65 【 リカルドside ~No.2~ 】
久しぶりの投稿です★
デビュタント並びに王太子殿下生誕20年の舞踏会の日がやって来た。
子爵家、男爵家の令息・令嬢は既に会場入りしていて。伯爵家以上の高位貴族の令息・令嬢は階段上から紹介を受けて御披露目となる。大国なだけあって、毎年かなりの社交界デビュー者がいる。
今年は王太子殿下のご生誕祝いも兼ねていることから、デビュー以外の成人を終えている年頃の子息、令嬢その保護者が出席しているために会場の熱気がもの凄い。
今年のデビュタントの最後に登場したのはエランドル侯爵家の長女。マドリッド・エランドルであった。
マドリッド嬢はエランドル侯爵のエスコートで階段を降りた。娘の晴れ舞台を嬉しそうに見つめていた侯爵婦人が二人を階段下で迎え満足そうにしている。
マドリッド嬢とエランドル侯爵夫妻の周りには、沢山の貴族連中が群がりお祝いの言葉を掛けていた。
成人を迎えた令嬢の中で、現国内最高位のご令嬢であるマドリッド嬢。
他国の王女や令嬢を我が国に迎えるべきではないと反対の声が多く、国内からご婚約者を選ぶべきであると考える貴族が大半であった。
そのことから、マドリッド嬢がご婚約内定者なのだとこの場にいるものは皆思っているのだろう。当の本人もどこか誇らしげな表情をしていて、まるで““本日の主役は私。王太子殿下の婚約者なのだから!敬いなさい!””と言っているかのように見える。
マドリッド嬢に会場中の視線が集まりちやほやが続く……が、しかし……会場の雰囲気が一変する出来事が起こるのだった。
会場に鳴り響いていた穏やかな曲目が、華やかなものに変わったと思えば、御披露目の扉がガチャと大きな音をたて再び開かれた。
『『グランツ公爵閣下、並びにグランツ公爵子息・クリストファー卿。並びにアリシア嬢。』』
突如現れた麗しの公爵子息、令嬢に会場中の視線が集まっている。紹介の声が会場内に響き渡り皆が驚きを隠せず呆然としていた。
一礼をして階段をゆっくりと降りていく。
グランツ公爵家の隠された子息、令嬢は珍しいことはないのだが、公爵が未婚で妻を娶っていないため、様々な憶測が飛び交い会場がざわついていた。
グランツ公爵と公爵子息クリストファーの間にアリシア嬢が入る形で、両手をお二方の腕に添えていた。
クリストファーはグランツ公爵に瓜二つであった。
アリシア嬢はお二人とは少し違くみえる。
ふわりとした金糸のような髪にまるで宝石を埋め込んだような紫色の瞳が印象的だ。瞳と同じ色のドレスと靴を履き、王太子殿下の色である銀のダイヤをふんだんに鏤めている。女性に興味のない私でも心が揺さぶられるぐらい美しいご令嬢だった。大人びた容姿は成人を迎えたばかりということが信じられない。所作も流石公爵令嬢というほど完璧だった。
階段を降りる際に王族の席を凝視していたのを見逃さなかった。王太子殿下と目が合い、戸惑い俯いた姿が気になった。厳しい視線をアリシア嬢に向けて終止警戒しているように見える。
国王陛下と王妃陛下は満足そうに微笑んでいて右手を挙げて応えていた。
国王夫妻のあの振舞いは、会場にいる皆は王太子殿下のご婚約内定のご令嬢はアリシア嬢であると決定付けた。そして、殿下の色を纏い登場したのであれば、王家から許された唯一の女性であると公に発表しているようなものだ。
つい先ほどまで筆頭婚約者候補と持ち上げられていたエランドル侯爵令嬢は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてアリシア嬢を睨み付けていた。
デビューを迎えた子息、令嬢が家族と共に王族の元へ挨拶に行くのが慣例である。筆頭公爵家のグランツ公爵家から始まり言葉を交わしたのち下がる。
その後は爵位順に挨拶が続いていく。
私はいつの間にかアリシア嬢を注意深く目で追っていた。
王太子殿下は想いを寄せている平民の娘を側に置きたいと考えていることは知っている。
だが……結ばれることは天地が引っくり返っても絶対にない。特に王族の婚姻は愛よりも家柄である。政略的な婚姻だ。
公爵令嬢のアリシア嬢は立場的に最も王太子妃に相応しい方なのである。
やはり私も平民の娘では務まらない、無理だと考えている。
後ろ楯がない娘を妻にすれば、即位後に様々な批判や反発が起こるだろう。国が荒れる原因になる。平民の娘を娶るのはとても危険な選択である。
身元がしっかりしていなければ、貴族、国民の尊敬を得られない。殿下の妻となれば、側でお支えし、国母として共に国を納めていかなければならない立場なのだ。
アリシア嬢を妃に迎えるのがベストだ。だからこそ本当に王太子殿下に見合う相応しいお相手なのかを判断させてもらうことにした。
愛しい平民の娘を忘れさせる位の心を持ち合わせていれば、いずれ王太子殿下がお心を動かされるだろう。美しいだけの令嬢ではないというところを自らの目で確認しなければならないと勝手な使命感を抱いていた。
そんなアリシア嬢は、先ほどからため息をつき絶望を全身に纏い、うなだれ、悲愴感が漂う。カーテンと巨大な花瓶が置いてあるテーブル脇に身を潜め目立たないように佇んでいる。アリシア嬢の容姿ならば難しい。現に子息たちはお近づきになりたいのか、そわそわしていて落ち着かない様子でアリシア嬢を熱い眼差しで見つめていた。
表情が暗くどんよりとしていて、周りが近付けさせないような雰囲気を醸し出していてなかなか子息たちは行動に移せないようだった。
ふと花瓶にささっていた紫の花をボーっとして眺めていた。しかし数分後……その花に興味が湧いたのか匂いを嗅んでみたり指で触わったりを繰り返していた。表情が徐々に明るくなっていくのが感じとれた。
花が好きなのだろう。見守っていた私もホッと一息つき表情が緩む。““……ん??なぜ私はホッとしたんだ……?””
安心したのもつかの間……今度は突然その場に座り込んで動かない。体調が悪いのだろうかと駆け寄ろうとしたのだがどうやら大丈夫なようだ。私は踏み出した足を止め様子をみた。
アリシア嬢は花の裏を観察するためだけに座っていたのだ。その後、すーっと華麗に立ち上がると目線をキョロキョロさせ辺りを警戒しつつ、花瓶からそっと一輪抜き取り、編み込まれた髪に差し込んだ。更に、花びらを五枚ほど……葉っぱを二枚ほど取りハンカチに包みドレスの中にしまっていた。時折、ポケットの中を覗き満足そうに嬉しそうに表情を明るくしている。
我が国の筆頭令嬢として常に人の目を気にしながら、背筋を伸ばし、お手本となるように凛として佇んでいるのが正解である。成人を迎えた公爵令嬢の振る舞いや行動は貴族として許されるものでない。
しかしながら、仮面を被り、自分を偽り媚びてくる女性よりずっといい。
大人びた容姿とは違って年相応の愛らしい行動をするアリシア嬢には何故か心根が暖かい気持ちになり表情が緩み好感が持てる。出会ったことのない不思議なご令嬢だと思っていると……
『なぁ……リカルド……』私の隣にいつの間にかいたアクアジークが声を掛けてきた。
二人の周辺には繊細な魔力を張り巡らせてあって防音魔法で覆われていた。周りには聴かれたくないことを話そうとしていると察した。
『『うん?何だ。何かあったのか?』』
『ああ。あの公爵令嬢なんだが……どこかで会ったことなかったか?』
『『……いやー。……あの髪色と珍しいアメシストのような紫の瞳は見たことも会ったこともないぞ。』』
『……だよなー。いや、少し気になっただけだ……』
そんな話をしていると会場がざわざわとしていた。
王族席から会場下に降りてきた王太子殿下がアリシア嬢目掛けて近付いていく。アリシア嬢に声を掛けようとしていた子息たちは王太子殿下の向かう先を感じ取り、壁際にさっと避けていく。
王太子殿下の存在に気が付いたアリシア嬢は慌てふためいていた。右には花瓶があり、左と後ろは壁とカーテン。前からは殿下が颯爽と目の前まで歩み寄り、アリシア嬢の前で立ち止まりファーストダンスを申し込んでいた。
『!!……レオ様がご自分からダンスを申し込むのは初めてだよな?』とアクアジークが驚いている。私も初めての光景に驚きを隠せない。
差し出された王太子殿下の手に自身の手を添えて、美しいカーテシーでダンスの了承に応えた。
お二人のこの世のものとは思えない美しさに周りからは詠嘆の声がもれていた。だが、アリシア嬢は王太子殿下に誘われて嬉しくないのかひきつった笑みを浮かべているようにみえた。
王太子殿下もそれを感じとったのだろうか……小さく笑ったように見えたのだが……気のせいか。
重ねていたの手を優しく掴み、ひきよせられ腰に手を回すと会場中心のダンスホールにお二人で立っていた。王太子殿下が合図を送ると国王陛下が指揮者に向かって手をあげ華やかな曲に変わり王太子殿下とアリシア嬢は踊り始めた。
会場にいる大勢の人達の視線を浴びながら踊り、ドレスがふわりとなびくたびに『おー!わー!』っと歓声が沸き起こった。ダンスの腕前も素晴らしく王太子殿下と息がピッタリだ。
一曲目が終わり、カーテシーをして下がろうとするアリシア嬢を強引に引き留め、二曲目のダンスに入っていた。
混乱し、戸惑っているアリシア嬢とは逆に王太子殿下が大事そうに見つめ柔らかく微笑んでいた。アリシア嬢を更に引き寄せ距離が縮まっていくようだった。
なにやら、お二人は話をしているようで盛り上がっている。これまでに貴族の女性に対して興味を示したことは一度もなかったはずなのだが……
『ハハハ!ハハハハハ!!……』
““ ??!! ””
王太子殿下の笑い声が会場に響き渡っている。満面の笑みを浮かべながらアリシア嬢を力強く抱き締めていたのだ。
『『『!!!!!』』』
『おいリカルド!……レオ様のあの笑い方……やっぱりそうだ!!アリシア嬢はあの時の城下の娘だよな!』
『……ん?えっ……?!……あぁそうだ!そうだな!!アリシア嬢がレオ様の想い人だったんだよ!間違いない!……しかしなぜ平民の娘のふりを………?』』
疑問は残るが、お二人の城下町での熱い抱擁を不意に思い出し情景が瞼に鮮明に浮かび上がり喜びが拡がっていく。
驚きと興奮でアクアジークと顔を見合わせる。
殿下には幸せになっていただきたい。あれから……あの時から言葉には出せなかった友としての心からのお祝いが溢れてくる。
あのように破顔して人前で笑い声をあげている姿をみたのは初めてのことだった。隙のない完璧な王太子殿下の姿ではなく、我々と変わらないただの一人の年頃の青年の姿であった。その姿をみれたことに嬉しく感じていた。
これからは全力でお二人を応援し護っていこう!とアクアジークと私は拳を力強くぶつけ合い誓うのであった。




