……大丈夫だね。》 



 『あとね話が変わるけど、僕の鋭い観察眼から言うと……レオ様も何かしらの特別な力を持ってるんじゃないかな!ねぇアリィもそう思わない?』



 《レオのも気付いているんだ。やっぱりイシードは魔法研究センス抜群なんだな。力がバレたら最後だね。研究対象にされて、バッドエンドルート突入もあるかもしれない。気を付けなくちゃ。》



 『昔からレオ様の魔力の流れに違和感があって……どうしても気になって知りたくて……小さい頃に質問してみたんだよね。『殿下の魔法はおかしい!人間じゃない!何属性ですかー?』って。

 そしたらさ、お仕事用のとびきりの笑顔の仮面を貼り付けて……


 ““お前何言ってんの?頭のネジが外れて阿呆になったわけじゃないだろうな。おかしなことを言う悪い子にはお仕置きだよ””


 って醜いアヒルの口にかえられちゃったんだよ……それも5日間も! “ クェークェー ” しか言えないし……黄色いくちばしのせいで家族にも友達にも笑われて、当時想いを寄せていた好きな子には泣かれて逃げられるし……散々だった。

 あの笑顔を思い出すだけで震え上がっちゃう。魔法研究を趣味としている僕としては知りたいから内緒で調べたりしてるけど、ちょっとでも調べてることがわかるとお仕置きされちゃうんだ。スゴーク怖いの……だからレオ様にはお仕置きが怖くて聞けないし……バレたらアヒルだし……だからレオ様には禁句なんだよ。

 研究の““け””の字を出すだけで僕の人生終わってしまう……』



 《レオのお仕置き可愛すぎる。アヒル口って……イシードに最高に似合うね(笑)

 お仕事用の笑顔ってなんだろ?レオは常に優しい笑顔だよ?巷では冷徹と言われているけど実際は爽やかイケメン王子だったよね~!》



 『レオ様が駄目なら僕の父親が魔法省の大臣なので情報貰えないか探りをいれたんだけど、秘められた魔法が何種類かあることはだけは教えてくれたものの ““この先は魔法省トップの座に就くまでは秘密だから教えられない国家機密だ”” って言うもんだからなかなか秘密の力の研究が(はか)どらなくて!

 だからこのタイミングで現れたアリィの謎の力を僕のためにさらけ出して!アリィの力は未発見の新たな属性の魔法かもしれないよ!僕が研究して答えを導き出してあげるべきなんだ!!きっとこの出会いは運命なんだよ!

 お願いしますよ~唯一の僕の希望なんだよ~アリィ様……アリシア様……女神さま!!力を研究させてくださ~い!!お願いしま~す!!!』



 深く深く頭を下げ始め、うるうるした瞳をアリシアに向けてくる。


 《……くぅー!!小悪魔イケメン降臨しました!!眩しすぎてカッコ可愛くあざとイケメン!》と心の中でイシードの誘惑と戦っていた……



 「……いやいやいや……本当に私には特別な能力(モノ)はありませんから協力なんて……例え特別の力があったとしても生活に支障はないですし……知らなくても困りませんし。

 それにお兄様がなんとおっしゃるか……

 クリスお兄様はとっても過保護なんです。男性と仲良く話したり一緒にいるだけでお怒りになり監視がついてしまうんです。私は楽しく、自由に生活をしたいのでお兄様を刺激したくありません。

 イシード様がレオ様を恐れるように私もクリスお兄様がとーっても怖いのです。先程も怒られたばかりですし……魔王様降臨だけはどうしても避けたいのです。ですから研究は諦めてくださいませ!」



 《そもそも研究協力出来るわけないよ。光魔法も雷魔法も内緒だもの。それこそ国家機密だよ!怒られちゃうよ……》



 『えーーじゃクリスが了承すればいいー?』



 「……やめておいた方がいいですよ。本当に魔王様なんですからお兄様は……多分……私の力を研究すると話したらレオ以上に恐ろしいお仕置きが待ってますし、お怒りになるかと。

 それに今日限り!一生!イシード様と私はお会いできなくなるでしょうね。……残念です。お友達になれるかと思いましたが……」



 『まじかー会えなくなるとアリィ観察も出来なくなっちゃうじゃん……それは嫌だな。

 クリスにも何か特別を感じるんだよね……兄妹だから?

 うーん……仕方がない!!クリスには隠れて研究するしかないでしょう!それがいい!そうしましょうねー!』



 「…………………。」



 《イシードは我が道を行くタイプだ。勝手過ぎる思考の持ち主だったのか……話を聞いてくれないみたい。イケメンなのに勿体ない。あれ?もしかして?特別な力を保有する人が研究対象と言うのなら……》 



 「あのーもしかして……特別な力の研究に興味があるのなら……アモーレ嬢にも興味を持たれたのではないですか?」



 『あっ!わかっちゃった!あの子は面白い娘だよね~魔石は一体どこで手にいれたのかな?しかも魅力の力って禁術でしょう?

 太古の(あずま)の国の力か~。ワクワクしちゃう♪

 その禁術が使える魔法使いはいないと言われているみたいだけど、その力が現在も存在しているんだから、この世に禁術師がいるかもしれないよね!

 あー会ってみたいな~僕に禁術を御指南してくれないかな~あの魔石も詳しく調べたいし欲しくて欲しくてたまらない!

 だから、僕はアモーレ嬢に会いに行く!!そう初めから決めている!!』



 《絶望しかないわ……アモーレに会いに行くって……やめて欲しい。お守りのブレスレットにピアスがあるから操られることはないし大丈夫だと思うけど……あの変人イシードのことだから魅力の力を体験したいとか言いそうだわ。

 急に死亡フラグが立ってしまうのが乙女ゲーム世界の怖いところだね……》



 やはり攻略対象との関わりは、最低限にしておくのがベストであると再確認できた。イシードとはある程度の距離を取り過ごそうと決めたのだった。

 しかし、イシードはいい研究対象を見つけてしまったので、逃して堪るものか!と言わんばかりにぐいぐいモーションを掛けてくるのだ。 



 『だから、お願いします。少しでいいから話を聞かせて欲しい!アリィの魔力の流れも知りたいし、アリィの全てを研究させてください。僕の一生のお願い!!』



 アリシアの右手をガシッと掴み両手で包み力を入れてくる。イシードは ““ 特別な能力 ”” を持つ類い稀な存在のアリシアをキラキラしい眼差しで見つめ顔を接近させてくる。決して愛とか恋ではない。あくまで研究対象なのだ。



 「……イシード様距離が近過ぎますよ。……少し離れてくださいませんか……。」



 イシードのことだから手を握って魔力の流れを解読しようとしているに違いない……一応、遮断魔法を自分に掛けて流れを読まれないようにしたけど、イシードの能力はかなり高い。気を付けなくてはならない。だから、手を離してもらおうとしているのに繋がれた手に力が入っていてなかなか離してくれない。



 『お願いです!僕……アリィの魔法が……僕は……』



 ““『僕は、大・大・大・大・大好きです★』””



 二人の周りに敷いていたはずの防音魔法がいつの間にか解かれていた。誰かが解いたのだろう。クリストファーあたりだろうか。““ 大好きです ””の部分だけが切り取られてしまったことで、イシードがアリシアに愛の告白をしているかのように見える。シーンと静まりかえった執務室に大声量で響き渡っていた。



 手を繋ぎ、イシードのキラキラした輝かしい瞳に、顔をほんのり赤らめて近付き見つめ合う……二人だけの世界で密かに語り合っているように周りには見えたことだろう。



 《あー。魔王様の視線とゴロゴロと恐ろしい音が聞こえてきたような気がする……これって絶対勘違いしたやつじゃん。》


 クリストファーの……魔王様の冷気で背筋が凍り付く。

 男性と二人で内密に話をしたり行動することを禁じられていた。アリシアは忘れないように念書も書かされている。

 しかも防音魔法も使って二人でこそこそしていたこの状況はとてもまずいのだ。早く誤解を解かなければ大変なことになるということは目に見えていた。


 《終わったね私。自由な生活よさようなら……また魔王様の監視生活がはじまってしまうかもしれないな……

 なんだが他にも冷ややかなオーラを感じる……後ろを振り向くのがすっごく怖いし……イシードの顔色も徐々に悪くなっている。あーあ。なんて釈明しようかな……》

 と考えゆっくり……ゆっくりと振り返った。



 『……二人は一体……こそこそ……こそこそと……そこで何をしているのだ!防音魔法まで使って!!』


 セルカークが怒りでプルプルと震えながら問う。



 初めから執務室に残って作業していた3人は““クワー””っとめん玉が飛び出しそうほど驚いてこちらを凝視し動かない……



 『……はっ?!……何?何だって?大……大好……き……とか抜かしやがった?……私の大事な大切なアリィに?目に入れても痛くも痒くもないあの天使で女神で可愛い……かわいい私の妹のアリシアに………?大切なアリィに……?

 ……はっ?聞き間違えじゃないよね……今日会ったばかりの二人が……仲良く?見つめあって?手を繋いで?頬染めあって?大好き?信じられない……

 もうこれって暗殺?抹殺案件?だよね……排除対象確定ってことだね……

 これだから人たらしのアリシアを外の世界に触れさせたくなかったんだ!これまで以上に監視を強化するために計画書を作成して父上に了承もらって……まずは相談しないと……私の可愛いアリィの為だ……私が護らねば……』

 


 クリストファーが現実を受け止められないと真っ青な顔で絶望と怒りを含んだ目線をアリシアとイシードの交互に向けながらボソボソと独り言が止まらない。物騒なことを口づさんでいる。



 『『はあー!!?場を離れたこの数十分に一体何があったんだ!私は薬の準備を指示して言ったはずなのだが……なぜ二人で……大好きとは……!?……イシード。……どういうことか説明してもらおうか??!』』



 最後はレオナルドの最強に恐ろしい満面の笑顔が私達2人に突き刺さる。目が笑っていない……これがさっき言っていた笑顔の仮面なのかとアリシアは納得した。クリストファーに匹敵する恐ろしさに2人の悲鳴が重なった。



 『「………ヒイィィィィーー!!」』



 魔王のクリストファー、竜王のレオナルド。そして鬼王のセルカークが一斉に私達に詰め寄ってくる。

 隅の更に隅の方に追いやられた二人は恐怖で小さく縮こまるしかなかった……

 イシードと手を繋いだまま二人は身を寄せ合いくっついている。その行動が更に怒りを買っているとは知らずに……



 クリストファーが『いい加減に離れなさーい!!』と繋いでいた手を無理やり引き裂いてアリシアをイシードのいる場所から一番遠い場所にスタスタと無言で歩いて離れていくと、まさか両手使いの壁ドンが……


   ”” キャッ! ””


 アリシアは予想外のクリストファーの壁ドンに胸がきゅん♡とトキメいてしてしまう。

 だがすぐに現実に引き戻される……だってこの3人がいるもの。

魔王の鉄壁のガードが発動し、竜王・鬼王の恐怖の笑み攻撃(アタック)が二人を襲っているのだから……



 アリシアは自分の中の怒らせてはいけないベスト3が本日ここで決まってしまったわ……っと心の中で思った。

 きっとあちらで縮こまっているイシードも同じこと考えているのだろうな……と不運な自分に溜め息を一つ付いた。

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